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西部遺跡管理事務所 業務日誌  作者: 青桐 臨
第一章 新入職員 ソナ・フラフニル編
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第14話 業務説明

 カギモトの説明は遺跡管理事務所の組織構成から始まり、総務係の仕事について実務的な内容に移っていった。


「総務係の主な業務は探索士への窓口対応と探索士資格関連の事務処理、それと事務所内の庶務経理を担ってるよ」


 資料の図を見せながらカギモトが説明する。


 探索士や遺跡はこの国では比較的身近な存在ではあったが、その裏で遺跡管理事務所がどのような事務処理を行っているかについては、ソナは配属が決まるまで知らなかったし一切興味もなかった。


  遺跡と直接関わる調査係や管理係とは違って、総務係はあくまで表に出ない事務方でしかない。


「──まあ、総務係が軽く見られるのは、そういうところから来てるんだろうね」


 本当は大事な仕事なんだけど、とカギモトは少し残念そうに言う。


 なるほど説明を聞けば、総務係の細々した仕事には魔法の能力はほとんど必要とされない。カギモトのような“杖無し”でも大して支障なくできるというわけである。


「えっと、ここまで、何となく大丈夫かな。わからないことがあったら聞いてね」


 昨日マニュアルをもらってすぐに一読してはいたが、カギモトの経験に即した説明は、正直わかりやすかった。

 時折質問を挟んでも噛み砕いて教えてくれる。即答できない質問の場合でも知ったかぶるようなことはせず、「後で確認しておくね」と几帳面にメモを取っていた。


 教育係としては、問題ないのだろう。


 “杖無し”でさえなければ、素直に慕うことができたかもしれないのに、とソナはどこか他人事のように思った。

 

 そうこうしているうちに昼休憩のチャイムが鳴った。


「おつかれさま」


 カギモトはすぐに仕事の話を切り上げ、さっさとローブを脱いだ。


「ところでさ、フラフニルさんはこの事務所周辺には詳しいの?」

「──え?」


 カギモトの質問の意図を測りかねたソナは微かに首を傾げる。


「詳しくなければ、ランチにいい店とか教えてあげようかと思って。まあ、この辺りもそんなにたくさんお店があるってわけじゃないけど」


 その言葉を聞いてソナは少しぎょっとした。

 まさか、食事に誘われているのだろうか。

 

 嫌な汗が背中を流れる。

 新人と教育係の仕事初日なら、特段おかしなことではないとは思うが、それでも。


「なんだよカギモト、抜け駆けすんなよ」


 ソナが慌てて思考を巡らせている間に、トレックが割って入ってきた。


「昼飯行くなら俺も入れてくれって。俺だってソナさんと食事したい」

「え? 新人さんにお店を紹介しようと思っただけだよ。俺は席で食べるし」


 カギモトが足元から紙袋を取り出して見せる。

 ソナはほっとした。


「なーんだ。じゃあ俺がソナさんをうまい店に連れてってあげるよ。もちろん奢るからさ」


 トレックの満面の笑み。

 それを弾き返すようにソナは無表情を貫いた。


 「……すみませんが、私もお昼ご飯は持ってきてるので」

 「あ、そう……」

 トレックはそれでも 「じゃあまた今度よろしく」とすぐに笑顔を作った。

 自席に戻るトレックを尻目に、ソナは鞄から小ぶりなランチボックスを出した。


 「へえ、お弁当派なんだ。偉いね」

 カギモトが紙袋からパンを掴み出しながら言う。

 「……」

 「あ、ごめん、話しかけたら食べにくいよな」

 明確な返事をしないソナにカギモトは慌ててそう言うと、片手でパンを食べながら端末を操作し始めた。


 ソナは誰にも聞こえないように、細く息を吐いた。


 仕事の話はまだいい。


 が、それ以外の話題でカギモトと会話をするのは、神経を擦り減らす。


 カギモトもいつも昼食を席で食べるのだろうか。そうすると、弁当持参の自分は毎日カギモトと隣で食事をすることになってしまう。

 

 明日はどこか、別で食べられる場所を探そう。


 そう思いながらソナはランチボックスの蓋を開ける。

 ソナの好きな具が数種類入ったサンドイッチが詰められていた。

 弁当を見てカギモトは「偉い」と言った。

 何か勘違いしているのかもしれないが、これは母が作ったものである。


 節約と、ソナがなるべく市販のものを食べないでほしいという母の思いの塊。


 母がいないところでも、母に見られているような気もする。


 美味しいけれどどこか胸が詰まるような思いをしながら、ソナはサンドイッチを口にした。

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