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優子とあお  作者: べる
1/7

夏休み、何しよう。

 私の前世は魔法兵団の兵長だった。国の利益のために隣国と戦争を続けていた我が国は男女問わず魔法を使えるものには赤紙を渡していた。私が受け取ったのは8歳の頃だった。


幸運にというべきか不運にというべきか私は魔法の才が他の者と比べても秀でていたためすぐに戦果を出すことができ、その結果11という若さ、いや幼さで兵長へと上り詰めた。


魔法兵団としてはエリートだった私、しかしどこまで行っても中身は子供だった。


13歳の誕生日を迎えた日、私は部下たちにプレゼントをもらった。人生で初めての誕生日プレゼントだった。


私は本当に嬉しくって、自室で意気揚々と封を解いた。その瞬間、プレゼントボックスは爆破し私は粉々になった。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


生まれた時から忘れたくても忘れられない前世の記憶。今生きている温かい世界では考えられないようなもので、それでも確実に私が経験したものだった。


しかし、魔法も戦争もないこの街で小学六年生の私にはその経験は不必要なもののように感じた。


当たり前のように大人に守られ、なんの憂いもなく勉学に励むことができ、同学年の者と気軽に話をすることができるこの環境はあまりにも恵まれている。そのせいで危機感や緊張感のない者もいるがそれも平和が故のことだろう。


運動場を駆け回る男の子の声を聞いて思う、この世界の人は生まれながらにして仲間が存在しているのだなと。


「何ぼーっとしてんの?」


すると、隣にいた優子が私にそう言った。


「いや、なんていうか、平和だなーって。」

「何それ、あおって時々変なこと言い出すよね。」

「そうかな?」

「そうだよ。」


優子はそういうと無邪気に笑った、私は彼女の笑顔が好きだ。


「それはともかく、明日から夏休みだねぇ。」

「そうだな。と言っても、優子は毎年何かと忙しそうにしているがな。」

「んー、そうかな?」

「そうともさ、塾にピアノに水泳までやってるんだろ?色々なことに挑戦するのは立派なことだが、あまり無理はしないでおくれよ。」

「どうしたの急に、無理なんてしてないよ。それにどの習い事も小学校を卒業するまでって決めてるから、しっかりやり切るつもり。」

「そうか、まぁ頑張ってくれ。応援している。」

「心配の間違いじゃないの?でもありがとう。」


優子は努力家だ、どんなことでも真面目に真摯に取り組んでいる。そんな彼女のことを尊敬している一方、少し心配していた。


「それはそうだろう?一回無理して倒れてたじゃないか。」

「四年生の時の話でしょ?今はもう六年生なんだし大丈夫だよ。ほら、来年中学だし?」

「四年も六年も中学も子供なのには変わりないだろ?優子の頑張り屋なところは私も好きだがやはり心配なのだ。」

「私もあおの素直に好きって言ってくれるところ好きだよ。両想いだね。」

「またそうやって話をはぐらかす...まぁいいか、何かあったら言ってくれよな。」

「もちろんだよ、あおには隠し事なんてしないもん。」

「いやまぁ、言いにくいことは無理して言わなくてもいいんだがな。」

「相変わらず優しいね、ありがと。」


そう言って優子は私の頭をよしよしと撫でた。まだ140cmほどしかない私よりも10cmほど身長が大きい優子は時々私のことを可愛がる。


「なんで撫でてくるんだよ。」

「なんだか可愛くって。あ、ちょっと膨れてるあおもかわいい。」

「あんまり可愛いっていうな。」

「拗ねちゃった?でも本当のことを言ってるだけなんだけどな。」

「恥ずかしいからやめてくれ。」

「なんでも言ってくれって言ったのあおなのに、」

「何かあったらって言ったんだ。」

「そうだっけ?あんま変わんなくない?」

「全然違う、もういいだろ?早く私の頭からその小さな手を退けてくれ。」

「えー、でもあおの手よりは大きいから退けなくてもいいかぁ。」

「退けてくれ!!」


私の大きな声が廊下に響いた。夏休み前日の放課後に学校に残っている者は少なく、休み時間になるとガヤガヤしている教室前の廊下も今は私たちの話し声と外から聞こえる男の子たちの笑い声しか聞こえない。


優子はごめんごめんと言いながら手を退けてくれた、その表情には私が急に大声を出したことに対する不快感など微塵も出ていなかった。


「ごめん、別に嫌だったわけじゃなくて。」

「わかってるよ、恥ずかしいだけなんだよね。」

「...もしかしなくても私がどういう反応するのかわかってそういうことしてるだろ?」

「んー?なんのことかなー?私は今あおってかわいいなーってことしか考えられないからそんな難しいこと言われてもわかんないなー?」

「すっとぼけやがって。」


私がどんなに悪態をついても優子の笑顔は崩れない。


「そんなことより、今年は何をしようか。」

「そうだねぇ、去年は秘密基地の大掃除をしたっけ。」

「それは毎年してるだろう?去年はプールで遊んだんだ。」

「あぁ、そうだった。秘密基地でビニールプールを膨らませて、そこに水を張って足を浸からせながらアイス食べたんだよね。」

「そうだ、本当は水着にも着替えたかったのだが、流石に優子の母上が許してくれなかったんだよな。」

「それはそうだよ、いくら秘密基地って言ったって、裏庭にテント張ってるだけだもん。」

「あぁ、そのテントも優子の母上に借りてる物だからな、流石に言われたことを無視するような真似はできなかった。」


優子の家は周りの子と比べてもかなり裕福だ。一度家にお邪魔したことがあるが、私の部屋の二倍以上の広さの部屋に通された時は緊張でカチコチになったのを覚えている。なお、優子がそんな私を見てまた可愛いと言いながら頭を撫でてきたのは言うまでもない。


「あ、じゃあさ、今年はお泊まり会をしよう。」

「お泊まり会?いいのか?」

「もちろん!お母さんも喜ぶと思うよ。」

「うーん...じゃあお邪魔しようかな。何持っていけばい?」

「普通に着替えとかだけでいいよ。部屋着とかもお母さんが用意してくれると思うし。」

「そっか、わかった。でもお泊まり会って言っても何をしようか。」

「ふっふっふっ、私にいい考えがあるのだよ。楽しみに待っているといい。」

「なんかだ嫌な予感がするけど、信じていいんだよな?」

「何を怖がることがあるのかね、私とあおの仲ではないか。」

「...もしかしなくても私の話し方の真似してるだろ。」

「さぁ、どうかなー」


私と優子は無邪気に笑った。

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