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西部遺跡管理事務所 業務日誌  作者: 青桐 臨
番外編 ティーバ・ラヴァンデリオの後悔
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ティーバ・ラヴァンデリオの後悔 5


 倒れたヒューに弾かれたように駆け寄ると、息はしていた。

 ほっとしたが、それでも頭を打って意識がないのだ。


 病院だ。

 病院に。 


 それが正義感なのか罪悪感なのかはわからなかった。けれども、狼狽え躊躇う同級生達を無視して職員室へと駆けた。


 §


 結果的にヒューの命に別状はなく、翌日には意識も戻ったらしい。しかし、しばらくの入院を余儀なくされたと聞いた。

 ヒューは両親に事情を説明したのだろう。

 クロディ夫婦から初めて学校に抗議が入った。

 ヒューはこれまで学校で受けてきたことを、ずっと親には告げていなかったようだ。

 


§


 後日。


──最近、非魔力保持者が子供を襲う事件が続いてましたよね。何だか怖くて。

──いつもにやにやしてて、授業の邪魔もするし、少し変な子でした。

──怪我させるつもりはなかったんです。ちょっと魔法で驚かせてやろうと思っただけで。

──わざとじゃありません、よくああやってふざけてましたし、あれはただの事故でした。




「内容については、どうかね? ラヴァンデリオくん」

 渡された資料を僕が読んだ後、人の良さそうな白髪のに口髭の老人……学校長は最終確認をするように僕に尋ねた。


 豪奢な学校長室。

 広い窓のカーテンは閉じられていた。

 僕と僕の父、そして義母と、学校長と副学校長が机を挟んで座っている。脇には担任教師が立っているが、最初からずっと空気のようだ。


 僕が読んだのは、学校からの調査結果……同級生達のヒュー・クロディについての声をまとめたもの、それと、あの時の出来事の簡単な経緯だった。


 ヒュー・クロディについては、勉強はできるがクラスで浮いた変わり者。普段の嫌がらせは子供同士の遊びの延長、ヒューが頭をぶつけたのはふざけ合いの結果の事故だと、そう記載されている。


 クラス委員でもある僕が両親同伴のもと、内容の確認を求められていた。


「どうなんだ、ティーバ」

 父の声はいつもよりもさらに低い。

 義母は紅茶のカップに口を付けていた。


「……概ねこのとおりです」


 僕はそれだけ答えた。自分のために逃げ道を作ったような、そんな返答だった。

「おまえは、危害を加えていないんだな」

「あの場にはいましたが……直接的には」

「ならいいが」と父は学校長達の方に向き直る。

 僕も父から目を逸らして艷やかな机の木目を見つめた。

 学校長達はあからさまにほっとしたような顔になる。

「生徒達からもそのように聞いております。ご子息はむしろすぐに助けを呼びにきてくれまして、本当にご立派なことです」

 副学校長はやや大袈裟だ。

「つまり、クロディ側の一方的な訴えということになりますな」と学校長が頷いている。

「それでは事故だということで、進めましょう」

「よろしくお願いいたします。ご面倒おかけして申し訳ありません」

 僕の両親が頭を下げると、学校長達が「やめてください」と恐縮した。

 学校に多額の寄付をするラヴァンデリオ家だ。学校長であっても僕の両親には腰が低くならざるをえないようだ。


「いや本当は、クロディ家にも困っておりましてね」 

 学校長は品のある髭を撫で、笑みを浮かべた。

「いくら優秀でも資産家でも、やはり非魔力保持者というのはちょっと……というところもありまして。ここは由緒ある学校ですから」

「とはいえ平等法もありますので」

 後を受けたのは副学校長だ。

「条件を満たしている以上編入を正面から拒否することもできませんでして。今回辞めることになって、まあ、よかったというか何といいますか」

「人の不幸を喜ぶようなことを言ってはいかんですよ。副学校長先生」

「それもそうですな」

「──辞める?」

 少し遅れて僕は副学校長の言葉に反応した。

「ヒューは、学校を辞めるんですか?」

 学校長達は一瞬顔を見合わせる。

「正式な決定はまだですが、そうなりますね」と学校長が淡白に答えた。


 どうして。

 あのヒューが、そう簡単に学校を退学するとは思えなかった。


 僕が問う前に、学校長が「目がですね」と自分の目を指さした。

「打ち所が悪かったようですな。脳にダメージを受けて、両目とも失明してしまったそうなんですよ。今の医学ではどうにもならないようでして」

 ざっと血の気が引く気がした。

 膝に乗せていた拳が微かに震え始める。

「魔力も無い上に目も見えないとなれば、さすがに通うことは困難でしょう」

 副学校長が何の感情もこもっていない口調で付け加えた。

「それは本当にお気の毒ですわね」

 眉をひそめた義母の言葉も、取ってつけたような台詞に聞こえた。

「あなた。同級生のご縁ですから、何か支援して差し上げることができればよいかと思いますわ」

「ふむ、そうだな」と父も思案げに細い顎に手を当てた。

「病院代くらいはうちが持つのがいいだろう」

 いやそれは本当にご立派なことで、と父をおだてるような副学校長の声が聞こえたが、僕はそれどころではなかった。


 自分の鼓動が耳にうるさくて、その後の会話はほとんど覚えていない。


 ヒューがどこの病院に入院しているのか。

 僕はそれだけを何とか聞き出した。

 

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