探索士 ノダ・アヤセの楽しい異世界生活 6
途中、ヴァンからも、昨日夕食を取った店には落ちていなかったという残念な報告が伝心蝶で送られてきた。
再び宿の前で3人で合流する。
既に日は高い位置にあった。
「ここまで探してないなら、遺跡管理事務所で失効して再発行した方がいい。誰かに拾われて悪用されちゃ困る」
ヴァンの提案にニコラスも「だな」と諦めたように頷いた。
「俺行ってくるわ。終わったら連絡するからおまえら適当に時間潰してて」
ふらりとニコラスが歩き出す。
「あたしも行こうか?」
「一人で平気だっつーの」
ニコラスが舌打ちした。
「素直じゃないやつ」
ニコラスが離れてから、ヴァンは小さな笑いを漏らす。
「自分のミスでこれ以上アヤセに迷惑かけたくないんだろ」
「あはは、そうなのかな」
何だかあたしが照れ臭くなった。
「えっと、で、この時間どうしよっか? ヴァン」
「俺は宿で寝るかな。アヤセは買い物でもしてきたら? 服買いたいとか言ってたじゃん。西部に気に入る店があるかは知らないけど」
「あー、そうしよっかな」
「そうしてくれよ。アヤセと俺が2人行動するのも、本当は嫌なんだよあいつ」
「え」
ヴァンはにやりとして、あっさり宿に戻って行った。
ヴァンの言い方からしても、間違いなくニコラスはあたしを気にしている。それにヴァンは以前から、今みたいにからかうようなことを言ってニコラスを怒らせてもいた。
やっぱりあたしの勘違いとかじゃなく。
──もういいんだ。
ただの自意識過剰かもしれないと怯える自分がしつこく残っていたけれど、もう、気にしなくていい。
お洒落とかして、男の子と出かけたっていいんだ。
ここには誰もあたしを馬鹿にする人はいない。
──可愛い服、あるといいな。
箒に乗り、あたしはお店を探して空を飛んだ向かった。
§
西部地区には、中央にあるような高級感ある店はない。
代わりにリリエズデパートという小さなデパートがあった。デパートといっても、店に置かれた品物の値段は控えめで、誰でも入りやすい雰囲気がある。
あたしはそこで、自分の年齢向けの服を探し──見つけた。
可愛い花の刺繍があしらわれた白いワンピース。袖とスカートの裾には控えめなフリルがついていて、子供っぽくもない。以前のあたしなら見向きもしないデザインだ。そもそも私服でスカート自体ほとんど履くことなどなかった。
「お似合いです、お客様」
試着すると店員さんもこの調子だ。
確かにサイズ感もちょうどいい。鏡に映る自分は、とても女の子らしい。自然と笑顔になる。これは買いだ。
となると、この服に合う靴やバッグも欲しくなってくる。
あれこれ見ていると、いつの間にか時間が経ってしまっていた。
“手続きが終わった”とニコラスからの簡素な伝心蝶が来た。まだ買うものが決められていない。
デパートにいることを知らせると、このあたりで昼食にするからヴァンと共にこっちに向かう、との返事がきた。
もう少しじっくり商品を吟味したい。しかし2人を待たせたくもない。
昼時間はとっくに過ぎている。
あたしは店員さんを呼んだ。
「すみません、取置いてもらうことってできますか?」
店員さんは一瞬不思議そうな顔をしたが、上級の探索士証を出して見せると納得したように快く承諾してくれた。
ワンピース含め、あたしは一旦買い物をきり上げ、ニコラス達と合流することにした。
§
「このあたりかな」
2人は近くの郵便局の角で待っている、との追加連絡があった。飛ぶほどの距離でもないので小走りにその場所を探す。
「……ん?」
昼時でわりと賑わっている通りを曲がると、人だかり、というほどでもないけれど、
数人の通行人がふと足を止めて何かを見ている。
待ち合わせ場所と思われる郵便局がその先にあった。
何だか嫌な予感がする。
駆けていくと、人が地面にうつ伏せに倒れていた。
一瞬ぎょっとしたが、その人の脇でニコラスとヴァンがにやにやとして立っている。通行人達は遠巻きに見ていた。
事故や急な体調不良で倒れている、という感じではない。
倒れている人は濃い灰色のローブ姿で、何だかよく見覚えのある……遺跡管理事務所の職員さんのローブだと気がつく。
──ニコラスの魔法だ。
落ち着いて見ると、ニコラスの魔法が、その職員さんが身動き取れないように地面に押さえつけているのがわかった。
通行人は密やかに言葉を交わしながら眺めているか、無視をして通り過ぎていくだけである。
ニコラスはヴァンと何か言葉を交わし合い、笑っていた。あの2人はよくあんな顔をする。誰かを見下している時だ。
こんな公衆の面前で。
頭がかっと熱くなる。
閉じたはずの記憶が一瞬揺れた。
クラスのあいつらは……ニコラスとヴァンみたいな嘲笑を浮かべていて。
周りは見て見ぬふりをして。
悪いのはみんなに溶け込めない自分だと自分を責めて。
あの頃のあたしは仕方がないと思って耐えることしかできなかったけれど。
「──あんた達!」
あたしは怒声を上げて、突っ込んで行った。




