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西部遺跡管理事務所 業務日誌  作者: 青桐 臨
第一章 新入職員 ソナ・フラフニル編
22/150

第22話 リケの探索士試験受験申込み

改行等一部修正しました。

 ドードーが去ってしばらく後、次に窓口にやってきたのは、若い女性2人組の探索士だった。


 西部の遺跡の一覧や遺跡の特色とかわかる資料がないかと尋ねてきた。


 ソナはカギモトから事前に教わっていた来客用資料コーナーの方を手で示した。


「無料でお持ちいただけるものもあります。お配りしていない資料で写しが必要な場合は手数料がかかります」

「そうなんだ、ありがと」

「西部ってのどかでいいねー」

「物価も安いしね、中央とは大違い」


 軽い口調で礼を言い、女性2人組は賑やかに資料コーナーへと向かっていった。


 確かに西部地区は都会の喧騒から離れた静かなところだ。しかし、この辺りの遺跡は地味というか、探索をしてもあまり実入りの少ない遺跡ばかりというのが世間の認識である。

 初心者や堅実に活動したい探索士にはちょうどいいのかもしれないが、華やかな生活を求めるには無理な拠点といえる。

 あの女性達がどういう事情で西部に来たのかはわからないが、前向きな理由ではないのだろうと、勝手に推測していた。


 入れ替わるように、素朴な身なりの少年が受付窓口に来た。


「あ、あの……次の探索士試験を受けたいんだけど」


 やや緊張した面持ち、短い癖毛に、意志の強そうな瞳。


 探索士試験は月に一度各地で実施されている。

 受験の申込みの受付も遺跡管理事務所の業務だと、カギモトから聞いていた。

 しかし。

 探索士の門戸は広く開かれているというが、目の前の少年の体格や表情など、どう見ても10代前半のそれだ。


「失礼ですが……おいくつですか?」

「14、かな」


 かな、というのが引っかかった。

 14歳というのは探索士試験を受験できる最低年齢とされているはずである。


 いいのだろうか。


 ちらりと隣を見ると、

「何か、年齢が確認できるものは持ってきてますか?」

 とカギモトが優しく尋ねた。


 少年は驚いた顔でまじまじとカギモトを見ている。

 カギモトの魔力が全くないからだろう。子どもの反応は素直である。


「え……、えっと、そういうのはないよ。でも身分証は無くても大丈夫だって仲間から聞いた」

「そうですか……」

 カギモトは少し言い淀んだが、すぐに笑みを浮かべる。

「受験自体は、できます。身分証を持たない方も少なくないですから、実力が十分であれば資格を得ることはできますよ」

「そっか、実力なら大丈夫だ」


 問題ないと聞いて緊張が解れたのか、少年の口が途端に滑らかになる。


「仲間内では俺が一番魔法が得意なんだ。喧嘩もな。俺なら絶対に探索士になれるってみんなに言われたんだ」

「それはすごいですね」とカギモトが相槌を打つ。

 それで気を良くしたのか、少年は話を続ける。

「俺、有名な探索士になってたくさん稼ぎたいんだ。そしたら俺の仲間……弟とか妹みたいのもいっぱいいるんだけどよ、クルベ通りの仲間にもっといい生活させてやるんだ」

 

 “クルベ通り”と聞いて、なるほどとソナは思った。


 クルベ通りは西部地区でも有名な貧民街を抱える通りだ。

 地域を牛耳るならず者達の派閥争いが頻繁にあり、警察もなかなか手を出せない治安の悪さと聞いている。


 そんな中で生まれ育った子供なら、出自も学歴も不問の探索士という職業に、一攫千金を夢見て挑戦する者もいるだろう。


 ただ、言うまでもなく探索士の仕事は命懸けだ。

 それがわかった上で目指すのならよいが──


 ソナはまだあどけなさの残る少年の顔を見ていた。


「──フラフニルさん、ご案内を」


 カギモトに囁かれ、ソナははっとする。

 

「えっと……次の試験、というのは来週末の試験でよろしいですね?」

 ソナは壁のカレンダーを見ながら聞く。申込み期限にはぎりぎり間に合っている。

「うん!1番近いやつ」

「それでは、申込書に記載をお願いします」 とソナは今度は自分で用紙を見つけ出し、少年に差し出した。

 それを見て少年は少し困ったように鼻の頭を掻く。


「俺……字が書けねえんだよな。読むのはまあ、できるけどよ」

「じゃあ代わりに書きますね」

 カギモトがすぐに言う。

「フラフニルさん、書いてくれる?」

「あ、はい」


 ソナはペンを手に取った。

 貧民街の生まれなら、多少読むことができるだけでも良いほうだろう。

 試験にも筆記はないから、この申込書さえ作れば、受験自体には支障はない。

 

「では、名前を教えてくれますか?」

「俺はリケ。姓はないただのリケ」

「リケさん。それじゃあご住所は──」


………………


 その後、リケから聞き取った内容をソナが書類に書き込み、無事に受験申込書を完成させた。

 今度は破かずに、受験票をリケに渡した。


「念のためお伝えしますが」とカギモトがリケに言う。

「受験自体は無料なんですけど、合格して、探索士として働くには、初めは色々とお金がかかったりします」

「ああ、“しょきひよう”ってやつだろ?」

 リケは知っている、というように頷いた。

「そのとおりです。武器や道具、交通費や宿代なんかが必要になります。一応補助金やお金を貸すという制度もありますから」

「そっか。まあ……何とかなると思う」


 少し、曖昧な言い方が気になった。それはカギモトも同じだったらしく、

「何か困ったことがあれば相談してください」

 と丁寧に告げた。

 そして受験要項の薄い冊子を渡す。


「大事な事が書いてあるので必ず読んでくださいね。もし読むのが難しければ……」

「平気! 読むのが得意な友達がいるから、わからなかったらそいつに読んでもらうよ」


 リケはカギモトから冊子を受け取った。

 それからソナとカギモトをじっと見上げる。


「ありがとな、ねえちゃん、“杖無し”のにいちゃん」


 朗らかにそう言って窓口を後にした。 


 その華奢な後ろ姿を見送る。

 見る限り、確かに魔力量はそれなりにある。探索士には問題なく、なれるのかもしれない。


 探索士の良い面だけを見て憧れ、仲間へ見栄を張り、無謀を無謀と認識できないような子供は、受けるべきではないと思う。


 しかし、今の環境を変えたいと、そう強く願う気持ちもあるのだと思えば、リケの決断が理解できないわけでもなかった。

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