探索士 ノダ・アヤセの楽しい異世界生活 2
店の中は温かく、肉を焼く香ばしい匂いと独特なスパイスの香りに満ちていた。
「アヤセ。こっちこっち」
客も多く賑やかな店内できょろきょろしていると、ヴァンの声がした。
紫髪の少年ニコラスと茶髪の少年ヴァンのいるテーブル席を見つけた。
「あ、おまたせー」
「遅えよ。もう食べ始めてる」
言ったとおり、ニコラスは串に刺さった肉にかじりついていた。
テーブルには肉の他に色鮮やかなサラダと温かそうなスープ、スライスされたパンが並んでいる。
「これでも飛ばしたもん。あー、お腹すいた。あ、おねえさん、炭酸水ください」
通りがかりの店員さんにとりあえず飲み物を頼み、パンを一口つまんだ。
「ん、おいし。なにこれハーブのバターかな」
「南部はスパイス料理が有名だからな」とヴァンが同じくパンを口にした。
「この肉もいけるよ。アヤセも食べてみな」
「わーい」
ヴァンが取り分けてくれた肉は、嗅いだことのない香りがしたが、噛み応えがあって少し味にクセがあって、確かにとても美味しい。
「食べる手が止まらない」
「だろ?」とヴァンは嬉しそうにして、ニコラスもどこか得意気だ。
2人は南部出身なのだ。地元の料理が褒められれば嬉しいだろう。
そこであたしの炭酸水が運ばれ、「乾杯」とグラスを交わす。
あたしは17歳。この世界でもまだ未成年だ。ひとつ年下のニコラスとヴァンも、酒ではなくジュースである。
炭酸水にもハーブが浮かんでいて、一気に飲むと口の中が爽やかだ。
「カウンセリングはどうだった?」
ヴァンが尋ねる。
「いつもどおりよかったよ。また強くなっちゃうかも」
「まったく羨ましいぜ被回収者は」
ジュースを飲みながらニコラスが舌打ち混じりに言った。あたしはふふん、と鼻を鳴らす。
カウンセリングを受けると、昔の嫌な自分を思い出さなくなってくる。そうすると、あたしに残るのは魔法を使えるという自信だ。自信があれば、できなかったこともやってみようと思うし、できるようになる。
つまりカウンセリングは、あたしの魔法を使う上でのメンタルにも直結していた。
「まあでも、アヤセのおかげで俺たちも順調なわけだから」とヴァンが笑う。
あたし達は探索士。
この国ではわりと肉体労働者的な扱いをされる職種だけれど、昇級試験を受けて合格し、今では上級探索士と認められている。上級であれば、社会的にもそれなりの地位がある。しかもあたし達は上級の中ではかなり若い方だ。
「で、予定どおり明日は西部に行くでいいんだよな?」
ヴァンが確認すると、ニコラスが「ああ」と途端にやる気をみせて頷いた。
「アレス遺跡の新通路、やっぱ行ってみたいからな。新しい遺物とか発見したいよな、自分たちで」
アレス遺跡の新通路とは、西部地区に元々ある遺跡で、その遺跡内部でわりと最近発見された新たな通路のことである。
一般開放されてまだ日も浅い。未知の部分も多く、探索士に今人気の探索場所らしい。
ニコラス、ヴァンもまた、強く興味を持っている。中央での仕事がひととおり落ち着いたので、ようやく行ってみようと、今そういうところだった。
「西部かあ。まだ行ったことないし、楽しみ。どんなとこ?」
あたしが訊くと、「西部は地味だ。田舎だよあんなとこ」とニコラスが小馬鹿にした。
「西部は観光名所とかもなくて農地ばっかりなのは確かだな。南部だって畑は多いけど、リゾート地とかがある」
ヴァンが同意する。
「北部は気取ってるし、東部は品がない。やっぱ南部だよな」とニコラス。
「だな」
頷き合う少年達。出身地マウントというのはどこの世界でもあるようだ。
2人は南部の話で盛り上がり、学校だの地元の友人だの、話が逸れていく。
ニコラスとヴァンは幼馴染だと聞いていて、2人の間には思い出とか地元の空気とか、共有している何かがある。
探索士仲間として一緒に活動し始めて数カ月経つけれど、そこにあたしは入っていけなくて、少し距離を感じる時があった。
でもそれは、被回収者としての宿命のようなものだとも思っている。
冴えない生活を送っていた元の世界から、魔法の力を得て異世界にいくなんて、まるでフィクションだ。
多少の孤独感も──それって物語の主人公っぽくない? と思えばなんてことはない。
それに。
楽しそうにヴァンと話すニコラスを見ていたら、視線を感じたのか2人がふとこちらを向いた。
反射的に微笑みかけると、ヴァンは微笑み返してくれて、ニコラスはふいとわざとらしく目を逸らした。
この世界は魔法至上主義だ。
魔力の有り余るあたしはそれだけで認められ、大事にされて、人ともうまく付き合える。
ここであたしは新しい自分になれる。ここでこそ伸び伸びと生きていける。
疑いなくそう信じることができるから、もう二度と“海向こうの世界”──元の世界に戻れなくても。
毎日が楽しくて、未来にわくわくするのだ。




