関西弁の奴らが嫌い
「デコ花······」
肇は後ろをふりかえり、下を見た。
落ちていたのは、ペラペラの紙で作られた花の飾り。
保育園の時に、お楽しみ会で壁に飾り付けられていたものと同じだった。
セロハンテープで壁に付けられていたので、そりゃ落ちるわけである。
よく見れば、隣の真面目少女の近くにも飾り花が落ちていて、少女も同じように花を拾っていた。
「つけといた方がいい?」
「多分」
話しかけてきた少女に言葉短く反応し、壁にデコ花を貼り付ける。
「じゃあ明日の予定配んぞー」
一旦席に座り、配られてきた予定表を前の席の男子から受け取った。
だが、プリントは二枚。
肇が一番後ろなので、どう考えても多かった。
前の男子も、その事には気づいているはず。
なのに、面倒だからと、前に戻す面倒ごとを肇に押し付けているわけだ。
クズなヤツだった。
「先生、プリント一枚多いでーす」
「お? ああ、悪いな」
プリントを前に戻し、席に戻ってきた時。
席に座ろうとした瞬間、またあのデコ花が、とさっと落ちた。
しかも、まだ落ちていなかった他のデコ花を巻き込んで落ちた。
「っふ、落ちてんぞ」
「え、? うわっ、マジか」
ははっ、と笑う少女。
落ちたデコ花を取ろうとすると、セロハンテープが床にくっついていたせいで、ビリッとデコ花が破けた。
「やってんなお前」
「こんなの証拠隠滅すればいいだろ」
肇は、またデコ花が落ちてこないように、デコ花を壁に押し付けていた。
床にくっついていたセロハンテープをもう一度デコ花につけて。
それはもう、壁にヒビが入るんじゃないかと思うくらい、指が痛くなるほど。
デコ花の形が少し歪むほど。
「必死すぎんだろ。でもさー、セロテープ粘着力無さそうだし、諦めたら?」
肇の行動を無意味だと話す少女。
そして何やらペンケースから取り出して、肇に渡した。
「これ使いなよ。あんま無駄遣いしないでよ?」
「おっ、サンキュ」
渡されたのは、小さなセロハンテープ。
肇はセロハンテープで小さな輪っかを作って、デコ花に取り付けた。
「何やってるんや?」
スキンヘッド担任が、後ろの壁でなにやらしている肇を見てそう言った。
その瞬間、クラス全員が視線を肇に向けた。
「あ、花が取れたんで、つけてて······」
「おお、ありがとうな」
興味をなくしたクラスメイト達は、少しずつ視線を元に戻していくので、肇は安心しながら作業を行うことが出来た。
その後はとくにハプニングも起きず、肇は元来た道をまた一人で戻って行ったのだった。
持って行った水筒は、一口も飲まなかった。
「友達はできた?」
「そんなにすぐ出来るかよ」
「そうなの? 私は入学式の時に友達三人は作ったんだけど〜?」
「そーですか」
家に戻った肇は、先に戻っていた母親にウザイ話を聞かされ、部屋に戻ってすぐベッドに倒れ込んだ。
そしていつも通り、スマホを手に取って、愚痴を打ち込み始めた。
『知るかよ。アンタの話なんて聞いてない。スマホ買う時に言ってるだろ。よそはよそだの、うちはうちだの、カッコつけて言いやがって。都合よく言うんじゃねぇよ、あんのクッソババアが』
肇がこうやって愚痴っているのは、母親にバレないようにするためである。
なので、絶対に声には出さない。
一通り愚痴と悪口を打ち込むと、バツ印のボタンを長押しして、証拠を隠滅した。
スマホから悪口は消えたが、肇の中にはまだ、イライラしたモノが残っている。
それを無くすには、音楽とゲームが必要不可欠。
肇はタブレットとイヤホンを取り出して、音楽を聴きながらゲームを始めた。
それが、肇のルーティンなのだった。
母親が部屋に入ってきて、「部屋でスマホ使わないって言ったでしょ!」と怒鳴り込んで来るまで、肇はゲームをする。
最近では、誤魔化すために手口が巧妙化していた。
前まではヘッドホンを使っていたが、それをイヤホンに変えて、片耳だけにイヤホンをつけるようになった。
そして、近くに枕と漫画を置き、準備を万端にする。
後は、母親の階段を上がってくる音を、イヤホンをしていていない耳で聞き取り、速攻でイヤホンとスマホとタブレットを枕に隠すだけ。
近くに置いていた漫画を手に取り、それを読んでました感じを出して、部屋に入ってきた母親を「?」という顔でお迎えすれば、完全犯罪の完成である。
さらに最近は、母親が階段を上がってくる前の、電気をつけるスイッチの音までを聞き取り、余裕を持って行動できるところまで来たのであった。
今回もまた、スイッチを押す音を聞き取って、漫画を読んでいたフリをして母親を迎え入れた。
「お昼なに食べる?」
「んー、なんでもいい」
「それならカップ麺になるけど?」
「別にそれでいい」
母親と一緒にリビングダイニングに向かい、棚にある籠を持ち上げた。
隣のソファーでは、父親が何やら難しそうな紛争の小説を読んでおり、「ピッグラーメンよろしくな」と肇に偉そうに告げていた。
「自分でやれよ」
「父親に向かって、何言ってんだ」
「だから、! 自分でやれって! 俺入学式だったのにさ、今日はのんびりしたいし、誰がやるか!」
肇は父親が食べたいと言っていたピッグラーメンをわざと取って、蛇口にケトルを近づけた。
水を入れて重くなったケトルを片手で持ち、土台に置いてスイッチを押す。
「それ、自分の分のお湯だけでしょ? 他の人の分もやりなさいよ」
「えー、めんどくせ」
母親に叱られても、肇は反省する気がないのか、そのままカップ麺にお湯を注いでいた。
勿論ケトルのお湯は、全てなくなってしまった。
肇は、意地悪だった。
肇のカップ麺の食べ方は、半分までをそのまま普通に食べ、残りをキムチラーメンにして食べるというもの。
最近は、味噌汁にまでキムチを入れるようになったので、母親に怒られるようになってしまった。
母親曰く、「キムチ入れるのはインスタントの味噌汁だけ」らしい。知らんけど。
今回もまた、同じようにキムチラーメンにしてカップ麺を食べ終え、ソファーに寝転んだ。
「ぐーたらすんな」
「命令すんな」
また父親に命令され、気分が一気にマイナスになる肇である。
二階の自室に向かうと、またスマホを弄りだし、今日のまとめをメールに打ち込んだ。
『関西弁の奴が多すぎて喋りづらすぎ。隣の奴真面目子ちゃんだし、担任坊主だし、美意識高すぎ女子いるし、マイペースすぎる奴いるし』
そしてすぐに、それを消す。
誰にも、気づかれないように。
肇はいつまでも、悩み続ける。
悩みを打ち明ける人なんて、肇にはいないのだから。
この世界は、■■が全て。