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西部遺跡管理事務所 業務日誌  作者: 青桐 臨
第二章 北部遺跡管理事務所 出張編
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別行動


 フー所長は急ぎの決裁があるらしく一旦所長室に残り、アルブレヒトと俺含め西部遺跡管理事務所の面々は所長室を出た。


「ええと、君たち2人はここまででってことだよね。遺物は僕とヘルベティアで見るから」

 キィト所長が確認すると、ティーバが頷いた。

「はい、僕とカイリは少しこの事務所を見学してから宿に荷物を置いてきます。終業時間あたりに迎えに来ます」

 閉じた所長室の扉を睨んでいたヘルベティアが、「えっ」と弾かれたように振り返る。

「ティーバ様と別れるんですかぁ!?」

「食事の時にその話しただろ」

 口を挟むとヘルベティアに刺すような視線を返される。

「カギモトくんとティーバくんが遺物を見たって何もわからないさ。だからほら、行こう行こう」

 キィト所長がアルブレヒトを急かすように押してうきうきと歩き始める。

「ほ、保管室は地下です。ご案内します」

 アルブレヒトはひどく緊張した様子で先導を始めた。新人らしい彼をあの2人に付き合わせるのは、何だかとても気の毒に思えてくる。

「ティーバ様ぁ」と嘆くヘルベティアの声が聞こえたが、遺物見学組がいなくなるのをティーバと待っていた。


 やがて静かになる。


 深い深い、ティーバの溜息が聞こえた。

「やっとの解放だ」と声を掛けるとティーバは重々しく頷き、眼鏡の位置を直す。

「……ヘルベティアのこと牽制するとか言って、全然できてなかった。ごめん」

「いや何ていうか、あんな感じなんだって思った、ティーバとヘルベティアって。嫌いって感じじゃないんだな。意外だった」

「……」

 ティーバは黙ってしまった。余計なことを言ったのかもしれない。

 今はせっかくヘルベティアがいないのだ。気持ちを切り替えってもらった方がいい。

「とりあえずいつまでも所長室の前にいるのもなんだし、所内見学させてもらおうか」

「そうだね」

 あまり覇気のない返事をして、ティーバは後についてきた。



§


 事務所の業務自体は西部も北部も、何なら東も南も中央も同じだ。

 だから見学しても特段目新しいことはなかったが、電話でしかやり取りしたことのない北部の総務係職員の顔と名前が一致したことが、まあ収穫といえばそうかもしれない。

 向こうは電話越しの相手が“杖無し”であることに戸惑ってはいたようだが。


 見学を速やかに終え、ティーバとともに今日の宿へと荷物を運ぶ。道順はティーバ任せで、事務所からは徒歩圏内の宿に到着した。

 そこそこ小綺麗な宿ではあるが、ヘルベティアはまた不満を垂れるだろう。しかし出張の際の宿泊手当には上限があるのだから仕方がない。

 部屋は3つ、職員課の規定に沿って取っておいた。

 女性のヘルベティアは当然1人部屋、管理職の所長も1人部屋、そして自分とティーバが相部屋である。

 部屋に荷物を運び入れると、もう休んでもいいような気分になってきた。夕食は宿で出るから店も考えなくていい。

 ループタイを緩め、硬めのベッドに倒れ込む。

「あー疲れた」

「ほんと」

 ティーバも窓際の小テーブルに置かれた椅子にどっかりと腰掛けた。

「疲れた」

 心の底からそう言っているように聞こえた。

 しばらくどちらも何も話さず、外を走る魔導車の音が小窓から聞こえていた。


「──北の所長、しっかりした感じの人だったなあ」

 天井の木目を見ながら初対面の印象を述べてみた。

 フー所長の自分に対する気になる態度はひとまずおいておく。

「……たぶんだけど」とティーバはテーブルに頬杖をついて窓の外を眺めている。

「西部以外、みんなあんな感じだと思う」

「やっぱりか」

 あの適当で胡散臭いキィト・ザクソンが特殊だということだ。別に驚きもないが。

「でもあの所長」

 それまでぼんやりとしていたティーバの口調に真剣さが混ざる。

「カイリ、というか非魔力保持者に対して、何かあると思う」

「……やっぱりか」

 ティーバもそう感じたのなら、自分の気のせいではないのだろう。

 “杖無し”であることは、どこにいても悪い意味で目を引くから困ったものだ。

「それと琥珀の民に対しても」

 続くティーバの言葉にも同意せざるを得ない。


 琥珀の民。この地の先住民。

 かつてはひどく迫害されていた彼らであったが、謎多き古代魔法文明の解明の重要な鍵を握っていると見なされるようになり──今やこの国では特権的な立場を持つ。

 軍事、経済、政治。あらゆる方面の権力者が琥珀の民の顔色を伺いゴマをすり、何とその“鍵”を得ようとしているのだ。

 そんな古代の民の血を色濃く引くヘルベティアに対して、まるでその存在は取るに足らないと言わんばかりのあっさりとした態度。

 あの所長には、何かあると思うのが普通だろう。


「……大丈夫かなヘルベティア。何も問題起こさないといいけど」

 心の声が正直に出た。

「そんなことはないと信じるしか……」

 ティーバもあまり自信がなさそうである。

「所長もいるから大丈夫だって言えないところが辛いよなあ」

 そうぼやくとティーバも何とも言えない顔で頷いた。キィト所長ではまったくあてにならない。

 

「……何にせよ、カイリはあまりあの人に関わらない方がいいと思う」

 そんなティーバの言葉に「異議なし」と返す口調は軽く、心の中では切実に願っていた。


 そしてその願いは、あっさりと打ち砕かれることとなる。

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