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絶滅危惧種の苗字達  作者: 将募人間
6/7

男と話す女が嫌い

合唱コンクールが迫ってくる。

もう、明後日が本番だった。

今週の六時間目は全て学活になって、どこもかしこも合唱コンの曲を歌っていた。

教室では、伴奏と指揮者とソプラノが。

廊下ではアルトが。

扱いの酷い男声は、外の庭でCDと練習。

それが前半の練習だった。

後半は、全員が集まって合同練習。

そしてその動画を聴いて、改善点を見つけていく。

たまには他のチームの曲を聴きに行き、自分たちも曲を聴いてもらった。

そしてとりあえず、凄いとか、ハーモニーがどうとか、無理やり作った褒め言葉で会話をした。

「もう明後日かー」

「弁当のおかずどうしよっかな」

「日の丸弁当はどう?」

「なんでやねん!」

休み時間、二人はワゴンを運びながら話していた。

戻ってくると、二人は、数学の用意を置き去りしている机をいくつも見た。

そして、後ろの黒板を見てため息ひとつ。

「数学ぅ? あ゛ーー! やりたくねぇ!」

「しゃーない。もう諦めよ」

頭を両手で抱えて叫ぶ肇を、諦めた哩が慰めた。

おぇえ、と吐く真似をする肇に、誰かがぶつかってきた。

それは、横にデカイことで有名なデコだった。

謝りもしないデコにムッとした哩が、デコに向かって言い放った。

「朔邪魔。朔お前横デカイんやし、譲りィや」

「えぇ〜、そんなのハジメルンがどいたら良くね?」

「ハジメルンとか呼ぶなデコ」

「お前! お前も俺のことデコとか呼んでるだろ!」

そうしているうちに、チャイムが鳴る。

隣がデコのロッカーだから、肇とデコは互いに邪魔だと言い争いながら用意を取り出す。

数字のファイルと教科書。

ちなみに、まだ教科書は使ったことがない。

「おい朔、お前ファイルは?」

「多分家w」

キャハハと掠れた声で笑うデコ。

本当は、デコじゃなくて朔という名前なのだ。

肇くらいだ。

朔のことをあだ名呼びしているのは。

他のやつは、話しかけようともしないから。

「お前プリントないのにどうやって勉強するの」

「先生にもらうw」

「朔お前いっつも忘れてるもんな」

「あの引き出し見て」

「うっわ······汚ね」

窓際の一番端っこ。

テレビに一番近い席が、デコ──朔······どっちでもいいわ──のVIP席だ。

常にデコは、そこの席。

あまり変えないほうがいいと、席替えの時に言われているのだ。

席替えは、まずは班長から決められる。

その班長が、自分の手下となる班員を選んでいく。

デコが班長になったときは全員が絶句した。

デコはリーダー気取りばっかりするから。

ただ、デコは本物のリーダーを班員にしてしまったのだ。

それが。

「朔。ちょ、邪魔。周り見て動いて」

「げっ」

真面目さん──タカモトだった。

別にリーダー気取りをしているわけじゃないのに、何故かみんな彼女に従う。

「なんでウチの席の前、朔なんだよ······」

「どんまい。でも私隣だよ。一緒に頑張ろ?」

タカモトと仲がいい女が、タカモトを励ましている。

デコが班長の班に入ってから、肇は何回もその会話を聞いた。

肇はあまり、タカモトとは話していなかった。

席が近くないから、というのもあるけど。

話さない理由は、彼女がどうしても真面目で静かなやつに見えてしまうから。

真面目で、キレると静かに黙ったままデコを睨みつける──怒ると自分、クールな感じになるんだよねアピールをしてくる奴だと思って。

実際は違ったけど。


「凛ってなんか、イメージとちゃうかった」

「リン? それってタカモトのこと?」

「うん。そーいえば肇はあんま凛と話さへんよな」

「話すことないじゃん?」

「まー確かにね。僕は同じ班やし話すことあるけどさぁ、凛って意外とフレンドリーって感じなんやで」

「ふぅん」

音楽室に向かう途中、「あっ、筆箱忘れた! イブ、先行っといて〜!」と、タカモトが教室に戻っていくのを見た哩と肇。

そしてふと、哩が一番最初の言葉を言った。

「俺、真面目さんとは仲良くできないし」

「またまたぁ〜。決めつけはよくあきまへんで」

「いや、逆に話すこと何がある?」

「ん〜。時と場合による」

全然話にならんと肇は呆れる。

音楽室に入ると、少し冷たい風が入ってきた。

ガヤガヤしていて、騒がしい。

肇は陽キャに囲まれていて、うるさい声が鬱陶しかった。

「はい、じゃあまずはパートに別れて練習しよう。それから〜······そうやね、じゃあ十五分なったら合わせるね。パートリーダーさん、CD持ってって」

肇と哩にとっての、地獄が始まった。

歌って歌っての繰り返し。

どうせ知識なんてないくせに、偉そうにみんなを指図するパートリーダーが嫌いだった。

チラッとアルトを見れば、そこは葬式みたいに静かだった。

自己主張があまりない女の集まり。

肇はそういう認識だった。

その中には、タカモトの友達もいたけど、タカモトと隣にいる時の明るい笑顔はない。

みんなのちょっと後ろで、無表情でいる女だった。

ソプラノは、全員の顔が明るい。

パートリーダーは、肇の苦手とする女。

学級委員とかの、みんなを引っ張っていく立場ばかりする女だった。

真面目で、よく色んな人に声をかける。

気配りのできる優等生。

そんな奴だった。

肇の嫌いなタイプだ。

でもきっと、そいつがパートリーダーだからソプラノがあんなに明るいんじゃない。

アイツがいるから。

「凛ってホントに歌上手いよな〜!」

「さすが凛様!」

「なんだ凛様って······。変な宗教作らんといてw」

「いやでもさぁ、リアルに凛はいい子やし」

自然と。

空気みたいに。

そこにいるのが当たり前に感じてしまう。

きっと、タカモトがソプラノにいるから、あんなに空気が明るいんだろう。

ソプラノには、まだ声が高い男子も数名いる。

肇もそっちに行きたかった。

誰がただ歌ってばっかりのとこにいたいと思うんだろ。

「みんな、もう一回練習しよ」

ソプラノのリーダー女がみんなに指示しようとする。

あまり乗り気じゃないのか、ソプラノのたちの顔がくもった。

すると。

「はいはーい。了解。なぁ、何ページやったっけ?」

「ん?えーっとね」

「百八十六!」

「ありがとう!」

でも、タカモトが歌おうとすると、みんな歌う気になる。

彼女の周りには女子が集まって、ワイワイ話していた。

そして、ソプラノリーダーがCDにスイッチを入れた。

その途端、タカモトの顔が真面目に変わった。

音楽室に響く、綺麗な歌声。

それは、ソプラノの声じゃない。

タカモト一人。

彼女の声だけが、音楽室に響いていた。

ソプラノ全員が歌っているはずなのに、聴こえてくるのは彼女の声のみ。

それが他の女だったら、ソプラノたちは、その女のことを自己主張強すぎ女と苦手意識を持つのに。

でも何故か、タカモトはそうは思われない。

「いや、めちゃくちゃ綺麗な声やんな」

「どうやったらそんな声でんの!?」

──と、いった感じに。

ただ凄い女だと、思われるだけ。

凛様凛様うるさかった。


タカモトは、男声とたまに戦う。

男声につられないかどうかを、男声の数名と確かめているのだ。

「今度も私が勝つからね」

「やってみな!」

そして始まる、タカモトの自己主張。

なんなら男声数名がソプラノ一人につられていた。

「ウチの勝ちやな!」

「っクソ、コイツまじでつられへんよな」

「じゃあ次は全員対でやってやろうぜ」

「えっ、待て待て! 流石に無理やって!」

慌てるタカモトだったが、しゃーなしで歌うことにする。

結果は、タカモトの敗北。

「いや、流石に無理やって······」

悔しそうにする彼女の顔は、どこか安心したようだった。

タカモト・凛は、不思議で変な奴。

肇はそう思っていた。


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