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西部遺跡管理事務所 業務日誌  作者: 青桐 臨
第一章 新入職員 ソナ・フラフニル編
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第11話 所内案内 後編

改行等一部修正しました。

 再び薄暗い階段を登る。


「調査係は遺跡内の定期的な調査とか、異常事態が起きた時の緊急対応をする係だよ」


 カギモトがごく簡単な説明をして、3階フロアに着いた。


 調査係のフロアはまた、他の係とは異なる雰囲気だった。


 端末の置かれた机が並んでいるのは同じだが、壁には使い込まれた黒い箒が何台も雑然と立てかけられており、深緑色のローブがすぐ近くに数着引っ掛けられていた。


 箒もローブも、調査係の調査用の特殊なものだろうとソナは思った。


 窓の側には「緊急出動用」のプレートが掲げられた出入口がある。遺跡に関して何か異変が起きた場合などに、調査係が真っ先に現場に向かうことができるようにするためのものだと推測する。


 バルトロから聞いたとおり、調査係の執務室にも、職員は2人しかいなかった。


 どちらもソナより多少年上の男性と女性。


 端末に向かっていた2人はカギモト達に気づいて一瞬顔を上げかけたが、何も見なかったかのように視線を戻した。

 無視されているということは何となくソナにもわかった。


「忙しいところすみませんね」

 と遠慮することなく、カギモトは調査係の執務スペースにずかずかと踏み入っていく。


「──おい」


 男性職員の方が険しい顔で立ち上がった。


 色素の薄い金髪をきちんと後ろに撫でつけ、深緑色のローブの下に仕立ての良さそうなシャツ、首元には高価そうな石のついたループタイで、一見すると紳士然として見える。

 しかし、蔑みを備えたような目つきはプライドの高さを感じさせ、薄い唇は不機嫌そうに歪んでいる。


「総務係が勝手に入ってくるんじゃない。俺は許可していないぜ」

「ノイマン」


 カギモトは敵意も露わな調査係の職員の名を気軽に呼んだ。


「冷たいこと言うなよ。新人の挨拶に来ただけだって」

「新人だと?」


 ノイマンは眉間に皺を寄せ、カギモトの後ろにいるソナを鋭く見た。


 品定めするような不躾な視線に、自身の魔力量が測られていることをソナは感じた。


 舐められてはいけない。


 ソナも相手の魔力を確認する。


 やっぱり、調査係の職員は格段に魔力量が高い。


「へえ」とノイマンは面白そうに呟いた。

「グリフィスの首席が来るとは聞いていたが、嘘じゃないらしいな。名前は?」

「……ソナ・フラフニルです」

「総務係には勿体ない逸材じゃないか」


 ノイマンは皮肉っぽく言って、カギモトを見る。


「まさかとは思うがおまえが教育係なのか?おまえの手に負えるわけがないと思うが」

「所長の指示だからね」

 カギモトは肩をすくめる。

「全力は尽くすよ」

「“杖無し”の全力って言われても一体何が……」

「うるせえな、おまえら」


 凄みのある声がノイマンを遮った。


 声の主はもう1人の調査係の女性職員。

 こちらも相当量の魔力を有しているのが感じられる。


 朱色の短い髪に、耳にはごつごつしたピアスがいくつもある。極めつけは、鳥の羽根のような特徴的な青いタトゥーが片頬を飾っていた。

 裏社会にいても全く違和感がない風貌の女性に睨まれ、ソナの体に緊張が走る。

 

「仲良くお喋りしたいんなら他所でやりな。仕事の邪魔だ」

「……失礼しました、アドネさん」


 ノイマンが躊躇いがちにでも謝罪を口にしたのは、何となく意外だとソナは思った。


「アドネさん」とカギモトはやはり気楽に呼びかける。

「こないだ壊した箒の領収書、精算できないんで早く持ってきてくださいね。自腹になっちゃいますよ」

「む……」

 アドネはカギモトをぎらりと睨みつけた。

「うるせえな“杖無し”が。忙しいんだよ見てわかるだろ。今だっておまえらに出す面倒な書類を作ってんだよ。マジ細かくてマジムカつく」


 確かにアドネの机の上には書類がごちゃごちゃと積み上がっていた。調査係でも、書類仕事はそれなりにあるようだ。


「申し訳ないんですけど、それがうちの仕事ですから」


 カギモトに言っても無駄だと思ったのか、アドネは大きな舌打ちをして長い足を組み直すと、次にソナに照準を定めた。


「ふん、グリフィス魔法専門学校だって? そんな秀才様がなんでうちの総務係なんかに来たんだ?冷やかしか?」

「……」

 アドネからの圧に対し何と答えるべきか戸惑い、ソナは沈黙を選ぶ。

「はっ、頭がよくてもお話もできねえ……」

「お邪魔してすみませんでしたね」

 カギモトがソナとアドネの間に割って入った。

「他の方もいないようですし、今日はこれで。行こうか、フラフニルさん」


 カギモトはさっさと踵を返す。


 ソナはカギモトについて行くが、ノイマンとアドネの冷たい視線が、背中に刺さっているような気がしてならなかった。


 この事務所における総務係の立場というものが、何となくわかった気がした。

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