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稲妻の契り~生贄に出された娘は雷神様から一途な溺愛を受ける~  作者: cheeery


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村の異変



薄曇りの朝、私は神殿の高台に立っていた。


天上の雲の縁から下界を見下ろせるこの場所で、私は遠くの村の様子を眺めるのが、習慣のようになっている。


雲の切れ間から差し込む光の向こうに、見慣れた村の輪郭がかすんでいた。


けれど、そこに広がっているのは、かつての緑あふれる風景ではなかった。


村の様子がおかしい。


どうやらまた雨が降っていないようだった。


「どうして……またこんなことに……」


あの日、雷神様が雨をもたらしてくれて、村は生き返ったはずだったのに。


私は思わず、胸の前で手を組んだ。


干ばつは危険だ。

作物が取れなければ村の人が生きていく手段がなくなってしまう。


たとえそこに居場所がなくとも、あの地にいる人々の苦しむ姿を見るのは、つらかった。


すると、背後から雷神様の声が聞こえた。


「何をしている?」


私はハッとして振り返った。


「あっ、えっと……村の様子を見ていて……」


どうしてもいけないことをしているような気持ちになる。


雷神様は私のことを思って、村の人のことをよく思っていないからだ。


「どうやらまた干ばつが続いているようなんです」


しばらくの沈黙のあと、雷神様はふう、と短く息を吐いた。


「……美鈴のお人よしには呆れる」


「ら、ライエン様……」


「でもそこがお前の良さだ」


その言葉に、胸がきゅっとなった。

そしてライエン様は私の頭をポンポンと撫でた。


「俺も共に行こう」


「えっ……?」


「お前が傷ついて帰ってくるのはたまらん」


「ライエン様……」


怖がられても、嫌われても、それでも自分の目で村を見て、何かをしたいと願った私に、雷神様はそっと寄り添ってくれた。


「ありがとう……ございます」


「準備をしろ。行くなら、今夜の月が満ちる時が良い。天と地の道が開きやすくなる」


「はい」


振り返ったその背に、ライエン様の衣がかすかに揺れた。


再び村へと戻った時、まず最初に私たちを出迎えたのは、土の匂いだった。


水路はひび割れ、田んぼは干からびて稲の根元が黒く枯れていた。


畑の作物もほとんどが実らぬまま萎れ、所々、風で飛ばされた蓑笠だけが土の上を転がっている。


「……ひどい」


思わず声が漏れた。

風が吹いても涼しさのかけらもない。


汗だくのまま鍬を振るう農民たちの表情には、焦燥と疲労が色濃く刻まれていた。


みんな辛そうだ……。


私と雷神様は、人目を避けながら村のはずれの小屋へと向かい、そこでかつて顔なじみだった老人――杉爺のもとを訪ねた。


ライエン様は部屋の外で待っていてくれるらしい。


杉爺は私の母をよく知った人でいつも味方でいてくれた。

母を尊敬している分、私にも優しくしてくれるんだ。


今は足が悪く外には出られないらしい。


「……!美鈴か?本当に、生きとったんか……村の人たちがウワサしてたんじゃ」


「ええ。今は少し、特別な場所でお世話になっていて……それよりも、今の村の様子は!?」


杉爺はどこか気まずそうに目を伏せた。


「……戻ってこんほうが良かったもしれんな。お前を見て、また祟りが戻るなどとウワサする者もおるかもしれん。村の皆は貧困でロクな栄養も与えられず、罵り合ってばかりじゃ」


「どうしてそんなことに……」


しばらく沈黙のあと、杉爺は深くため息をついた。


「……作物が育たんようになって、貧困なら中、そのほとんどを天王寺家が献上という形で回収し始めたんじゃ」


「献上?ほとんどの作物を、ですか?」


「そうじゃ。村の人間には収穫のたびに賃金が出るが……ごくわずかじゃよ。食べていけるだけの金にはならん」


私は言葉を失った。


これじゃあまるで村人たちから搾り取っているみたいだ。


村が一番大事な時にどうして、そんなことができるの?


「今じゃ、井戸の鍵も天王寺家が管理しとる。貧困で何人も人が死んだ。でも天王寺家はなにごともなく豪勢な生活を送っておる」


「……ひどい」


私は拳を握りしめた。


「村の人を助けに行かなくちゃ……!」


私が そう伝えた時、杉爺が言った。


「やめておけ」


ピタりと足を止める。


「どうして……」


「お前は今、安全なところにいるんじゃろう?それならばそこにいた方がいい」


「でも……」


「村人は皆、おろかじゃ……真実を見極めようとせずすべてを美鈴のせいにした。そしてお前までを生贄として差し出したんだ。もう美鈴がこの村に関わる必要はない」


たしかに、またあの視線を向けられるかもしれない。

そう思うとすごく怖い。


でも……私は、育ってきたこの村を……お母様が生きてきたこの村を大事にしたいんだ。


「杉爺……私、やっぱり村を守りたいんです。だから行きます……」


決意のまなざしを向けると、杉爺は小さく笑った。


「その力強い目、決めたことは必ずやりとげるところ……美鈴は母親にそっくりだなぁ」


杉爺の言葉に私は恥ずかしくなる。

でもお母さんに似ていると言われて嬉しかった。


「行ってくるね、杉爺」


みんなが平和に暮らせる村にするために。

みんなが手を取り合って暮らせる村にするんだ。


杉爺の家の戸を静かに引き、外に出た。


すると、境内の影に寄りかかるようにして立つライエン様の姿があった。


「ライエン様……」


「美鈴……話は終わったか?」


「はい……」


ライエン様にそっと近づく。


私はひといきおいてから、真っ直ぐに言葉を伝えた。


「これから村を救うために動いていきたいって思ってます」


ライエン様はまた反対するだろうか。

私をおろかだと思うだろうか。


すると、ライエン様はゆっくりと顎を傾け、静かに伝えた。


「手を貸すか?」


ライエン様は優しいな……。


でも私は首を振った。


ライエン様が力になってくれたら、きっとすぐに今の状況を変えられるだろう。


でも……それじゃあダメなんだ。


人に頼ってなしえたことは、何も自分の力にはならない。


今だかつて、私たちは神様を頼りに生きてきた。


祈り、生贄を捧げ、頭を下げてどうにかして欲しいと頼みこむことで生き延びてきた。


でもそれが正しい形でなはないと知った。


私たちにだって出来ることはある。

変えられるものがある。


「……私がなんとかします。そうじゃなきゃ……ダメだから」


ライエン様は私を見つめ、静かに目を細める。


「……分かった」


私の伝えたかったことを全て察してくれたのだろう。


そして背を向けると、わずかに振り返った。


「俺は天上に先に戻る。だが……何かあった時は、必ず俺を呼べ」


「はい……」


それだけを告げると、ライエン様は光の粒に包まれ天へと帰っていった。



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