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前編:まぁ、そうなるよねって話

かなり間が空きましたが、15作目になります。

内容はタイトル通りです。

 大陸の端にある国、トリル王国の王城。

その一室で王太子とその婚約者である公爵令嬢の間で、婚約の白紙撤回の話がされていた。

既に双方の親には連絡済みであり、了承されている。


「これまでの貴女の献身に感謝すると共に、我が身の不甲斐なさ故に多大な苦労を掛けた事、陳謝する。慰謝料についても我が名に掛けて、支払う事を約束しよう」


 そう言って頭を下げた王太子、フューリーに対し公爵令嬢のアマンダは、表情には出さなかったが、内心は酷く驚いていた。


「……謝罪はお受けいたします。私こそ殿下の御心に沿えず、我が身の力不足を痛感いたしましたわ」


「そうか……。本当に今まですまなかった。そして感謝する。ありがとう」


 そう言うフューリーの表情、態度はまるで憑き物が落ちたかのようだった。

これが彼女を今まで悩ませていた、短慮で我儘だった駄目王子だとは……。

今の彼ならば、婚約関係を続けても吝かでは無かったかもしれないと、アマンダは思った。

もう遅いが。


 婚約を白紙撤回してから数日、アマンダは久しぶりの自由を満喫していた。

長い間王妃教育を受けていた為、丸一日怠惰に過ごすなど、どれくらいぶりか。

とは言え、彼女も結婚適齢期に近い身だ。

近い内に新しい婚約者を見つけなければならない。

そう思いながら、彼女はこれまでの事を反芻していた。


 フューリーとの婚約が結ばれたのは約7年前に遡る。

例によっての政略結婚である。

第一王子であるフューリーは、当時から問題児であった。

特別出来が良い訳でも無く、我儘放題という、まぁろくでも無い王子であった。

彼が立太子出来たのは、アマンダとの婚約によるところが大きい。

何故、態々フューリーを立太子させる為にアマンダと婚約を結んだのかと言うと、彼が長子だからだ。

代々の慣例に従い、長子が王を継ぐ、その為だけにアマンダは婚約させられた。


 アマンダは公爵家の出であるのに加えて、当時から優秀な令嬢であった。

フューリーが無能でもアマンダさえしっかりしていれば問題は無い事もあり、彼女はフューリーの婚約者となったのだ。


「……まあ、結局どうにもなりませんでしたが」


 紅茶に口を付けて、アマンダは独り言ちる。

フューリーはどうしようもなく愚かな王子だった。

アマンダなりに王族としての自覚を持って貰おうと、助言や叱咤をしたのだが効果は無かった。

それでいて自分よりも優秀なアマンダに嫉妬するなど、人間としても小物であり、これが自分の伴侶となる事を嘆く日々が続いた。

貴族として国に尽くす覚悟はあったが、一個人としてはこんな男に自分の人生を犠牲にされる事に、内心辟易していた。


 それから後、王国内の学園に入学する事になる。

尤も、王妃教育を受けていた彼女にとって学園での授業などとっくに修めていたので、形ばかりの入学であった。

アマンダは他国へと留学した。

将来、フューリーを支える者として、より力を付ける為だと言う名目だったが、実際はフューリーと距離を置く為でもあった。

学ぶ事も無い学園の授業に意味は無い上に、フューリーのフォロー迄させられる羽目になるのが目に浮かぶからである。

こうして彼女はトリル王国よりも文化水準が高いとされる、サーマル王国へ旅立った。

そこで彼女は運命的な出会いをする。

いや、再会と言うべきだったか……。


「君は……もしかしてアマンダ嬢かい?」


 留学先のサーマル王国貴族学院にて、アマンダに声をかけた人物。

彼こそが大陸最大規模を誇る大国、ラージア王国王子である、グリフィンであった。

そして、アマンダの初恋でもあった。


 彼との出会いはフューリーと婚約する前の幼少期に遡る。

ラージア王国の貴族と繋がりのあったアマンダの実家が、夜会に招待された。

そこで彼女はグリフィンと出会ったと言う話である。


 理想の王子であるグリフィンとの出会いによってアマンダは彼に相応しい淑女に成ろうと努力した。

その結果優秀な令嬢となった彼女は皮肉にも王家の目に止まり、フューリーと婚約を結ぶ羽目になってしまった。


「お久しぶりでございます。グリフィン殿下」


 カーテシーを決め、初恋の君へ挨拶するアマンダ。

内心は緊張しっ放しだ。

再会を夢見ていたが、いきなりのエンカウントに少々泡を食っていた。


 それから程なくして、アマンダとグリフィンは久しぶりの交流を果たした。

自国よりも遥かに高い教育水準の学院の授業と、グリフィンとの交流の日々は充実したものだった。


 グリフィンにはまだ婚約者が居なかった。

大国でありながら先進的なラージア王国では、自身の伴侶を自らの目で選ぶのだと言う。

親によって決められる自国よりも考えが進んでいると、アマンダは思った。

同時に、もし自分に婚約者が居なければ……など益も無い事を考えた。


 彼女達も高位貴族である。

諸々キチンと弁えており、学院での交流は学生としての範囲を出ない程度に抑えていた。

それから暫く経った後、留学期間を終えたアマンダは自国への帰路に就く。


 そして卒業を控えたある日に、彼女は婚約の白紙撤回をされたのだった。


 久しぶりの自由を満喫したアマンダの元に、一つの知らせが入った。

なんとグリフィンが公爵家に来るのだと言う。

急いで受け入れの準備をした所で、グリフィンがやって来た。


「アマンダ嬢、私と結婚して欲しい」


 開口一番、プロポーズされた。

事情を聞くと、グリフィンもまた幼い頃に出会ったアマンダの事を気に掛けていた。

月日が流れ、再会した時に旧交を温めている内に、嘗ての気持ちが再燃したが、既に婚約者が居た為、アマンダの事は諦めようとしていた。

だが、アマンダが婚約を白紙撤回した事を知り、居ても立って居られずにこうしてやって来たそうだ。

これには当然アマンダも驚いたが、喜んでそれを受けた。

幼い頃の初恋が実を結んだのだ。

更に大国の王子と縁を繋ぐことは公爵家としても歓迎される事だ。

彼等は直ぐに婚約し、結ばれた。


 アマンダは幸せの絶頂だった。

悩みの種であったフューリーとの婚約は白紙化され、初恋のグリフィンと結ばれたのだから、それもそうだろう。

これからは大国であるラージアの地にて、愛する夫と共に、国を盛り立てて行こうと思っていたが、残念ながら思ったほどの未来を掴む事は出来なかった。


 大国ラージアからすればトリル王国など取るに足りない小国である。

故にトリル王国の公爵家など、下手をすればラージア王国の伯爵家にすら劣る。

アマンダは優秀でトリル一の淑女であったが、ラージアの最上級の令嬢からすればそこそこ止まりだった。

自国では並ぶ者が居ないとされたアマンダにとって、それは信じられない程ショックな事であった。

自分なら大国の淑女達とも渡り合えると自負していたが、そんな事は無かったという事を思い知らされた。

これまで自国でNo.1だった自分が、この国では2番手処か3番手にすらにも届かない事実に彼女は打ちひしがれた。


 悪い事に、グリフィンの目が覚めてしまった。

長い間患っていた初恋が叶い、燃え上がった恋心も落ち着いた所で、等身大のアマンダを見られる様になったが故に、そうなったのは皮肉と言いうしかない。

初恋フィルターが外れた事で、彼の中にあった偶像のアマンダと、実際のアマンダの差を認識し、『あれ? 思っていたのと違うぞ?』となった。


 それまで脇目を振らずに走っていた彼は、立ち止まって自分の周りの景色を見渡すことが出来るようになった。

そして自分が恋焦がれ、漸く手に入れた花よりも、周りの花の方が美しかった事に気付いてしまった。

最早後の祭りだった。


 グリフィンも今更婚姻関係を破棄させる事は出来ず、このまま進むしかなかった。

ラージア王家は伴侶を自分で選ぶ事が出来る。

それは恋愛結婚を奨励しての事では無い。

もしかしたら一部はそうで有るかもしれないが、肝心なのは自身の目で以て、自国に相応しい伴侶を見つける事である。

自国でも、他国でも相応しい者であるならそれで良いのだ。

まぁ、結局の所は自国の高位貴族から選ぶ事になるが。


 そんな中でグリフィンが選んだ他国の公爵令嬢。

一時期は王家も期待したが、結果としてはその目に適わなかった。

これにより、グリフィンは次期王太子レースから脱落した。

以降は一家臣として王家に仕えるのみとなる。


 ラージア王国にて、グリフィン王子は愛する女性と添い遂げる為に、敢えて王位継承権を放棄したという美談が流れた。

本人は勿論そんな気は無かった。

ラージア王家はグリフィンを外れを引いた間抜けと評していたが、それでは余りにも外聞が悪い。

故に美談へと仕立て上げたのだ。

グリフィンは全てを察し、それを飲み込んだ。


 アマンダは自分がグリフィンを支える処か、お荷物でしかなかった事実に気付かない程愚かでは無い。

気付かなかったなら、それはそれで幸せだったのかもしれない。


「……小国の公爵令嬢が身の程を弁えずに大国の王子妃を望んだ。その結果がコレとはね……」


 別に彼等は、決して不幸になった訳では無い。

ただ100点満点の結果が得られなかっただけだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「ろくでもない」という言葉は漢字にすると「碌でもない」なので、「禄」は誤字になります。 ただし「碌」は当て字でしかないので、平仮名で表記するのが無難ですね。
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