第24話「仕掛けられた結末」
「次は“人”を狙う。」
黒板裏に貼られていた紙切れ。その警告が現実になる前に、犯人を突き止めなければならない──
逗子、鎌倉、厚木、茅ヶ崎、そして小田原の五人は、ついに“調査班”として行動を始めた。
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月曜の朝。クラスは一層、ピリついていた。
事件の余波で、出し物の準備は止まり、責任者の真鶴は欠席していた。寒川は一人で机に突っ伏している。何も言わないまま、手元のノートを握りしめていた。
「……これ、クラスの空気やばいよね」
廊下で茅ヶ崎が呟く。サラッとした巻き髪を指で遊ばせながらも、視線は鋭い。
「焦る必要ない」と逗子は答えた。「でも、時間は限られてる」
そのとき厚木が、印刷室から慌てて戻ってきた。
「逗子! 印刷室の紙……“誰かが再び壊そうとしてた”かも」
印刷室の機材にペンキの飛沫と、割れたプラスチック片。何かを加工していた痕跡が残っていた。
「でも、結局破壊されてないなら、抑止になったってことかも」
鎌倉が言うと、茅ヶ崎がスマホを取り出す。
「……ねぇ、昨日の夜10時、“鍵が空いてた”っていうチャット、見た?」
「……それ誰?」
「港南。あいつ、文化部だから校舎の夜間申請に詳しいのに、昨日の夜は『知らね』って言ってた。おかしくない?」
茅ヶ崎の指摘に、逗子は静かに頷く。
「港南……ね」
だがその数分後、別の“可能性”が浮上する。
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昼休み。校舎裏に集まる逗子たち。
「……これ、見て」
厚木が示したのは、音楽室の備品貸出ノート。そこには、事件前日に「マイクスタンド」と書かれた貸出票に、“磯子”という名前が残されていた。
「磯子……?」
「地味だけど、実行委員会に文句ばっか言ってた子だよ。『どうせやっても失敗する』ってずっと言ってた」
思わぬ名前の浮上に、緊張が走る。
そこに茅ヶ崎が割って入った。
「でもさ、磯子が犯人だったら、“わざわざ自分の名前”を残すかな?」
「……確かに、そういう人じゃない。あの子、むしろ……影で文句言うタイプだ」
鎌倉が補足する。
「ミスリード、か……」
逗子はその場でノートを開き、事件の流れを整理する。
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【事件の流れ(整理)】
1.テーブルクロスの破損(初期)
2.メニュー紙の濡損
3.装飾本の破壊
4.背景パネル破壊(+ペンキ)
5.照明の断線
6.印刷室ペンキ未遂
7.「次は人」メモ
「破壊対象は“準備物”。それが次は“人”へ向いている。なのに、実行されない未遂が続いている。これ……怖がらせるだけの目的じゃない?」
そこへ、小田原がボソリと口を開いた。
「おれ……思い当たること、あるかも」
「え?」
「昨日の夕方、屋上近くの非常階段に誰かいた。制服だったけど、髪が……」
「髪?」
「長くて……艶があった。たぶん、女の子。スマホで何か撮ってた」
「撮ってた……?」
そこへ再び茅ヶ崎。
「ねぇ、それって……“寒川さん”じゃない?」
一同が息を呑む。
「そういえば、昨日も一人だけ教室で長く残ってたらしい。真鶴が来れなくなってから……ちょっと変じゃない?」
「まさか……犯人は寒川さん?」
逗子は黙ったまま、ノートに“寒川”と書き加える。
――だが。
「違う」
はっきりとした声でそう言ったのは、茅ヶ崎だった。
「寒川さんは、犯人じゃない。むしろ“狙われてる”」
彼女はポケットから、折り畳まれた紙を出した。
「これ、今朝ロッカーの裏に挟まってた。“寒川、出しゃばるな”って、手書きのメモ」
一同の顔が険しくなる。
「つまり……」
「そう、真鶴と寒川は“潰されかけてる”側。犯人は別にいる」
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その直後、事件は起きた。
教室の照明が突然ショート。パチンという音とともに、天井から火花が散った。
「きゃっ!」
叫んだのは、窓際の席にいた鎌倉だった。
しかし、照明のケーブルは“すでに修理済み”のはずだった。直したのは、生徒会メンバーの……港南。
その名が再び、浮上する。
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放課後。生徒が帰った後の教室に、5人は集まっていた。
「港南、怪しいよね」
「でも、あいつ一人でこんなに仕掛けられるかな?」
逗子は教卓の横にしゃがみこみ、スイッチのパネルを開けた。
「……これだ。ケーブルが“二重構造”になってる」
火花を出す用の偽装線──爆竹に近い工作が見つかる。
「手が込んでる。電気系に強くて、目立たない性格……それって……」
「……久里浜?」
厚木の言葉に、空気が張り詰めた。
久里浜──文化部に所属し、機材係でありながら“あまり顔を見せない男子”。
しかし茅ヶ崎は、ゆっくりと首を振った。
「久里浜くんじゃない。だって彼、先週骨折して片腕ギプス中」
その瞬間、逗子の脳内にひとつの“矛盾”が浮かんだ。
「じゃあ、ケーブルの交換作業……どうやって?」
厚木が眉をひそめた。
「……誰かが“生徒会の港南になりすまして”、申請書を出した?」
そして最後に、茅ヶ崎が静かに言う。
「犯人、わかった。名前も、動機も」
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翌日。朝の教室。
逗子は、静かに前に出た。
「この事件、全部“ひとりの人間”が仕組んでた。港南、お前じゃない」
「はぁ? なにいって……」
「……港南はただの“ダミー”。本当の犯人は──弥生台」
教室が静まり返る。
弥生台は、教室後方の席で息をのんでいた。
「なぜ……」
逗子が言う。
「全ての事件の裏には、“鍵の申請”と“設備の知識”が必要だった。でも、文化部でも生徒会でもない生徒がそれを知るには──“教職員の協力者”がいる必要がある」
「君は教務課の補助をしてた。放課後に“特別清掃員”として出入りしていたのを、僕は調べた」
茅ヶ崎が続ける。
「そして、寒川さんに恋してた。でも、真鶴と距離が近いのが気に食わなかった。だから、真鶴を“潰した”。」
弥生台は静かに立ち上がる。
「……気づいてたんだ。あいつが文化祭成功させて、ヒーローになるのがイヤだった」
その言葉に、教室の空気が凍りついた。
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事件は“未遂”で終わった。
真鶴と寒川には事情が説明され、弥生台は停学処分。文化祭は予定通り実施が決まった。
放課後、踊り場にて。
「助かったね」
鎌倉が笑う。
その隣で、茅ヶ崎が飴をくわえて言う。
「つーか、あたしの手柄だよね、ほぼ」
「そうだな。あのメモ、なかったら行き詰まってた」
「ま、たまには“名探偵の隣のヒロイン”も悪くないかも」
「ヒロインは……誰なんだろうな」
逗子の言葉に、鎌倉がちょっと不満そうに眉を寄せたのを、彼は気づかなかった。




