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横山清衣弥は病院を出て調剤薬局に向かっている。
病院は総合病院。
診察よりも待ち時間のほうが長い。
加齢にともなっていろんな病気が発症している。
高血圧症やら骨粗鬆症、関節リウマチなんかで本当に嫌になる。
今日は整形外科だ。
どうも股関節が悪い。
へたすると手術も考えなければならない。
79歳にもなれば体のあちこちがガタガタだ。
薬を受け取ったらスーパーに寄る。
歩いてるだけで体が痛む。
少ない年金暮らしなので家賃2万円の都営住宅で独り暮らしをしている。
働きたくても働ける体ではないし年齢でもない。
年金は国民年金で月額で約62,000円ほど受け取っている。
それだけでは生活できないので貯金を切り崩してプラスしている。
選び抜いた安い食材を冷蔵庫に詰めていく。
外食は高すぎてできない。
両親もとっくに他界してしまっている。
若い頃に結婚はしていた。
始めは良かった。
一緒に生活するようになって1年がすぎた頃には夫のDVが酷くなっていた。
結婚生活は2年弱と短いものになった。
その後は再婚することはなく子供もいない。
両親も早い時期に亡くなっていて妹がいたんだが乗っていた車の事故によって命を落としていた。
北海道で暮らしていたんだけど真冬での車のスリップ事故だった。
今の清衣弥は天涯孤独の身となっている。
たった独りでのわびしい食事を終えてテレビ前の椅子に腰を下ろした。
足が痛くて椅子でないと座ることができない。
床に座ってしまうと立ち上がるまでに時間と労力がかかってしまう。
さてと、たいして面白くもないテレビドラマでも見ようかとリモコンを手に取る。
ただの暇つぶしにしかならない。
テレビに向けてリモコンをかざした時、異変が起こった。
眼の前の空間が揺れ始めた。
縦に波打っている。
その波を左右にグッと開いて人が出てきた。
ヨッと右手を上げて出て来たのはちっちゃな神様。
清衣弥は呆気にとられて微動だにできなかった。
目の前が変だなぁと思った次の瞬間にはもう神様が現れていた。
神様のことなどすっかり忘れていた。