君のお祖父ちゃんは、気合で魔王を倒したんだぞ
山の向こうにある気が遠くなるくらいに広大な農園。
父と息子は、そこでたった二人で農作業を完璧にこなしていた。
その日、最初に怪異に気づいたのは息子であった。
「父さん、明らかに恐ろし気なヤツが来たよ⁉」
「何⁉ オレの意志の力で追い払ってやる!」
「ぬああああああああああああああああああああああ~⁉」
襲い掛かってきた魔王の亡霊は、その凄まじい力に苦しめられた。
「ば、バカな~⁉ ワシはこれまで、幾多の国を、文明を滅ぼして時代を終わらせ、ありとあらゆる種族を滅ぼし、オムニバースを征服してきた! 髪の毛の本数程の勇者を侮辱し葬り、数えきれないほどの姫君と女王を寝取ってきた! それなのに、このワシが、こんな頭の悪そうなチャラチャラした童貞の若造なんぞに~……⁉ 一体、どこからこんな力が~⁉」
「お前にはわからんだろうな、魔法も勇者の剣も、科学力も超能力もないが、オレには愛だけはある! 意志の力で押し返してやるぜ、このバカが~!」
「ワシは賢くてカッコいい! ブウェオェっ……⁉ く、くそ、まだ、神の加護とか、他の世界から来たとかなら、まだ納得できる、だが、お前は、ただの男だぞ、それなのに、悪魔の頂点にいる、このワシが~……⁉」
こうして、父親の意志によって魔王は再び滅ぼされ、世界と物語は続いて行く……。
完。
「いや、『完』じゃねぇ! 『何が物語は続いて行く」だ、戯け! もう終わっちまってんじゃねぇか! 本当なら、ここで適当にモブを殺して、ワシの残忍さをいろんな世界の者たちに知らしめるという……」
「僕が知らない人たちの仇……!」
「ウゲっ……」
息子による意志の力で殴られると、魔王は本当に倒されてしまった。
……さ~て、空に映るのは、この物語には出ていない個性豊かなキャラクターたち。
掃除しているエルフ。
いかにも主人公の勇者らしい剣を掲げる少年。
魔法使いらしい美少女。
手を組んで祈っているらしい、儚げで麗しい姫君。
誇らしげに腕を組むスーツ姿の青年。
満面の笑みのマスコット枠のネコ。
ライバル枠だったらしい、吸血鬼の美少女。
そんでもって、場面の左下の方に映される文字は、『めでたしめでたし』。
「……で、父さん、あれは一体、何だったん? そして、なんかエンドロールみたいに空に映っている人たちは、誰なんです? いや、本当になんなんだ、あれ⁉」
「きっと、オレたちが知らないところで物語を展開してた人たちだろう。さあ、今日はここまでにして、ご飯にするか」
「うん、父さん」