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稲妻の契り~生贄に出された娘は雷神様から一途な溺愛を受ける~  作者: cheeery


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17/24

制裁



どうしよう……誰も私の声を聞いてくれない。


やがて、鬱蒼とした竹林を抜け、天王寺家の高い塀が視界に現れた。


そして。

誰かの叫びとともに、屋敷の門が叩き壊された音がした。


「燃やしてしまえ!!」


そう言って天王寺家の家に火を投げつける。


「天王寺家なんか……跡形も残すな!!」


ばちばちと木のはぜる音とともに、屋敷の一角から黒い煙が立ち上り、炎が窓から噴き出した。


火を放った……!?

赤く揺れる炎が、夜の闇を照らす。


人々の怒りの影を、怪物のようにゆらゆらと地面に落とした。


「ダメです!こんなことをしてもなんの解決にもなりません。話し合いを……話し合いをするのです……!」


私は喉が裂けるほどに叫んだ。

しかし、誰もそれを聞くことはない。


木材で建てられた家はみるみるうちに燃えていった。


そのとき。

黒い煙の向こう、崩れ落ちかけた玄関の戸を力任せに開けて、お父様たちが出てきた。


「なんなの、これは……いやぁ!!」


「たす、助けて……!」


その後ろから、母が咳き込みながら娘の麗羅の手を引き、裸足のままで現れる。


「お前ら、何をしてるんだ!」


お父様が強い口調で言った。


「うるせぇ!今まで好き勝手してきた報いだ!!」


「返せよ……俺たちの作物を!!」


「返せ!!貧困で死んでいった村のものを……!」


怒鳴り声と罵声が飛び交う。

父は、必死に手を振り上げて叫んだ。


「なにを考えてる!すべては村のためだ!それがどうして分からぬ。俺たちが村を守ってるからお前らが生きているんだろうが!」


「村のため!?ふざけるな!」


「てめえらの懐を肥やすために、搾取しつづけたんだろう」


「そうだ!与助が見つけたんだ、この名簿を……村の作物を売り飛ばし、自分たちだけ裕福な暮らしをしていたな」


「そ、それは……」


お父様がじりじりと後ずさりする。


「お前らふたりもそうだ!神話守になって……村の様子を見に来たことなんか一度もなかった。いつも派手な服を着て、遊び歩いて……俺たちはもう我慢の限界だ」


「ち、違うのよ……わたしはただ……っ!」


「そうよ、村のために……」


母の顔が蒼白に染まり、麗羅は恐怖で唇を噛みしめていた。


「おい、火を……火を消さないとうちが消えてしまう」


お父様は焦ったように言う。


「まだ自分の心配か!」


轟々と燃え盛る炎が、夜の空気を熱く歪める。


火の回りが早い……。


今夜は風がある。


このままだと……。


そう思い見上げた瞬間、天王寺家を包み込んでいた火が隣の大きな大木に燃え移った。


火の粉が降り、稲穂は一瞬で黒く変わっていく。


まずい……!


「みなさま、このままじゃキケンです!水を……井戸から水を運んで消火活動をしてください!」


必死に叫ぶが、耳を貸す者はいない。


皆、天王寺家の屋敷に向かって石や棒を投げ、怒号を浴びせることに夢中で、背後の炎など気づきもしなかった。


やがて――。


枝先の炎は太い幹へと燃え移り、その熱は空気を歪め、周囲の木々へ次々と飛び火した。


赤い舌が枝を舐めるたび、火は勢いを増し、煙が空を覆っていく。


「……っ、みんな!」


誰かがようやく振り返った時には、林全体が火に包まれかけていた。


「な……っ、火が!」


村人たちは一斉に顔色を変え、桶や鍋、何でもいいから水を汲み始める。


「急げ!このままじゃ村が丸ごと燃えるぞ!」


「子どもを奥へ避難させろ!」


怒号が恐怖に変わり、混乱の中で消火活動が始まった。


私も出来る限り水を火元にかけた。


ダメだ……全然消えない。


水をまくたび、白い蒸気が立ち上り、視界を奪う。


だが炎はそれを嘲笑うかのように、次から次へと広がっていく。


「……お願い、消えて……!」


腕はもう感覚がなく、呼吸は煙で焼けるように痛い。


「はぁ……はぁ」


その時――。

乾いた破裂音とともに、大木の幹が音を立てて崩れ始めた。


炎に包まれた大木が、私の方へゆっくりと傾き始める。


「ウソ……」


足が動かない。

ああ、ここで終わるんだ――。


ぎゅうっと目をつぶった瞬間。


──ゴロゴロゴロ……ッ!


頭上から大きな音とともに、大粒の雨が降り注ぐ。


そして、ゆっくりと目を開けると、そこにはライエン様が大木を手に持ち立っていた。


雨に濡れた逞しい腕が、燃え盛る木を受け止めている。


「ライエン、さま……」


「……怪我はないか」


低く、確かな声。

私は、首を縦に振った。


来てくれたんだ……っ。


ライエン様は木を横へと押しやり、そのまま片腕で支えながらゆっくり地面に横たえる。


炎の赤が水に打たれ、じゅうっと音を立てて黒く沈んでいった。


彼の顔を見たら心がほっとした。


すると彼は言う。


「雨を降らせればいいか?」


私は目を丸める。


「お前の願いはよく分かっている」


とても優しい顔をしてそう告げると、ライエン様は槍を天へ向け、ぐっと掲げた。


柄を握る指先から青白い稲光が走り、空を貫く。

次の瞬間、雲が裂け、大粒の雨が滝のように降り注いだ。


冷たい雨粒は、炎を沈めていく。


「あ、雨が……」


「すごいぞ……」


ぱちぱちと音を立てて火がしぼみ、白い水蒸気がもくもくと立ちのぼった。


村の家屋や木々を飲み込もうとしていた炎も、激しい雨に息を奪われていく。


豪雨がしばらく降り続き、炎はほとんど鎮まっていった。


赤々とした残り火が、雨粒に打たれてじゅう、と音を立てる。


……もう、大丈夫かもしれない。

そう思った時。


「……あ、あなたは……?」


私の隣にいるライエン様に視線が集まった。


水滴が彼の髪先から滴り落ち、肩や腕を濡らす。


金色の瞳が静かに村を見渡していることにみんなは驚いていた。


あ……みんながライエン様の姿を認識してしまった。


ライエン様はその問いに答えるように告げた。


「我が名は――雷神」


「雷神、さま……?」


その名を耳にした瞬間、空気が変わった。


村人たちは一斉にひざまずき、雨に濡れた地面に額をこすりつける。


「雷神様……そうか、雷神様が助けてくれたのか」


「村神様が……助けてくださった……!」


「ありがとうございます!ありがとうございます……!」


口々に感謝を伝える。


中には嗚咽を漏らしながら頭を下げる者もいた。


雷神は頭を下げる村人を見て静かに告げた。


「我輩は、美鈴を助けるために雨を降らせただけだ。お前らの言う村神様などではない」


「雷神様……?」


みんながぽかんと口をあける。


よく分かっていないようだった。


みんなは村神様である雷神様がこの村を守ってると思っている。


「お前らは勘違いをしている」


「へ……?」


「誰が村を守っているのか、それは神などではない。それを心にとめておけ」


そう、私たちは神様が全てを決めると長い間から信じてきた。


でもそうじゃない。

私たちはこの村を自分たちの力で守ってきたんだ。


やがて、炎の色は完全に消え、残るのは白い湯気と、雨に濡れた黒焦げの木々だけだった。


村人たちは安堵の息を漏らし、互いの無事を確かめ合う。


そして天王寺家はというと……。


「捕まえろ!」


その声と同時に、3人は捉えられた。

縄で体を巻き付けられ、もう逃げることは出来ない。


そして村の人が言った。


「これから全てなにをやってきたのかを尋問してやる。お前たちが今の地位にまた戻れることはない」


縄で縛られた天王寺家の人々は、村の中央の広場へと引き立てられた。


広場の中央には、太く硬い竹のむちが無造作に置かれている。


村人がそれを手に持ち、竹むちが振り上げられた。


しなった竹が空を裂く音が耳を刺し、麗羅たちの肩に赤い線が走った。


「いっ……!」


悲鳴とともに、麗羅の身体が大きく震える。


もう一度、むちが振り下ろされる気配に、彼女は必死に顔を上げた。


「……美鈴っ!たすけて……お願いよ」


かすれた声で必死に助けを求める麗羅。


「お願い……私はあなたの大事な妹でしょう?」


まっすぐな視線。

確かに大事な妹だった。


「そうだ、お前は俺たちの家族じゃないか」


お父様も必死で伝える。


家族……か。

本当にそう思っていたのなら、もっと早くにそれを聞きたかった。


生贄へと差し出されなければ、毒を盛られることがなかったら庇うことができたかもしれない。


でも今は……。


「自分の罪を償ってほしいです……」


私はまっすぐに伝えた。


もうこれ以上、自分たちのことだけを考えないでほしい。

もう一度ムチが振りかざされる。


するとその時、麗羅が言った。


「ま、待って……!言う……言うから……」


かすれた声が、広場のざわめきに紛れて震える。


「私が……なにをしてきたのか……全部、言うから……私だけでも解放して……」


その言葉に、囲んでいた村人たちの視線が一斉に鋭くなる。


「なにをしたんだ、吐け!」


一人の男が手にしていたむちを高く振り上げ、雨の中でぴしゃりと地面を叩いた。


水しぶきと共に、湿った音が響く。


麗羅はびくりと肩を震わせながら告げた。


「……わ、私が……毒を……盛った……」


その声は、最初は小さく、聞き取れないほどだった。


「わ、私……は、神話守の式典の時に……美鈴に毒を盛りました」


「どういうことだ!」


お父様が驚いたようにたずねる。


「私が神話守になりたくて、お姉様が失敗する毒を持ったのよ!」


空気が凍った。


「うそ……だろ」


みんなが信じられないという口調で麗羅を見た。


「コイツのせい、だったのか……!」


一人の若い男が低く唸るように言い、握り締めた拳を震わせる。

さらにムチの音が響いた。


「痛い……っ。助けてくれるって言ったでしょ?私だけは解放してくれるって……」


「なにを言うか!お前がやった罪は到底許されるものではない」


ざわめきが雨音に混じり、やがて怒号となって広場を包み込んでいく。


麗羅は縛られたまま身を縮めたが、もはや逃げ場はなかった。


ムチの音は夜が明けるまで続けられた。



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