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西部遺跡管理事務所 業務日誌  作者: 青桐 臨
第一章 新入職員 ソナ・フラフニル編
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第21話 探索士証再発行受付

改行等一部修正しました。

「様式はここだよ」

「あ……はい」


 探索士証再発行用の書類を探していたソナに、カギモトがさりげなく渡す。

 受付の流れは既に昨日説明を受けていた。

 ソナは軽く咳払いをして姿勢を正し、ドードーに向き直った。

 

「それではこちらに必要事項を記載していただけますか」


 ドードーは書類とペンを差し出すソナをぽかんと口を開けて見つめ、「お……お名前は?」と尋ねた。


「名前ですか?お名前はこちらに記載してください」

「違うよ!」とドードーが言う。

「めっちゃタイプなんですけど。あの、俺ドードーって言います。名前は?」

「……」


 ソナは渋々首に下げた職員証を見せた。


「ソナさん? ええ、マジでこんな可愛い子がこんなところに……」

「あの、記載していただけますか」

「はい、書く、書きます!」


 ドードーは汚い字で必要事項を埋めていく。

 

「──で、これ書いて出したらいつ探索士証がもらえるんすか?」

「え、っと……」

「ドードーさん。何回もこの手続やってるのに覚えてないんですか……」


 ソナが口ごもっていると、カギモトが横から答える。


「書類に問題なければ本部から2、3日でここに届きます。そしたら連絡しますから、取りに来てください」

「そんなにかかる?それは困るなぁ」

 ドードーは頭を掻いた。

「すぐ払わなきゃいけない支払いがあるんすよ。だからすぐに遺跡に入って稼ぎたいんすけど」

「……」

 カギモトが一瞬黙る。

「……何ですか、その支払いって」

「え? べ、別にカギモトさんには関係ないっすよね」

 ドードーの目は明らかに泳いでいる。

「それとも、言えば手続き早められるんすか?」

「それは……できませんが」

「そうっすよねぇ。まあ、とりあえず申請はしないとな」


 ぶつぶつ言いながらドードーは書類を書き終えた。

 カギモトはまだ何か言いたそうにしていたが、諦めたらしくソナを見た。


「書類は問題なさそうだよ。あとは再発行手数料もらえばいいから」


 そう、ソナに耳打ちする。

 カギモトの顔が、意図的では無いにせよ近くに寄ったことにソナはぎくりとする。

 それに気がついたカギモトが「ごめん」と慌てて離れた。


 ソナは気を取り直し、カウンター上に貼り付けてある手数料一覧を確認した。

 再発行手数料2000レペトをドードーに案内する。


「これは痛い出費っすね」


 ドードーは本当に痛みに耐えるような顔で財布から札を出した。ソナに金を渡そうとして、その手をぴたりと止める。


「……後払いとか、無理っすよね」


 ソナは再びカギモトを見た。


「申し訳ありません」とカギモトが答える。


「オーケイオーケイ、ここは必要出費ってことっすね」


 あきらめたようなドードーから金を受け取ると、「引換票を渡してあげて」とさらにカギモトからフォローが入る。


「……はい」


 業務については昨日から説明を受けてきたにも関わらず、いざ対面でのやりとりでは相手の反応も気になり、覚えたはずのことがすんなりと出てこない。


 自分への苛立ちを感じながら用紙の下部にサインをして切り取る。そのやり方が雑だったのか、切り取る際に引換票に小さくない破れ目が入ってしまった。


「あ、す……すみません」

「あはは、全然いーっすよ」

 ドードーが朗らかに笑い飛ばした。

「ソナさん、新人さんっすか?」

「はい」と小さくソナが頷く。

「事務所の仕事って、細々してて大変っすよね。応援してます!」


 人の良さそうな笑みでぐっと拳を握るドードー。


「あ……ありがとう、ございます」

「再発行できたら連絡くれるんすよね?じゃあ、ソナさんからの連絡待ってるっすよ!」


 ドードーは元気にそう言って去って行った。


「……大丈夫かな、あの人」


 ぽつりと、カギモトが呟いた。

 さっきから何を気にしているのか。


 ソナの視線に気がつき、カギモトは「ああ」と小さく笑った。


「いい人だよね」

「……はあ」

「俺、新人の時は結構ミスをやらかしてて、探索士の怖い人とかによく怒られてたんだけど」


 ミスをしてばかりのカギモト。

 それが何となく意外な気持ちでソナは話の先を聞く。


「……自分を卑下するわけじゃないけど、魔力無しだと最初からマイナス印象だし、探索士みたいな人の相手は正直やりにくかったんだよね。緊張すると余計にミスるし」


 カギモトはドードーの書類に受領印を押しながら続けた。


「あの人の受付でも結構大きなミスしちゃって、焦って謝罪に行ったら、さっきみたいに、“応援してるから頑張れ”ってあっさり言ってくれて。あの時は結構救われたな」


 そこまで言って、カギモトはソナを見る。


「フラフニルさんは俺よりずっとしっかりしてるし周りからもそう見られると思うけど、あまり気負わない方がいいと思うよ。抱え込まないでちゃんと周りに頼ってね」

「……」

「……なんて、説教臭いかな。ごめん、ちょっと先輩らしいこと言ってみたかっただけ」


 そこまでの少し真面目な空気を壊すように、カギモトがからりと笑った。


「いえ」と小さく答えながら、ソナは見えないように唇を噛む。


 ミスなどしないという自負が、自分自身を追い詰める言葉にもなりうるということは、よく理解できた。


 しかし、余計なお世話というものだ。


 さすがに口にすることはしないが、“杖無し”に心配されるのは、癪だった。

 今は右も左もわからない新人だ。業務経験の差からカギモトに教わらざるを得ない。

 でもそんなことは、一時の間だけの話である。すぐに仕事を覚え、カギモトに頼らずともできるようになればいい。


 ソナは黙々と書類を整理するカギモトの背を見ていた。


「……でもやっぱり、心配だなぁドードーさん」


 カギモトはまだドードーのことが気になるようでぼやいていた。


「お金にも困ってそうだったし。何か巻き込まれないといいけど。いや……」


 既に巻き込まれてたりして、というカギモトの独り言のような呟きが、ソナにはよく聞こえなかった。

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