第10話 所内案内 中編
2階の階段室の前で立ち止まっていたカギモトとソナは、ようやく管理係の執務スペースへと足を踏み入れた。
ソナはあらかじめ所内の座席表をカギモトから渡されており、管理係の人数規模は総務係と同じくらいだと把握していた。
総務係と違うのは、資料のきっしりと詰まった本棚や、顕微鏡やら試験管やら専門道具が散らかった作業机が、どこか研究室のような雰囲気を漂わせているところだろう。
「随分と少ないな」
カギモトが呟いたとおり、管理係の職員は1人しかいなかった。
「──お、カギモトくん」
近づくカギモト達に気がついた眼鏡の男性職員がにこやかに片手を上げた。
健康的に日に焼けた肌に、白い歯が映える。洒落た銀縁の眼鏡がよく似合う壮年の男性職員。
ソナは本日何度目かの自己紹介をした。
「ああ、君が総務係の新人さんね。俺はバルトロ・クルーガー。管理係の主任をやってるよ」
そこまで言って、バルトロは眼鏡越しにじっとソナを見る。
「ソナさん、美人だね。名前も素敵だ。すごいモテるでしょ」
バルトロのストレートな物言いに、ソナはやや面食らった。反応に窮し、口を噤む。
「バルトロさん、褒めるのは別にいいですけど、言い方気をつけてくださいね。公務員ですから俺達」
カギモトが困り顔で窘めた。
「はは、ごめんごめん。でも本心だし、きれいな人をきれいって言ったって別に悪くないだろう?」
バルトロは快活に笑う。
その爽やかさ故か、驚きはしたものの特別不快には感じない。
「管理係の他の人はいないんですか?」
とカギモトが話を変えた。
「新人さんの挨拶にと思ったんですが。あ、エンデとオズワルドにはさっき会いましたけど」
「えっとね、ハオは単純に夜勤明けで休み。あとはほら……アレス遺跡の件は知ってるかい?」
「アレス遺跡……」
カギモトが呟く。
「先週新通路が見つかったっていう、あの遺跡ですか?」
「そうそれ」とバルトロは少し真剣な顔つきになる。
「その件で今日中央で協議があって、係長とメッツェンはさっき出かけたよ。多分、調査係も何人か一緒に行ってるはずだね。……ってあれ?まさか総務は聞いてない?」
ソナには何の話やらよくわからないが、カギモトは難しい顔で首を横に振った。
「あらら、いつもすまないね」
バルトロは申し訳なさそうに頭を掻いた。
「別にバルトロさんが悪いわけじゃないですけど」
とカギモトは少し不満そうに言う。
「出張だと色々事務処理がありますからね。事前に総務係に言ってくれないと……」
「とりあえずゴシュ係長には俺から伝えておくよ。うちの連中には帰ったら注意しておく。多分戻りは明後日だけど」
「しかも宿泊ありなのか……」
カギモトは頭痛でもするようにこめかみを押さえた。
「ほんとごめん。でもおかげで見てよこれ。こっちも人手不足で大変なんだ」
バルトロは腕を広げて机に積み上がった書類を見せる。
「それは、お忙しいところすみませんでした」
カギモトが律儀に謝罪するとバルトロは「冗談だよ」と笑った。
「こういう日もないとね。あ、ソナさん、管理係のことで何かあったら、遠慮せずに頼ってくれていいから」
バルトロはソナににっこりと笑いかけた。
………………
「バルトロさんも言ってたけど、調査係の人も出張とか調査とかであまり人がいないみたいだね……。でもとりあえず顔は出しておこうか」
階段室に戻ってからのカギモトの言葉に、ソナはただ頷いた。
とにかく早いところ、この2人行動を終わらせたいと思っていた。




