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絶滅危惧種の苗字達  作者: 将募人間
4/7

擦れる音が嫌い

部活見学の日が迫っていた。

「なぁ、哩はどこ行く?」

「んー、僕バスケかな」

「バスケ? それならさ、俺隣のバトミントン見ようと思ってるんだけど一緒に行かない?」

「いいよ〜」

部活見学は、ただ、その部活を見学するだけであまり面白くはない。

その、やっている部活の様子を見て、自分に合うか判断するだけのもの。

でも、その三日後には、部活体験がやってくる。

そこで、体験して確認するのだ。

自分にあった部活が何か。

「バスケしてたの?」

「習ってる──いや、習ってたから」

「ふーん」

第二理科室に向かいながら、二人は話していた。

理科室で理科の授業をするのは初めて。

理科室に入ると、棚には沢山の顕微鏡が置かれていて、何故かその他の上にはアコーディオンが乗っかっていた。

「なぁ、なんでアコーディオンあんのやろ?」

「忘れ物じゃね?」

「大きすぎやろw」

すると、先に机に座っていた結乃が、二人に近づいてきた。

「あぁ、それな。なんか、この部屋使ってる吹奏楽の人らが置いてるんやってさ」

「へー、そう」

哩は結乃を苦手としているのか、あまり話そうとはしなかった。

しかし二人はそんな哩のことを気にせず話しだした。

デコの、「おい毛糸! そこ俺の席、どけ!」という声が聞こえてくるまで。

「は? 俺毛糸じゃないんだわ。邪答院、小学生からやり直してこい!」

「いやいや、俺のことデコとか言うやつに言われたくないんですけど〜?」

「え? 名前デコだろ」

「いや、俺にはサクって名前あるから!」

「お二人さんや、おどきになって」

急に二人の間に割り込んできたのは、高身長の男子だった。

肇も朔も、平均よりは大きいはずなのだが、それでもソイツにはかなわなかった。

「なんだよ猫屋」

肇からソイツにターゲットを変えた朔が、ニヤニヤ笑いながら尋ねた。

それに答えるソイツの後ろには、数人の女子が。

ソイツは優しい男なのか、女の子達と男子の間に挟まれるようにして、朔を軽く睨みつけながら答えた。

「いやね、じゃまなのわかんない?」

そしてソイツに援護射撃をした奴がいた。

「お前ら黒板見いや」

その声は、あの真面目だった。

言う通りに黒板を見ると、番号順に席に着くようにと書かれていた。

でも、それだけではどう動いたらいいのか分からない。

理解した奴は直ぐに自分の席に着くが、わからないやつは分からないまま。

肇も哩も分からない派だったので、先生が来るまで立っていることにした。

「あー、ごめんねぇ。座るのは黒板通りでよろしくね」

授業が始まる数分前に、理科の担任はやって来た。

そして、クラスのほとんどが席に座っていないのを見て、一人ずつ説明し始めた。

「あ〜、哩〜」

「肇〜」

「遠距離恋愛を見せつけられてるウチらはどうしよっか?」

肇と哩。

そして、それを見せつけられる真面目。

肇と哩は別のグループになり、哩のグループには真面目さんやデコ、そして結乃。

対して肇のグループには、高身長と陽キャ達が。

名前を覚えてない人がほとんどで、しかも、陽キャ達は話が盛り上がっていて、そこに高身長も混じっていた。

肇だけが、取り残されていた。

──と、でも言うと思ったか。

「なぁ、今日の給食って何やった?」

肇にだって、話し相手は存在する。

哩は机と人を挟んでいるので話しかけられないが、その、挟んでいる側の人間が、結乃と真面目さんだった。

「んー、確か······ご飯と牛乳と、あとおかず」

結乃に話しかけられた肇は、月曜日なら確定のモノだけを言った。

「いや、それは知ってんねん! そのおかずが知りたいんやわ!」

「いやー、そこまでは知らないし」

「えー、じゃあ誰か知ってへんかな」

「生姜焼きと野菜炒め」

会話に割り込んできたのは、真面目。

「えっ、マジ?」

「うん、マジな話」

「生姜焼きかー! ありがとう、アンタ、名前なんやったっけ?」

「凛だよ。えーっと確か、結乃だよね?」

「あってんで! よろしくな!」

「うん、よろしく」

肇はまた、取り残された。

でも、配られてきたプリントに全員の目がいき、肇はさっきのことを完全に忘れた。


今日は、花を顕微鏡で見る。

──そういう時間だ。

重たい顕微鏡を腕で抱えて持っていた肇だったが、横がでかいデコにぶつかり、ふらっとよろめいた。

高身長が受け止めてくれなきゃ、肇はきっと、大怪我をしていたに違いない。

「ちょっとカデノ! 立ち歩くな!」

陽キャ達がそう言うと、デコは「そんなに言う!?」と戸惑っていた。

「なぜ謝らん?」

肇はそう呟く。

デコには聞こえていないのか、大声で話しながら椅子に座って、肇のことを気にもとめなかった。

それが肇の怒りを限界まで上げていく。

「ちょっと肇、早くやろうぜ」

「ん? ああ、わるい」

高身長に呼ばれなければ、肇はデコに掴みかかっていたかもしれない。

顕微鏡を覗こうとすると、長くて多い睫毛がそれを邪魔してくる。

少し顕微鏡から離れて覗くと、小さな粒がぼやけて見えた。

ピントをあわせてもう一度覗けば、そこには気持ち悪いウイルスみたいな形をした粒がたくさん現れた。

「きもっ」

「えっ、見たくなくなったんやけど」

「うわっ、鳥肌たってきた。代わって」

「ええー」

代わりに顕微鏡を覗いた高身長は、肇と同じように腕に鳥肌を出現させながら、「気持ち悪っ」と嫌そうに言った。

肇は、コレが花粉だってことは、先に見た教科書で知っていた。

さらに言えば、花粉症のニュースで見たことがあったのだ。

肇は別に花粉症ではないのだが、両親が酷い花粉症だったためである。

「けい君、絵描いたー?」

「絵? なにそれ」

「さっき先生言ってたやん、聞いてへんかったん?」

「全然」

同じ班の陽キャ女子に、急に話しかけられた。

けい君と呼ばれるほど、この女とは仲良くもないのに。

ホントの陽キャはやはり違う。

「ちょっと私絵描くの得意ちゃうからさ、先描いて」

「いや、俺も無理」

揉めること数秒。

めんどくなった肇は、顕微鏡を覗きながら、絵を描き始めた。

なんとかかんとか描いた絵は、それっぽく見える。

下手というほど下手ではない──みたいな?

それくらいの絵が描けた。

「えっ、ケントー描いた!? ちょ、見せて見せて!」

「いや、こりゃ私のもんだ」

「えー、そんなのあかんて!」

うるさい陽キャ男子と陽キャ女子が揉めていた。

興味なんぞなかった。

隣の高身長を見れば、ソイツは集中して絵を描いているようで、肇のよりリアルだった。

自分との絵に格差がありすぎるのが、肇はなんだか嫌だった。

「絵、上手いな」

「マジ? ありがと」

「美術部入るの?」

「まぁ、そのつもり」

「きっとエースなれるな」

「美術部にエースなんてあるん?」

「······しらん」

終わりのチャイムが鳴った。

鳴る一分前から用意を片付けていた奴らは、待ってましたとばかりに、勢いよく立ち上がる。

「じゃあふりかえりは次の授業でするし、挨拶して終わろうか」

そう言った理科の担任。

全員は歓喜した。

そのままの勢いで挨拶をして、次の授業の準備をしに行ったのだった。


放課後、肇と哩は一緒に体育館に向かった。

体育館に来ると、キュッキュと靴と床が擦れる音が何重にもなって聞こえてくる。

バスケ部の、ボールをつく音。

バトミントン部の、シャトルをうちあう音。

暇してる奴らの、話し声。

その音全てが耳に一気に入ってきて、うるさかった。

「他のとこも見る?」

「うーん、僕別に見たいとこ他にないわ」

部活の種類と、その活動場所がまとめられたプリントを見ていた哩は、そういった。

「人多いな」

「バトミントンって、三十人くらいおるもんな」

「えっ、それって、男女あわせて?」

「いや? 男子だけやで」

うわー、と若干引き気味に呟く肇。

実は周りがうるさすぎて全然肇の声が聞こえていない哩。

しばらく部活を見ていた二人だったが、次第に飽きてきて、帰ることにした。

「ばいばい」

「んー、ばいばい」

二人は校門を出てすぐ別れた。

肇は一人で家に帰る。

小学生たちを抜かして、肇は猛スピードで緩い上り坂を進んだ。

前を見ると、同じ制服の男子が道を曲がっていた。

肇は何故かその人より早く行きたくて、勝手に競争を始めた。

その人とは違う道を通って、肇は進む。

猛スピードで。

この自転車が出せる限界まで自転車をこいで、その人と鉢合わせた。

少し、肇の方が早かった。

そのままの勢いでその自転車を抜かして、肇は自分勝手に優越感に浸るのだった。

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