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世界の終わりと始まり 第2部 覚醒編  作者: とみなが けい
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真田のクルニコフ放射のメカニズムがいまいち掴めない山口達色々と実験をされて真田は凹んだ…そして保安チーム新入隊員の神代と言う謎の人物に出会う。

罵倒



 目が覚めた私は拳を握り締めてみた。


 特に痛みは感じないのでほっとした。


 枕元に置いてあるセルゲイエフセンサーを見たが、寝ている間にクルニコフ放射が出た形跡は無かった。


 私はシャワーを浴びて念入りに身体中を撫で回し何か変なものが生えていないかチェックし、風呂上がりにも手鏡を使って脇の下や急所の裏等、目で調べた。


 特に異常無し。


 次に歯を磨き、髭を整えながら鏡で目の中や鼻の穴、口の中を覗き込んだ。


 事情を知らない人が見たら何て思うだろうか?


 随分自意識が高いか初デートにでも行くのではないかと思われるだろうな。

 私は鏡を使って自分の顔をチェックしながら苦笑を浮かべた。


 午前8時45分、私は朝霞のゲートを通行証を見せて通って惟任研究所の装備部に入った。


 朴と数人の保安チームがテーブルに並べた麻酔銃の手入れをしていた。


「真田さん、お早う」


 朴達が口々に挨拶をした。


「朴さん、皆さんもお早うございます」


「山口さん達がもう来ているよ」


 朴がブースの方に顎をしゃくった。


 私がブースのドアを開けると山口が腕を組んで立っていて、その後ろのテーブルに置かれたモニターを平岡、桜田、大倉山が覗き込んでいた。


「山口さん、お早うございます」


「お早うじゃないわよ!

 このジジイがぁ!」


「…ななな」


「ななな、じゃねえんだよ!

 このハゲ!」


 私は思わず頭を押さえた。


「微妙にロンパリな目で見やがって!

 気味悪りぃんだよ!スケベな目で私を見るんじゃねえよ!

 この、エロジジイがぁ!」


 山口が今まで見たことも無い険悪な表情を浮かべて、私に罵詈雑言を浴びせた。


「ちっとばかり絵が描けるって調子こいてんじゃねえよ!

 おめえなんて、薄汚いジジイの癖に!

 うだつが上がらない、病院当直のジジイの癖によ!

 悔しかったら何とか言ってみろよ!

 この、エロハゲロンパリジジイ!」


 私は山口の激烈な雑言に打ちのめされた。


 私は酷く打ちのめされて俯いた。


 山口がテーブルにいた平岡に顔を向けて尋ねた。


「平ちゃ~ん、どう?」


 モニターを覗いていた平岡が顔を横に振った。


「ダメだね~放射は確認出来ないよ~」


 山口が私に駆け寄り、私の腕に手を掛けた。


「真田さん、ごめんね~!

 あなたの感情を刺激してクルニコフ放射が出るかどうか試せって桜田さんがやれやれって…ごめんね~!」


「…どうせ私はロンパリハゲエロジジイですよ…」


「違うわ!

 私はエロハゲロンパリジジイ!って…」


「……」


「甘いよ山ちゃんは!」


 桜田がつかつかと首を垂れた私に近より、いきなり私の後頭部をひっぱたいた。


「いてぇ!」


 叫ぶ私に桜田がヘッドロックを掛けた。


 女とは思えない力の強さだった。


「平ちゃ~ん、出た~?」


「ダメだね~、全然出ないよ~」


「う~ん、こうなったら!」


 桜田が私の頭の髪を鷲掴みにして思いきり引っ張った。


「うわぁ~!

 何やってるんですか!」


 私は薄くなった頭髪が桜田によって毟りとられて悲鳴を上げた。


「真田さん!

 我慢して!

 あたし、ハゲでも大丈夫ですからぁ!」


 山口が悲痛な声で叫んだ。


「良く言った、コマンダー!

 それじゃ遠慮無く行くわよ!

 そりゃあああああ!」


「ひいぃいいい!

 あんまりだ!

 止めて下さいよぉ!」


 私は桜田に頭の毛を容赦無く毟られながら叫んだ。


「毟られるの嫌だったらさっさと放射しなさい!」


「無茶だ無茶だ無茶だ~!

 放射しようって出る物じゃないでしょ~!」


「さっさと放射せんかぁあああ!」


「誰か!

 助けて~!

 ギブギブギブ~!」


「もういいわ、桜田さん、ストップ!ストップ!」


 山口が耐えきれなくなって叫ぶと桜田が私の頭を締め付ける力が弱まった。


 私はずるずると桜田の腕から崩れ落ちて床に這いつくばった。


 私の目の前に、桜田が毟り取った毛髪がひらひらと舞った。


「どう?

 平ちゃん、出た?」


 桜田が肩で息をついて、ぜいぜい言いながら尋ねた。


 モニターを覗き込んでいる平岡と大倉山は首を横に振った。


「ダメだね~」


 桜田ががっかりした吐息を漏らした。


 山口が床に蹲る私に手を貸して立たせると椅子に座らせた。


「ごめんね、何とか真田さんから出るクルニコフ放射の波長やパターンを確かめたかったのよ」


「…そうですか…」


 山口が携帯電話型のセルゲイエフセンサーを出した。


「これ、昨日あなたが放射した波長をモニターした物で、新しく作った物です。あなたから放射されたクルニコフ放射を、アンノウン、ルシファー放射と別に感知して、真田放射、S放射と表示が出るタイプよ」


「徹夜したんだからね私達」


 平岡が言った。


 彼女の顔にはクマが浮いていた。


「そうだったんですか…放射出来なくてごめんなさい」


「良いって事よ」


 平岡が親指を立てて微笑んだ。


「しかし、放射するメカニズムが判らないわね」


 桜田が煙草に火を点けて呟いた。


「う~ん、それが判れば苦労しないよね~」


 平岡が頬に手を当てて大福をかじった。


「暫くデータ収集して…」


 大倉山が呟いたのを山口が遮った。


「そのデータが本人から採れないんで困ってるんでしょ~」


 桜田、平岡、大倉山の3人がう~んと唸り、考え込んだ。


「あの~すみません」


 私はその雰囲気にいたたまれずに思わず謝ってしまった。


「あら、気にしないでね!

 さっきは大事な毛を毟ってごめんね~!」


「そうそう!

 真田さんのせいじゃないですよ!」


「便秘と違うからねぇ~!

 真田ちゃん!気にしないでね~!」


「私は、ハゲでも気にしませんから~!ツルッ禿げでも気にしませんから~!」


 皆が口々に禿げまして禿げまして禿げまして励ましてくれたが、私はますます申し訳無い気分になった。


「大丈夫です。

 真田さんのS放射の波形は採れているから、後は検証用にもう一度確認出来たら良いだけなんですよ。

 まだ、調査本番まで時間があるから~!」


 山口が言った。


 平岡もはしゃいだ声で後を継いだ。


「私達はアンノウンとルシファーのL、そして真田ちゃんのS放射の区別がしっかりつけば良いだけだからね~!」


「真田さん、コーヒー淹れるから、飲みなよ」


 桜田が立ち上がり流しに行った。


 山口が手帳を開いて私を見た。


「おほん、今日の予定は、午前中に麻酔銃の操作と射撃訓練、お昼を挟んで午後2時までやってから、午後2時30分からケルベロスの習熟訓練をしますからね」


「はい、わかりました」


「朴さん達の準備が出来るまで一服していて下さいね」


 山口が微笑んでから、チラリと平岡達を見てから私の耳に口を寄せて耳打ちした。


「私、ハゲでも気にしませんから」


 私はハゲじゃないよ、頭髪が薄いだけだよ、と思いながら煙草に火を点けた。



初期覚醒



「さあさあ、真田さん、着替えなきゃね」


 平岡が大福をお茶で流し込んで立ち上がった。


「新しく調査用スーツを作ったんだよ。

 あの化け物猪用に」


 平岡が着替え用の個室の前で私を手招きした。


「へぇ~どんな感じですか?」


「まぁ、着てみなって」


 平岡が満面の笑みを浮かべてカーテンを引くと、個室の衣紋掛けに薄茶色の服が掛かっていた。


 私は中に入って着替えた。


「スーツの上に着るジャケットもあるからね~」


 私は調査用のジャンプスーツを着て、肘膝防護用アタッチメントを着け、足元に置いてあった、薄手のボディアーマーの様なジャケットを着て、ブーツを履いた。


「じゃじゃ~ん!

 平岡美穂特製、対化け物猪用調査用スーツ!」


 私は平岡達の注目を浴びて着替え用の個室を出た。


「どう?

 少しその辺を歩いて見なよ…重くない?」


「佐伯邸の時よりは重いけど、軍用のボディアーマーよりは全然軽いね」


 平岡が腕を組んで得意そうに頷いた。


「そりゃあああそうよ!

 あんな量産品とは全然違うんだから!」


 平岡が得意気に鼻をヒクヒクさせた。


「ちょっとこっち来て」


 私が平岡の所に来ると、平岡がしゃがんでチョッキの下腹部に三角型に垂れている部分を下に引き出して、留め具をズボンの内腿についているボタンにバチンとはめた。


「これで真田さんのアソコは完璧にガードされたっと、恋人さんが悲しまないように」


 平岡がヘラヘラと笑い、チラリと山口を見た。


 山口が照れたような笑顔で下を向いた。


 平岡が立ち上がり、チョッキの大きめな盾襟に手を伸ばした。


「ここは苦労したわぁ、支点が一辺しかないから、予想される衝撃に耐える強さを確保するのに苦労したのにょ~」


「どんな工夫がしてあるの?」


「エヘヘ、それは企業秘密。

 いざとなった時に判るよ」


 平岡がチョッキの胴の部分をガンガンと叩いた。


「この辺りに計測機器が入るから、特に頑丈に作ったんだよ。

 厚みと動きやすさの関係でアーマープレートを入れる事が出来なかったけど、米軍の最新型のアーマープレートDDF-63Bを2枚重ねした以上の防御力が有るわよ」


「それってどれくらいの防御力?」


「至近距離からの30ー06アーマーピアシング弾頭の連射を食い止める位の防御力。

しかも肋骨を骨折させたりしないよ。

 小さなプレートを鱗状に並べたんだ。

 だから連続の衝撃にも耐えるし、受け止めた衝撃を効果的に分散させちゃうの通称『ドラゴン・スキン』て命名したけどね~!」


「それ凄いな!」


 平岡が上機嫌でスーツの説明を続けた。


「体の中央部、特に背骨とかももちろん守るよ…それにスーツ自体も強化して体の太い血管を守る様にしといたから…どんな衝撃に遭っても最低限命を保つよ、今回は何かが起きても病院まで何時間もかかるからねぇ!

 あれ?どっちにしろ24時間は…」


 いつの間にか朴が、目を輝かせて話す平岡の後ろで腕組みをして立っていた。


「ミポリン…準備出来たんで…」


(ミポリン!あの朴がぁ!)


 私は超堅物と思っていた朴が平岡の事を思いがけない呼び方をしたのでちょっとビックリした。


「ここでミポリンて呼ぶなぁ!ゴルァアアアア!」


 平岡が鬼の形相で叫んだ。


「あ、ごめん」


 朴が顔を赤らめて謝った。


「さて、予定が詰まってるから、真田さんをそろそろ朴さんに渡してね、平ちゃん」


 山口が立ち上がって空いたカップや皿を持って流しに行った。


「ちぇ、まだまだ説明したい事があったのに…真田ちゃん、またねぇ~」


 平岡が名残惜しそうに言うとパソコンのキーボードを叩き始めた。


「じゃ、射撃場で待ってます。

 今日はかなり実戦的に行きますよ」


 朴がニヤリと笑い、ブースを出ていった。


 私はコーヒーの残りを飲み干して、流しで洗い物をしている山口の所に持っていった。


「あら、ありがとうございます。

 そこに置いて下さい。

 洗っておきますから」


「ありがとうございます」


 私はコーヒーカップ を置いてからブースを見回し、誰もこちらを見ていないのを確かめてから山口の耳に口を寄せた。


「俺も『サヨポン』て呼ぼうかな?

 ……サヨポン」


 山口が顔を赤らめて食器を洗う手の速度が倍の速さになった。


「バカねぇ」


 山口が真っ赤な顔で呟いた。


「二人の時は良いわよ…ハゲまさちゃん」


「…俺はハゲじゃないよ、薄いだけだよ」


 山口がクスクスしながら言った。


「私は孝正がツルッパゲでも気にしないよ」


 私は桜田に毟られた髪の毛の辺りを手で確かめながらブースを後にした。


 新しい調査用スーツは身体にフィットして動きやすかった。

 暫く歩いて射撃場の前に立ち、ドアを開けると、中は真っ暗で私は戸口で戸惑ってしまった。


「朴さん?」


 射撃場の照明が灯り、暗視ゴーグルを頭にはねあげた朴と保安チームの何人かが立っていた。


「よう、真田さん、来たね。

 さ、中に入って入って」


 朴達は麻酔銃を手に持っていたが、それには様々なアクセサリーが装着されていた。


 屋内射撃場には朴の他に4人の保安チームがいた。


 1人は飲み会で傷自慢の時にベイルートで刀傷を負った女性、他の2人は佐伯邸で見知った顔の男性、そして、見覚えの無いもう一人は、一瞬女性かと見間違う程に綺麗な顔立ちのスラリとした若い男だった。


 見知った保安チームの面々が私に笑顔で会釈した。


 綺麗な顔立ちの若い男が私に近より笑顔で手を差し出した。


「はじめまして。

 現役のダイバーにお会いするのは初めてです。

 神代 悟と言います。宜しくお願い致します」


 私は宜しく、と言って神代と名乗る若者と握手しながら面食らった顔を朴に向けた。


「真田さん、新しい保安チーム要員ですよ。

 と言うか…ダイバー候補です」


「ダイバー候補?」


「ええ、フォースダイバー候補です。

 惟任教授から頼まれまして、まぁ、研修生みたいなもんです」


 朴が屈託の無い笑顔で言った。


(成る程、4人目のダイバーか…まぁ、俺だっていつ死ぬか判んないもんな)


 神代が多少複雑な私の気分を察したのか、笑顔を浮かべた。


「安心してください。

 僕はあくまでリザーブですから。

 その内に真田さんと共にダイブする時も有ると思いますが、どうぞ宜しくお願いします」


「ああ、こちらこそ、一緒に頑張りましょう」


 私は神代の笑顔につられて笑顔になった。


 しかし、さっき神代と握手した時のホッソリした華奢な手が気になった。


(こんな華奢なか細い手でダイバーが務まるのか?まぁ、体格でやる仕事じゃないからな)


「さて、真田さん、現地の事を調べたら、やっぱり夜間暗闇での射撃と言うケースが絶対に起こりうるんですよ。


 照明が全部ダウンする状況が起きる可能性は極めて高いですね、佐伯邸のケースから考えたらね」


「山の中では真っ暗になるね」


 私が言うと朴がニヤリとした。


「そう、真っ暗になります。

当日の月齢も、新月と行かないまでもかなり暗いし、雲が出たらもう…ね」


「それで、それなの?」


 朴が頭の暗視ゴーグルと麻酔銃の暗視サイトを指差した。


「そう、それでこれなの、真っ暗な中で移動目標だし、ケルベロスを誤射したりしたら目も当てられないからね~」


「それもそうだね」


「真田さん、みっちりしごかせて貰いますよ」


 朴が様々なアクセサリーが付いた麻酔銃を差し出した。


「こういう時の事も考えてレールシステムを取り入れてあります。

 ミポリン…平岡は凄いね」


 朴が誇らしげに微笑んだ。





続く

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