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西部遺跡管理事務所 業務日誌  作者: 青桐 臨
第一章 新入職員 ソナ・フラフニル編
2/150

第2話 所長 キィト・ザクソンへの挨拶

一部修正しました。

「──それじゃあ、私は一度上に戻ります。後で総務係の皆さんにご紹介しますから、所長へのご挨拶が終わったらさっきの階段で1階に上がってくださいね」

 ナナキは丁寧に頭を下げると、階段室の方へと戻っていった。


 残されたソナは「所長室」の札がかけられた扉に向き直る。

 重そうな金属の扉。ところどころ塗装が薄れ、錆びも浮いている。

 背筋を伸ばし、軽く、扉をノックする。


「……」


 中から返事はない。

 ソナはもう少しだけ強めにノックしてみる。

 やはり何も反応がない。

 ソナは何となく後ろを振り返るが、ナナキの姿は既にない。

 溜息をつき、少し思案した後、ソナは扉の取手を掴んだ。


「──失礼します」


 言いながら、体重をかけて扉を押し開けてみた。

 鍵はかかっていない。


 鼻につく古い紙の匂いが濃い。

 ぼんやりとくすんだ橙色の照明が、室内の物々の輪郭を鈍く浮かび上がらせていて──


 「……!」

 

 本。紙の束。本。本……。


 押し寄せてきそうな程の大量の書物書類を前にソナは思わず息を呑んだ。たいして広いわけでもないこの部屋に、図書館かと思うほどの紙類が詰め込まれているようだ。

 その本やら紙やらが埋め尽くす床の先に、書物に飲み込まれつつあるような横長の机が見えた。


 誰か──いる?


 そんな気がするが、部屋全体の照明が暗くて判然としない。

 魔力を感知すればいいことにソナはすぐに思い至った。

 片手を上げて前方に集中すると、確かにそこに人の魔力を感じた。多くも少なくもない、ごく平凡と言える魔力量。


「すみません」

 ソナはさっきよりも少し声を張り上げた。

 むく、と執務机で何かが動く。

「んん……?」

 寝ぼけたような気の抜けた声が聞こえた。

「ああ……こんな時間か。あれぇ、ヘルベティア……?」

「あの……」

「ヘルベティア、そこにいるのかい?」

「あの、私は、今日配属になった新入職員の……ソナ・フラフニルです」

「……」


 執務机にいる人物は黙り込む。

 それから「ああ」と何かを思い出したように軽く手を叩いた。

 途端に、部屋の照明が徐々に明るくなっていく。

 

 ぐしゃぐしゃの銀髪。

 青白い顔に無精ひげを生やした男が執務机にいた。億劫そうに立ち上がる。

「これは、すまないね。秘書が仕事をすっぽかしたらしい」

「……」

「落ちてるものは適当に踏んづけて構わないから、こっちに来たまえ」

「……はい」

 ソナは遠慮がちに、できる限りものを踏まないようにと気をつけながら執務机へと移動した。

 銀髪の頭をぼりぼりと掻いて、男は一つ大きな欠伸をした。目尻に滲んだ涙を指で拭うと、執務机を挟んでようやくソナをまともに見る。

「いや、本当にすまなかったね。昨夜からちょっと調べものをしていただけなんどけど、気づいたらこの時間だ。ははは」 

「はあ……」

 ──つまりこの男は昨日帰宅していないし、シャワーも浴びていないということ?


 言われてみると、男の着ているシャツも、その上に羽織っている黒いローブも、あまり清潔には見えない。

 眉間に皺を寄せるソナには気がつがつかないのか気にしていないのか、目の前の男は呑気に微笑んだ。

 「僕はこの西部遺跡管理事務所の所長、キィトだ。キィト・ザクソン」

 「よろしく……お願いします」

 キィトと名乗った男の声色は意外にも若い。年齢不詳な外見だが、ソナを見る青い瞳にはまるで少年のような煌めきがあった。

「ふむ」とキィトは無精ひげを撫でる。

「ソナ・フラフニルさん。確かグリフィス魔法専門学校を首席で卒業したんだっけ」

「はい」

「すごいよね、我が国最難関の学校でしょ?君みたいな優秀な人材がカノダリア国国公務員の“掃き溜め”と言われるうちの総務係に配属された気分って……どんな感じ?」

「……」

 ソナは閉口した。

 キィトの口調に皮肉めいたものはない。

 純粋に知りたいだけで悪意は無さそうなのだが、それを平然と尋ねることができる神経がソナには信じがたい。

 真意が読めない以上は無難な回答をするしかない。

「……どこであろうとも、国家のために尽力するつもりです」

 ソナはマニュアル通りに答える。

「別に建前が聞きたいんじゃないんだけどね」

 キィトは笑った。

「まあいいや。尽力してもらいたいのは確かだから。期待しているよ」

「はい、頑張ります」

「あとね」

 青い瞳を一層煌めかせて、キィトはソナを見た。

「君にはとっておきの教育係を選んでおいたから、楽しみにしておいて」


 新人には約半年間、教育係として先輩職員がつけられるとは聞いていた。

「それは、ありがとうございます」

 この男と相対するのはなぜか不愉快で、早くこの場を去りたい気持ちに駆られていた。

だから感情を込めず、早口に感謝の言葉を述べた。

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