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世界の終わりと始まり 第2部 覚醒編  作者: とみなが けい
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佐伯邸調査報告…あの縮小を続けるグランドピアノは『ゴルディアス球体』と名付けられ、いずれブラックホールとなるらしい。

帰還


 私は夢を見た。

 夕焼けとも朝焼けともつかない、オレンジや黄色や赤や青が入り混じった、奇妙な色合いの雲と空、空の奇妙な色合いに照らされた、緩やかにうねった、所々に貧相な草が固まって、風に弄られている荒野。

 いつもルシファーが出てくる時の夢の風景。

 そこにルシファーが立っていた。

 彼女の足元には何羽もの鴉の死骸が転がって、彼女自身の右手がズタズタに切り裂かれて血にまみれていた。


「……怪我をしたのか?」


「…そう、でもかすり傷に過ぎない、そして私の子供達も死んでしまった」


「………」


「だが……それは些細な事に過ぎない」


「………」


「お前を守る…いつか私が、お前を食うまでは…最上の味になるまで…お前を守ってやる」


 ルシファーはそういうと手に付いた血を舐めた。


「………私はこれからこの子達を弔わなければならない。

 ………お前にそれを見せたくない」


「…食うのか…」


「そう、この子達を食う、そうして私と一体になるのだ」


「ルシファー」


 私は屈みこんで足元の鴉の死骸を拾い上げたルシファーに言った。


「…助けてくれて…ありがとう」


 ルシファーは、暫く私を見つめてから微笑んだ。

 彼女の微笑みは卑猥で酷薄そうでいて、切なく、寂しげに見えた。


「…もう行け。

 私を見るな」


 私は彼女に背を向けて歩き始めた。


 暫く歩いてから、振り向いて彼女を見た。


 しゃがみこんで足元の鴉の死骸にかじりついている彼女は、恥じいるように眼を伏せ、血まみれの顔を隠すように私に背を向けて、早く行けと言うように、ひどく傷ついた右手を振った。


 そこで私は目が覚めた。


 立花が私を揺り起こしていた。


「真田さん、着きましたよ」


「ああ、すいません、寝てしまいました」


「しょうがないよ24時間以上起きてたんだから。

 ここで良いのかな?」


 ランドローバーはトビタ新地の入り口の通りに停まっていた。


「ここで大丈夫です。

 どうもありがとうございました」


「どういたしまして。

 それじゃ、ゆっくりと休んで下さい。

 真田さんのレポート、私も楽しみに待っています。

 お疲れ様でした。

 ……ダイバー、握手してくれます?」


 立花が笑顔で手を差し出した。

 私は立花と握手して車を降りた。


 走り去るランドローバーを見送った私はバッグを担ぎ直して、トビタ新地に入って行った。


 佐伯邸の調査に入る前、奇妙で不可思議な夜を過ごした女の店を探して歩きまわったが、隅から隅を探してもその店は見つからなかった。


 おそらく、こうなる事は予想していたと思う。

 私は店を探すのをあきらめて、ぶらぶら歩きながら新大阪駅に向かった。

 新幹線に乗るつもりだったが、途中で気が変わり、在来線を乗り継いで東京まで帰る事にした。


 窓の外を通り過ぎる東海道線の様々な景色を眺めながら、私はぼんやりとルシファーの夢の事を考えた。

 

 どうやらいつの間にか、私が知らない間に、私はルシファーと何か契約を交わしたのであろう。

 それとも私が知らない間に他の誰かがルシファーに私を生贄として差し出す契約を結んだのであろうか?


 夢の中で彼女に色々訊きたいと思うのだが、いつも夢の最中ではその事を忘れてしまう。


 列車を何度も乗り継いで東京が近付くにつれて、空は赤みが帯びて来た。

 いつも間にか、窓の外の景色は夕焼けで赤く染まって来た。

 美しくて見事な景色だったが、佐伯邸での体験が私の感性を変えた様で、美しい景色を見ても素直に感動できなかった。

 自分に対しても上手く説明できないのだが、見える景色の先が見えると言うか…綺麗な景色を見ても無邪気に喜べないと言うか。

 言葉に表せない不思議な感情が常に私について回る様になった。

 それは、散々に戦場の惨たらしい景色を見て来た私の体験を遥かに上回る変化を与えられたような感覚だった。


 見える世界以外、いや、見える世界以上の世界が私たちを取り巻いて『実在』するのだ。

 

 明日の夕方から、また、病院の勤務が始まる。


 これから先にどんな事が待ち受けているのだろうか?

 私は漠然とした不安を感じながらも、それを嬉々として待ち受けている自分の存在を感じた。


 実はその異常で奇妙な世界は、私の存在の根幹的な物がある世界なのかもしれない。


『故郷』


 そんな言葉が私の脳裏に浮かんだ。

 全く見慣れないのに懐かしさを感じる、魂の故郷。

 だとしたら私は一体何者なのか………。

 

 夕日に照らされて窓ガラスに映った私の顔が、人間以外の何かのように見えた。



佐伯邸調査報告



 夜もかなり遅く東京に帰り着いた私は、少し寄り道をして江古田の駅に降りた。

 「女」が姿を消してから数カ月。

 アルタミラはどうなったのだろうか?

 そんな事を思いつつ、駅前の商店街を通り抜けてアルタミラの前の通りに出た。

 

 アルタミラの看板の電気が点いていた。

  

 私は3階にあるアルタミラを見上げた。

 窓から店内の照明が見えた。


 私は暫く見上げていた、が、ため息をついて家に向かって歩き始めた。


 暫くアルタミラに行く事、あの「女」に会う事をやめようと思った。

 そもそも、店に入ったらあの「女」がいるのかどうか?


 「女」がいても、いなくてもどちらにせよ、今の私には精神的な負担が重かった。


 私はアパートに帰りつき、風呂に入り、テーブルに向かって佐伯邸のレポートを書き始めた。

 

 書き上げた時はすっかり夜が明けていた。

 不思議と全然眠る気がしなかった。


 私は数10枚になったレポートを封筒に入れて、近所のポストに投函した。


 朝の、まだ人気が無い住宅地を少し散歩した。

 暫く歩いた後に、コンビニの前の灰皿で一服した。


 煙草を吸いながら通りを眺めている私の目に、ある犬が目に入った。

 そう、佐伯邸調査に出る前にあの首が折れた気味の悪い鴉を目撃した時に、逆さになった女の顔が鴉に張り付いていたと言った中年の女が連れていた犬だ。

 その犬は、中年の女でなく、若い男が散歩させていたが、間違いなくあの時の女の犬だった。


 男はコンビニにやって来て、犬をガードレールにつなぐと、店に入って行った。

 私は近くでその犬を細かに観察したが、間違いなくあの時の犬だった。

 私は店から出てきた男に話しかけた。


「おはようございます」


 私に挨拶された男は、私とどこで会ったのか記憶の中を探る様な顔つきで挨拶を返した。


「私、このわんこを散歩させている方と何回かお話した者です」


 男は、画点が行ったように笑顔を浮かべた。


「ああ、それは私のおばです」


「そうなんですか。

 ……彼女はどうしたんですか?」


「…今、ちょっと体調を崩していて入院してるんですよ」


「ええ!そうなんですか?」


「ええ、ちょっと…」


「かげんの方は大丈夫ですか?どんな病気なんですか?」


 男は顔を曇らせた。


「ちょっと…難しい病気なんですよ…精神的な…」


「………」


 私はそれ以上尋ねるのをやめた。

 男はお辞儀をして、つないでいた犬のリードを外すとそそくさと通りを歩いて行った。


 私は男の後ろ姿を見つめながら、もう一本煙草の火を点けた。


 アパートに帰って来て、コンビニで買ったサンドイッチを食べたら、いきなり眠くなり、畳に寝転んで眠ってしまった。


 目が覚めた時は午後もかなり遅く、私は着替えて病院に向かった。

 途中に私の携帯にメールが一件入った。

 山口からの物で、無事に家に着いたかどうかの確認メールだった。

 私は家に着いた事と、レポートを書き上げて投函した事を書いて、返信した。


 病院でいつもと変わらぬ業務に戻り、巡回の時も妙な視線も感じず、もちろん赤い目をした鴉など見なかった。


 深夜に病棟を抜け出し、受付に来て世間話をする長期入院の患者と暫く雑談を交わし、数件あった急患の受け入れをし、明け方に仮眠をした。


 私はいつもと変わらぬ日常に戻った。

 しかし、折りに触れて、佐伯邸での記憶が蘇り、数瞬間、動作が止まってしまう事があった。

 

「大丈夫ですか?」


 同僚が少し心配そうに声をかけたが、私は笑って、少し疲れてるだけだよ、と答えた。


 数日たったある日、私の携帯が鳴った。

 山口からだった。


「真田さん、お疲れ様でした。

 今度の木曜日に、ミーティングをします。

 午前10時から、夕方までかかると思いますが、お時間都合良いですか?」


「大丈夫です。

 出席させて頂きます」


「それではお待ちしています」


「……山口さん?」


「なんですか?」


「……佐伯邸の事……いや、お会いした時にお話しします」


「……判りました。

 ふふふ、真田さん、奢る約束覚えていますからね」


「いやいや、そういう事じゃないんですが…ありがとうございます。

 ……皆さんはあの後大丈夫だったのかな?と思った物ですから…」


「ふふふ、大丈夫ですよ、色々とみんな忙しかったけど…その事はお会いした時に」


「はい」


 調査前の、エレガントな雰囲気に戻った山口の口調を聞いて私は少し安心しながら電話を切った。


 木曜日。


 私は惟任研究所にやって来た。

 

 惟任を始めとした各部署のチーフが全員集まっていた。

 

 見た事が無い者が数人いて、惟任は私を彼らに1人1人紹介した。

 彼らはにこやかに私と握手したが、惟任は私を今回のダイバーと紹介し、私には彼らの名前だけを告げた。

 仕立ての良いスーツを着た男女。

 その中には外国の者もいて、中には軍の制服を着ている者もいた。

 自衛隊の制服を着ている者までいた。

 かなり上級の階級章を付けているのが判ったが、惟任が一切の肩書が無い名前だけの紹介をしたので、私は相手の職業などの事は話題にしなかった。


 やがて、全員が席に着き、佐伯邸調査の報告会が始まった。

 山口が司会をして、佐伯邸の概要、今まで起きた事件などの経緯を説明し、第1回、2回の調査の簡単な説明をした後で、照明を落としてスライドやビデオを使いながら第3回、つまり今回の調査の報告を始めた。


 暴れ狂うベッド、階段に現れた「揺らぎ」、調理室で私に襲いかかって宙を飛び交う皿、そして、電磁波障害のざらついた画像の向こうで私の行方を遮るピアノ。


 暗がりでそれを見ていた私は、動機が早くなり、服の心臓の辺りを掴んで握りしめた。


 居並ぶ面々はじっと山口の説明に聞き入った。

 

 山口が調査の経緯を説明した後で照明が点き、立花が調査後の佐伯邸の状態を話し始めた。


 現在の佐伯邸では、その後超常現象は確認されておらず、あの、謎の冷気も姿を消し、設置されたセルゲイエフセンサーでも、一切のクルニコフ放射は見られなくなったと言う事。


 結論として、現在日本で確認されている内で最大の超常現象発生源となった佐伯邸は、ただの古びた大きな屋敷になったと言う事だ。


 立花と入れ替わりに惟任が立ち上がり、神戸の病院での報告を始めた。


 63年間昏睡状態にあった佐伯邸無差別相互殺人事件の唯一の生き残りである、佐伯玲子が、佐伯邸調査中に突然の覚醒をした事。


 そして、ほぼ同時刻に第2回調査の時のダイバーだった飯坂信子が原因不明の圧力で押しつぶされたベッドに巻き込まれて死亡した事。


 今も縮小を続ける佐伯邸のグランドピアノの事などを報告した。

 惟任が咳払いを一つして、コップの水を飲んでから話し始めた。


「今回の調査に置いては幾つかの非常に興味深いデータを得る事が出来ました。

 覚醒した佐伯玲子ですが、現在リハビリと言うか、日常の生活を出来るように取り組んでいる所です。

 彼女がこん睡状態にあった時の記憶が非常に興味深い内容なので、引き続き聞き取り調査をしている所であります。

 また、今現在も縮小を続けるグランドピアノ、私達はこれをアレキサンダー大王のどうしてもほどくことができない結び目の故事から、『ゴルディアス球体』と名付けましたが、エックス線やガンマ線放射、粒子加速器の使用を含めたあらゆるアプローチを試みていますが、何ら成果を得る事が出来ません。

 現在も『ゴルディアス球体』は縮小を続けています。

 このままの縮小率で行くと、計算上、後1年と半年程で重力臨界線を越えると予想されています。

 地球上で臨界線を越えてしまうと非常に深刻な事態が懸念されますので、現在関係者間で対策を協議しているところであります。」


 ゴルディアスの結び目…私は惟任の言葉を聞いて、数十年前に読んだ小松左京の同名の短編小説を思い出した。

 あの話も確かダイバーという呼び名の職業が出てきて、悪魔と接触する話だった。

 今私が置かれている状況とあの小説に似通っているところがあるのを思い出し、気味が悪い一致に身震いした。

 

「…そして、佐伯邸での超常現象に伴うセルゲイエフセンサーで感知されるクルニコフ放射ですが、いままで佐伯邸で確認された『アンノウン』と異なる波長が見られました。

 つまり、アンノウンは一つの現象で括られる存在でなく、それぞれが独立した個別の存在である可能性が出てまいりました。

 私達は新しく出現したクルニコフ放射の波長を持つアンノウンの存在を、ダイバーのレポートの内容から、L放射、『ルシファー放射』と名付けました」


(ルシファー放射だって?一体何のつもりだ?)


 私は苦笑いを浮かべて惟任を見つめた。

 惟任が私の視線に気が付いてウィンクした。

 自衛隊の制服を着た男が手を上げた。


「惟任教授、一つ質問宜しいですか?」


「小川一佐、どうぞ」


「例の球体、『ゴルディアス球体』なんですが、あと1年と半年で重力臨界線を超えると言う事ですが…それは何を意味するのでしょうか?」


「場合によってはブラックホールが出現します。

 地球自体が飲みこまれるかもしれませんね」


 惟任がにやにやしながら答えた。


「どういう対策を立てるべきですか?」


 惟任が人差し指を伸ばして上を指差した。

 何人かがつられるように天井を見上げた。


「地球から外に、いや、太陽系から外に放り出すしかないですね」


 惟任がにやにやしながら続けた。


「でないと、人類全て、いや地球全てが地獄に飲み込まれるかも知れません。

 あくまで可能性としてですがね」


 それまで沈黙を守っていた報告会の面々がざわついた。

 小川一佐と、合衆国軍中佐の制服を着た男が小声で話しこんでいた。


 話の途中途中で、シャトル?とか、H-2?とかノーノー!ソユーズ!とか言い交わしていた。


 この研究所は一体どんな奴らがスポンサーについているのだろうか?と私は少し空恐ろしく感じた。

 またどこかを調査するならば、日当は当然もっと上げてもらわないと……全く割に合わない仕事だと私は思った。


 仕立ての良い背広を着た男が手を上げた。


「三塚書記官、どうぞ」


「資料を拝見しました。

 ゴルディアス球体を作り出したエネルギーは信じられないほど強大な力があるようですが、それはどこからきたものでしょうか? 

 また、そのエネルギーを制御する事が出来る可能性はあるんですか?

 人類がそれを有効活用する事が出来ると思いますか?」


 惟任がニヤニヤしながら答えた。


「確かにこのエネルギーを制御できれば人類の発展の新たな可能性が見つかるでしょうね。

 しかし、原子力さえその制御に不安があるような状態の人類がこれに手を出したら… 赤ん坊に手榴弾を与える様なものです。

 一つ間違えば惑星一個粉々に吹き飛ぶかもしれません。

 この研究は、今はまだ基礎の基礎にまでもたどり着いていない状況です。

 より多くのデータを得るために研究所が一丸となって調査研究を進めて行きたいと思います。

 まぁ、100年後くらいには何らかの成果を得る事が出来るかと思いますが…はははは」


 背広の男が苦笑を浮かべた。


「まだまだ投資が必要だと言う事ですね。

 それも天文学的な」


「その通りですな。

 一つ長い目で見てやって下さい。

 他にご質問がある方はいますか?」


 居並ぶ人間達は黙ったままだった。


「それでは、第3回佐伯邸調査の報告を終わらせて頂きます。」


 惟任が言うと、皆が立ち上がりそれぞれ小声で話しだした。

 惟任が私の方にやって来た。


「真田君、ちょっとこっちに来てくれんか?」


 私は惟任と共に奥の個室に入った。


「まぁ、座りたまえよ」


 惟任がソファーにどっかりと腰を落として言った。


「今回はごくろうさまやったねぇ」


「いやいや…」


「レポート読ませてもらったよ。

 実によく書けてる。

 調査に入る前に君の身の回りで起きた事を読んで、私の仮説も少しは正しい事が判って来た……君が言うルシファーと名乗る存在はいつごろから姿を現したのかね?」


「…さぁ、ちょっと待って下さい……去年の春くらいからですかね夢に出て来たのは…」


 惟任がじっと私の顔を見つめた後、笑顔を浮かべて立ち上がると、机の上の電話を取ってコーヒーを頼んだ。


「今回我々は佐伯邸と言う格好の研究材料を失ったが…」


「申し訳ありません」


「いやいや、君が謝る事は全然無いよ。

 それどころか感謝しているんだ。

 佐伯邸に巣くうアンノウンよりもはるかに強力な力を持つ物と接触できたんだからね」


「………」


「……佐伯玲子が君に会いたがっている。

 非常にな…」


「佐伯玲子が……」


「そうや、君が最後に佐伯邸で描いた絵…あれを佐伯玲子に見せた。

 彼女はぼろぼろ涙を流して、あの絵の光景と全く同じ経験があると言っていたよ。

 佐伯邸は修復をしてな、惟任研究所の関西別館に使用することが決まった。

 奥の日本家屋は佐伯玲子が住む事になったよ」


 山口がコーヒーを持って入って来た。


「おお、すまんね。

 お客人達は?」


 山口が苦笑を受かべて答えた。


「報告に皆さんが興奮しています。

 立花さんが質問攻めにあっていますよ」


「そうか、もうしばらく相手をしておいてくれと言ってくれたまえ」


「はい、判りました」


 山口がちらりと私に笑顔を向けて、部屋を出て行った。


「今日は本当の打ち上げをやろうと思う。

 真田君も時間大丈夫やろ?」


「はい、朝まで大丈夫ですよ」


「そうかそうか……ところで君…どうだね?」


「どうだねと言いますと?」


「これからもダイビングの仕事があったら引き受けてくれるかね?」


 惟任がじっと私を見つめた。


「……ええ、もちろんですよ」


 私はそう答えてコーヒーを飲んだ。

 惟任は笑顔になって私の肩を叩いた。


「そうかね!

 ぜひ宜しく頼むよ!

 何せ君は唯一まともな状態で佐伯邸から戻って来た男やからね!」


 惟任が満足そうな顔でコーヒーを飲んだ。


「そのかわり、日当上げて下さい」


「ん、あはははは!

 判った、今回の所は山口君の奢りで勘弁してくれよ。

 次回の調査の時は日当を奮発させてもらいますよ。

 あはははは」


 惟任はひとしきり笑うと立ち上がった。


「さて、私はスポンサーの顔色を窺いに行かねばならん。

 打ち上げに行く時までゆっくりしていてくれたまえ」


 惟任が部屋を出て行き、私はエコーに火を点けた。



 

 



 

続く

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