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西部遺跡管理事務所 業務日誌  作者: 青桐 臨
第四章 探索士ノダ・アヤセの楽しい異世界生活
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探索士 ノダ・アヤセの楽しい異世界生活 5


 結局そのまま探索を終えて地上に上がり、遺跡の結界を出た。遺跡内は箒で飛ぶには狭いのでずっと徒歩だ。

 一瞬で出口に戻ることができればいいのに、といつも思う。なんなら、前回探索した地点まですぐに行けるセーブポイント的なものもあればいいのに。そうしたら探索は格段に楽になる。

 でもそんな都合の良いアイテムも魔法もない。あくまでここはゲーム世界ではないということだ。


 遺跡近くにはたいてい魔晶の買取所がある。

 黒い球体の魔獣から採れた大きい魔晶は高く売れた。

 あたし達3人はご機嫌で、早い夕食にした。

 西部地区には一時的な滞在をするだけだからここでは宿を取っている。もちろん男2人とは別部屋だ。


 ニコラス達の部屋で買い込んだお菓子を食べジュースを飲んで3人でひとしきり騒いだ後、あたしは自分の部屋に戻りベッドに寝転んだ。

 そのまま寝てしまいそうになるが、遺跡に潜ったのだからシャワーは浴びなければ。

 重たい体を起こしてシャワー室に向かう。

 洗面台の鏡に映る自分。

 髪を解くと随分伸びたと感じた。両手で頬に触れ、鏡に近づいて肌をチェックする。

 この世界の水や食べ物が身体に合っているのか、こっちに来てからの方が肌も髪も調子がいい。


「何より痩せたし」


 魔法を使うこと自体かなり体力を消費する。加えて、探索ではそれなりに体を動かすから、筋肉もついて締まってきた。好きなだけ食べても体型は変わらない。

 自分比だけれど、だいぶ可愛くなったと思う。

 元の世界の周囲の人たちに、見せてやりたい気持ちがないわけではない。特にあの……名前がもう思い出せないけど、クラスのリーダー格の女子。今のあたしなら、面と向かって話ができるだろう。

 いつもあたしを見下していた姉にもだ。

 それが叶わないことだとはわかっているけれど。


 鏡の前でにこりと自分に笑って見せて──しかしふと真顔に戻る。


 力を得た。外見も前より良くなった。お金もある。仲間もいる。

 物語の主人公のように順調すぎるくらいに順調なのに……寂しさのような、冷たい何かをほんの少し感じてもいた。

 特定の誰かや何かに対してじゃない。

 こちらでは決して感じられない、生まれ育ったところの空気や匂いや音みたいな、たぶん感覚的な部分に対してだ。

 元の世界は海の遥か向こうだ。こっちの世界とは断絶している。

 帰れないし、帰りたいとも思わないけど、もう二度と触れることができないからこその気分……これがノスタルジーというものなのだろうと自分なりに理解する。

 だから、ニコラスとヴァン達のように、そんな気持ちを共有できる誰かがあたしにもいるといいなと思ったのだ。

 

 マツバさんの言い方だとそれは難しそうだけれど。

 

 気持ちを切り替えるように、シャワーを浴びた。


§

 

 翌朝。

 宿の食堂で朝食を終え、今日は西部地区の別の遺跡に行く予定で宿を出たところだった。


「探索士証を失くしたぁ?」

 あたしは信じられない気持ちでニコラスの言葉を繰り返した。

 そのニコラスは心底不機嫌そうにあたしから目をそらしている。

 今朝出かける準備をしている時に無いことに気がついたらしいのだが。

「え、いつ、どこで? 昨日遺跡出る時持ってたじゃん」

「そのあとどっかで落としたんだろ。昨日晩ごはん食べた店には俺がこれから聞きに行ってみる」

 ヴァンが取りなすように言った。

「ニコはアヤセと一緒に昨日の遺跡の近く探してみろよ」

「えー、めんどくさ」とあたしが漏らすと「うるせえな」とニコラスが悪態をついた。

「なによ、そこはお願いしますでしょ」

 ふん、とニコラスは腕を組んで鼻を鳴らす。

 拗ねた子どものようだ。あたしは苛立つよりもむしろ少し可笑しく感じる。

 ニコラスに対してそう思えるくらいの心の余裕があたしにはある。他人のミスにいちいち目くじら立てたりしない。

 しかし探索士証がなければ遺跡に入れないので困るのは確かである。

 あたしとニコラスはそれぞれ箒を準備して、アレス遺跡まで飛んだ。


 昨日遺跡から出た後に通った道をひととおり探したが無かった。ひとまず警察にも届け出ておいた。

「探し物を見つける魔法とかできねえのかよ」

 既に探す気が失せているらしいニコラスは、警察署を出てたらたらと後をついてくる。

「そんな便利なのあるわけないでしょ」

 魔法は見るもの、触れるものにしか作用できないという原則がある。それはあたしでもどうにもならない部分だ。

 もしかしたら、人を探し当てるマツバさんあたりは何か特殊なやり方を知っているような気もするけれど、魔法取締局の人達は別次元の存在だから。

「それにあんた、あたしにはあまり頼りたくないんじゃないの」

「偉そうに。まあ……そうだけどよ」

 ニコラスはそれっきり黙って後ろを歩いていた。が、急に横に並んできた。

「おまえが俺を頼りないって思ってるのはわかってる」

「え、別に思ってないけど」

 唐突でびっくりした。

 ニコラスの濃い青の瞳は険しくて、切羽詰まっているようにも見える。

「おまえが俺をガキ扱いしてるのもわかってる。俺はそれが嫌なんだよ」

「……」

「今だって迷惑かけて悪いと思ってる。でもアヤセに頼らなくても大丈夫なように、俺、頑張ってんだ」

 馬鹿にするなよ、と言ってニコラスがさっさと前を歩いていく。


 心臓がどきどきしていた。


 言い方も言葉遣いも乱暴だけれど……今のニコラスの言葉、表情の意味を考える。

 ニコラスがあたしに向けているのは好意なのかもしれない、と薄々感じていた。

 でも異性からそういう気持ちを向けられたことがなかったから、少し自信がなかった。


 ──でも、今のは……


 口元が緩んでくる。

 やっぱりあたしは変わりつつあるのだ。


 早足でどんどん進んでいくニコラスの後ろを「待ってよ」と追いかけた。

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