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絶滅危惧種の苗字達  作者: 将募人間
3/7

未来が嫌い

肇が中学生になって、一週間がたった。

その間に、友達と呼ばれるであろう存在は一人出来た。

「おはよう、はー君」

「んー、おはよ」

肇が教室に入ると、のんびりとした声でそう言ってくる少年。

肇がヘルメットを棚に置いていると、その少年が名札を渡してきた。

「おー、ありがとう。そうだ哩、一時間目何?」

「えーっとね、ちょっと待って。······あー、数学や」

「うっわぁー、一時間目から地獄」

「でも、体育&美術あんで」

「えっ? ならいいじゃん!」

入学式の次の日は、三時間授業だった。

······授業でもないかもしれないが。

自己紹介に、配布物配りに、放送を聞くという、学活オンリーの一日だった。

自己紹介カードを書き、それをもとに自己紹介をする。

でも、そこで名前を覚えられるのは、よっぽど特徴的な奴だけ。

それか、もともと知っているかの二択。

肇は勿論、全員の名前なんぞ覚えていなかった。

ただ一人、入学式前に話しかけてきてくれた男子を覗いて。

名前は凸守哩デコモリ・マイル

好きな物とか、誕生日とかまでは覚えてはないが、名前だけは完璧に覚えていた。

「体育って何するんやろ」

「確かに。ってか、どこでするんだろ」

二人がそんなことを話していた時、話しかけてきた人がいた。

「体育館来いってさ。なんか、筆箱持って来いって」

「体育館? じゃあバスケとかするのかな」

「そこまでは知らん」

話しかけてきたのは、隣の席の真面目さんだった。

入学式の時と変わっているのは、黒マスクがないこと。

真面目さんは、マスクを外すと、想像していたよりも大人しそうな顔をしていなかった。

「なぁ凛〜! Y組行こ〜」

「ん、分かった! 早く行こ!」

真面目さんに近づいた少女が、ニコニコ笑って教室の外に引っ張り出した。

そこでふと、忘れてたと、真面目さんが言って、肇と哩に言い放った。

「さっきのこと、皆に言っといてや!」

面倒事を、また任された肇であった。

黒板に近づき、黒板の位置を少し低くして、肇は三時間目の体育のことを書いた。

指がチョークの粉で汚れ、それをぱっぱとズボンではたけば、そこだけが白色になって目立っていた。

「洗わへんの?」

「いや、めんどくさいし」

哩は洗いたい派なのか、洗わない肇を見て、不思議そうに聞いた。

キーンコーンカーンコーン。

まだ廊下にいた生徒達が、急いで教室に戻る音。

朝読書の始まりのチャイムが鳴り、二人は急いで席について本を開いた。

そこで、ドダダダン──ッと地響きが。

「おい、デコ。うっさい」

「あぁ、わるいわるい。あれ? モテモテテクニックベスト百どこいった?」

教室の端に置かれた本棚に走ってやってきたのは、肇がこのクラスで一番嫌いな男子だった。

名前の一部をとって、デコと呼んでいた。

──いや、呼ぶことはほとんど無い。

「そんなの読んでてもモテないって」

「はぁ? 何でそんなこと分かるんだよ」

「いや、だって見た目······」

デコはデブな男子だった。

それも、全員ムチムチタイプではなくて、エロそうなおっさん会社員みたいな太り方をしていた。

肇がデコを嫌いなのは、いろいろわけがある。

エロい話しかしないし、授業中の先生に対する(エロい)質問は多いし、塾自慢だの、不健康自慢だのうるさいし、わざとその人が怒るようなことを言って、追いかけられて。

多分もっとあるが、それを全部言おうとすると、このクラス全員が喋りまくることになる。

どこいった?──と、ずっと言いながら本を探すデコにうざさを感じた哩が、デコの動きを止めるために一言告げた。

「朔、あの本先生が持ってたよ?」

「ええぇ!? マジで!? 嘘だろー!?」

うるさい。

いちいちそんな事で騒ぐな。

早く本読め。

──全員が思っていた。多分。

肇は読んでいた本に興味がなくて、ペラペラとイラストの描かれたページを探して、そこだけを見ていた。

キーンコーンカーンコーン、と。

朝読書の終わりのチャイムが鳴る。

「きりーつ」

陽キャの言葉に、全員が席から立ち上がった。

「れい!」

「「「おはよーございます」」」

着席。

それだけは言われなかったが、みんな座る。

なんなら、挨拶を言いながら座ってる奴もいて。

さらに、先に座ってから挨拶してる奴もいた。

「んー、じゃあ服装整えーや」

スキンヘッド担任がそう言って、名札をまだつけていなかった奴らが、名札を取りに前に行く。

肇は哩から貰っていたため、今日は取りに行かなかった。

今日は、である。

いつもなら、肇は一番に名札を取りに行って、他の人の名札を配っているのだが、肇は別に優しくはない。

なんなら、自分のことは自分でやれという考えの持ち主なので、いつも配っていたのはただの気まぐれ。

「頼りきってるからこうなるんだよ」

「お前性格悪いん?」

名札を取りにきた、陰キャや頭ほわんほわんなゲーマー野郎を見て、肇はぶっきらぼうに呟いた。

それに反応した真面目さんは、若干引いた感じだった。

「お前優しくないんやな」

「ふん、自分のことは自分で。常識ですけど?」

「へー、そうなんだー」

棒読みで返事する真面目。

「お前もさ、棒読み大会優勝目指せると思うんだけど」

「そーですか」

「棒読み日本代表とか、多分お前エースなれそう」

スキンヘッド担任が二人を注意するまで、そんな会話は続いていた。

朝の会が終わると、教室はガヤガヤする。

一時間目はなんだっけ?──とか。

あー、体操服忘れちまった──とか。

他のクラスに借りてこーい──とか。

その、何十にも重なった声が、肇は嫌い。

「ねー、ライフちょうだい」

日記を集める係の女が、肇にそう声をかけてきた。

引き出しには沢山のプリントが溜まっていて、肇はお目当ての日記を見つけるのに時間がかかった。

──だが。

「あー、書いてなかったし、あとで渡すからいいや」

「そう? じゃ、がんば」

昨日なにあったっけ?──そう呟いても、昨日のことは思い出せない。

日記に書く話題が思いつかなくて、とりあえず、肇は日記に犬を描いた。

すると、さっきのライフ寄越せ女が肇のそのイラストを見て、「宇宙人?」と首を傾げた。

「犬だ!」

「え〜? いやちょっと無理あるやろ?」

「お前の目がおかしいんじゃ?」

ライフ寄越せ女は、下の方でまとめたポニーテールを前の方に持ってきて、「いや、犬ではないわ」と言った。

数学の先生がやって来て、そのライフ寄越せ女は自分の席に着いたが、肇はその女のことを見つめた。

話しやすかった。

もしかしたら、この学校初の女友達になるかもしれない、と。

一時間目終わり、教室の後ろにあるロッカーは、人で埋めつくされていた。

次の授業の用意をするライフ寄越せ女を見つけた肇は、声をかけた。

「なぁ、お前名前なんだったっけ?」

名札を見ても、難しすぎて分からない。

それに、自己紹介の時に覚えていなかったので、直接聞くしかなかった。

「ん〜? 私結乃やけど」

「ユノ? OK、覚えた」

二人で話すと、話が盛り上がった。

結乃はどちらかと言うと、女子の可愛さがよくわかんないという感じの奴で、男っぽいところがあった。

性格もサバサバしているというか、肇は話しやすかった。

「最近肇って結乃とよく話してんな」

「いやーね、話しやすいって言うかさ。話盛り上がるから」

肇がそう言うと、哩は少し声のトーンを落として言った。

「いや、アイツちょっとめんどくさいからやめときいや」

「え? なんで」

「いつか分かる」

肇にはまだ結乃ことなんて分からない。

まだ、苗字すら分かってないから。

肇は嫌いだった。

「んー、予言は怖いね」

未来のことを言われるのが。

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