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西部遺跡管理事務所 業務日誌  作者: 青桐 臨
第三章 調査係 テーテ・ペルセウスの箒
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仕事の話


  半端に弱音を吐いては取り繕って線を引いて。

 半端に甘えるようなことを言って、また距離を取る。

 これが上辺だけの関係を作ろうという人間の行動だろうか。

 今の事態を引き起こしているのは、俺の過ちのせいだという他ない。


§


 ソナはまっすぐにこちらを見ている。

 目が泳ぐ。


「ああ、あは、はは……」


 後ろに下がりながら、最近の、変な笑いが今も出てきた。

「ふ……フラフニルさんにそう言ってもらえると、正直嬉しいよ俺も。少し持ち直せた気がする、うん」

 相手の生身の言葉を受け止める覚悟もないくせに、自分の感情を晒すなんて、俺はどうかしていた。

 いや、これはあの時と同じだ。

 俺のことを知りたいと言ったソナに、俺が“海向こうの世界”から来た人間だと明かした時。

 俺と真摯に向き合おうとしてくれるソナに対して、ある程度の情報を開示しなければ釣り合わない。相手に失礼だろう。


「カギモトさんはどうしてそうやって……」

 皆まで言わず、ソナはまた悲痛そうに眉間に皺を寄せた。

 もう切り上げ時だ。

「邪魔してごめんね。俺、上に戻るよ」

「カギモトさん」

 俺が扉に向かう前にソナが呼んだ。

「仕事のことで、相談があります」

「え……」

「仕事の話なら……聞いてくれますか」

 ソナはまだ袖口をきつく握るようにしていた。とても仕事の話をするような表情ではない。

 一瞬迷う。が、ソナもまた、仕事においては、俺と円滑にやり取りできる関係を保とうとしているのだ──と、受け止めたことにする。

 ならば応える必要がある。

 いつもの先輩然とした笑みを作った。

「うん聞くよもちろん。何?」

 ソナは少し肩の力を抜くように息を吐き、「箒のことです」と答えた。

「ああ箒。残念だったよね。テーテには一応俺から伝えたけど」

「テーテさん。……どうでした?」

「うーん、どうとも。まあでもショックではあるんじゃないかな、とは思うけど。俺だと返事してくれないからさ、何考えてるのかよくわからなくて」

 そこまで聞かれてもいないのに、後半は言い訳めいていた。ソナは微妙な顔をしている。

「テーテさんは、カギモトさんとはどうしても……お話ができないそうです」

「あ、そう。いや、それは知ってるけどね」

 話がテーテと俺のことに流れるといけないので「それで箒がどうしたの」と戻す。

 ソナはひと呼吸おいて、

「ストリンドベルさんが、今回の件をとても申し訳なく思っていると。それで、お見舞いに伺った時に教えてくれたのですが、あの工房に地下室があるようで」

「地下室?」

「そこはご自身で作った特製の箒を保管している場所で、運よく火事の被害から免れたそうなんです。その箒の一つを、今回のお詫びとしてテーテさんにお譲りしたいと、そう仰ってました」

 “特製の箒”

 そういえばストリンドベル氏がトレックに乗ってみろと言っていたのを思い出す。

「トレックさんにも連絡を取って、現地でその箒が無事なのを確かめてもらいました。今はお知り合いの方が保管しているようです」

 考えてみると、悪い話ではない。テーテが思い入れのある箒の代わりとして、それを受け入れてくれれば、の話ではあるが。

「……テーテに聞かないとだね」

 はい、とソナは頷く。

「もし箒を譲っていただくとなった場合は書面を交わしたりが必要でしょうか。何か参考になる事例がないかと思ってここに来たんですが……」

「ないない、そんなレアケース」と苦笑いする。

「それに、高価なものを誰かからもらうって、役所的には結構微妙なところだから、あまりちゃんとした記録は残さない方がいいかもね。いや、賠償問題ってことなら、和解策としてはむしろありなのかな……」

 半ば独り言のように呟いていると、さっきよりもだいぶ気分が落ち着いてきたのが自分でもわかる。

「えっと、係長はなんか言ってた?」

「今のカギモトさんと同じようなことを」

 ソナは資料をしまい、足元の箱の蓋を閉じた。

「ありがとうございます。トレックさんが戻ってきたら、一緒にテーテさんに相談しに行ってみます」

「あ、うん……そうだね」

 大したアドバイスをしたわけでもないし、テーテに関してソナから頼られていないことははっきりとわかった。この件のメイン担当はトレックであるから別に構わないのだが。


 ソナは床の箱を棚に戻そうというのか、重たげなそれを両手で持ち上げようとしていた。

「俺がやるよ」と言いかけた時には、ソナは持ち上げるのを諦め箱の前に手をかざしていた。箱はふわりと浮かび上がり、危なげなく移動して棚の中に収まった。

 運搬魔法だ。やはり便利なものである。

 手助けを申し出ようとしたことはソナには気づかれなかったらしい。ほっとした。


 俺の助けなどそもそも彼女には不要なのだと、またそんな方に思考が傾いていく。

 振り払うようにソナに笑みを向けた。

「……じゃ、上、戻ろうか」

「はい」


 ソナが先に出るのを待って、資料室の灯りを消し、きっちりと扉を閉めた。


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