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Report 5 温泉(露天風呂はない)

 ここは女湯しかない。

 だって女の子しかいないから。僕も体は女の子。


 けれどそんなの関係ない。

 だって、ここは貸し切り状態の温泉だから!



 ・・・・・



「洗うからこっちに」


 貸し切りではありません。嘘です。

 なぜかついてくるんだ紙袋さんが。温泉で紙袋ってマナー違反じゃないの? そんな注意書きは見たことないけど。


 アオは例え紙袋が湿気ても脱ぐ気はないらしく、バスタオルを巻いて手招きしていた。

 なんだろう、不審者についていく気分だ。

 膝に座らさせられて少したじろぐ。


「あー、やっぱり自分で洗うので」

「……」

「な、なんですか?」


 アオは僕の耳元で囁いた。


「ヨウカ、女の子じゃないね」

「!?」


 な、なんのことやら。

 バレたのか? バレる要素はなかったような……。


 その時、温泉の扉が開いてもう一人入ってきた。

 食堂で働いていたメイドさんだ。ツインテールをほどいて一瞬誰だか分からなかった。髪型で人の印象って変わるものだ。紙袋の人はどうひねっても紙袋だ。

 ともかく助かった。


「お、やっほー、アオか。何? 珍しくアオが女の子を襲ってる」

「襲っていません。なんだかヨウカさんはいろいろ教えないといけない気がしているだけです」

「庇護欲ってやつ? にしてもそこまで入れ込むのは珍しい」


 アオはメイドの言葉は無視して僕の体を洗い始めた。下心とかは感じず純粋に世話を焼いてくれているのが分かった。


 メイドは横で自分も体を洗いだし、会話に交ざってきた。


「新人ちゃん、今日は大変だったらしいね」

「あの鬼ごっこのことですか? あれって本当に何なんですか。やる意味ありますか?」

「さあ? ここにいる人みんな精神がちょっとおかしいからね。ヨウカみたいな常人には理解できないと思うよ」


 僕は常人なのか。

 そして、長く過ごせば彼女らみたいになるのか。




「エイッ」と言ってメイドが僕の胸をつついた。


「ヒャッ」

「いい反応」


 変な声が出て思わず赤面する。

 笑うメイドの背後にアオはいつの間にか立っていた。


「痛い痛い首が折れる!」

「謝りなさい今の無礼を」

「ごめん! 分かったから首、し、死ぬ、」


 そのまま死んでくれ。

 と、までは言わなくともこの恥辱は許すまじ。

 だが、アオから解放してくれたのでやっぱり許そう。




「はぁ~ごくらくごくらく~」


 何日ぶりか分からない風呂。お湯の温かさが体の芯まで染み込んでいく感じがする。ここが露天風呂であれば言うことはないのに。どこまで行ってもあるのはただの天井だ。


 改めて自分の体を見ると、そこそこ可愛い。

 いや、謙遜せずに言ったらすごく可愛い! レネには昔好きな女性のイメージを聞かれたことがあるので、それが反映されているのだろうか。だとしたら凄い技術だ。若干ロリに近いのは彼女の好みだな。

 手も足も元に比べて細く小さく、自分の体が頼りない。胸の膨らみは大胸筋ではないので柔らかくて不思議な感触。そういえば、二の腕の感触が胸の柔らかさと同じと昔聞いたことがある。

 ふむ、確かにこれは……。


「何してるの?」

「っ! なんでもないです」


 メイドに奇行を見られてしまった。

 彼女はニヤニヤしてる。きっと、僕がやっていたことの意味を知っているのだ。


「顔赤いよ」

「~っ!」

「純粋そうでいいね~」


 すごくイラッときた。

 だが、僕は彼女らと違って大人だ。ここは冷静さを見せるとする。


 メイドは僕の真横に浸かってお湯を味わっている。

 湯船の中なのでもちろんバスタオルはない。今さらではあるけど裸は見ないようにしておいた。


 メイドはアオが体を洗っている間に話し出した。


「ヨウカはここをどう思う?」

「ここ? ディープグラウンドはイカれた場所に違いありません。なんだかギャングが支配する町みたいな」

「その例えいいね」


 逃げられないというのもここの異常さに拍車をかけていると思う。落ちれば無限に落ちるのだ。


「私ね、一つ夢があるの」

「ここから出ること?」

「出ても大変だよ。私は足が悪いから」


 思わずメイドの方を見てしまった。

 僕よりだいぶ大きな胸をメイドは持っていた。

 ではなく、足は見たところ問題無さそうだった。


「今は神経の再生がほとんど終わって歩けるようになった。でも、再生した足だから一生走れない。感覚が鈍いから怪我しても危ない。頼る身寄りもないし、今さら外に出たってどうしようもない」


 言葉とは裏腹にメイドに悲壮感はない。

 もう割り切ったことなんだ。この地下で生涯を過ごすつもりなのか。それはとてもつまらなそうだ。


「それよりアオを外に出したい」

「どうしてアオを? 血縁関係とか?」

「いや全然。ヨウカもそうだけど、ここに染まって欲しくないから」






 その後、アオはいつまでたっても湯船に来なかった。


「どこ行ったんだろう」

「アオは顔も体も隠したがるから。裸なんて見せてくれないよ」


 僕より断然付き合いの長いメイドですら見たことがないというのか。


 メイドは湯から上がるときに、


「そうだ、今晩は部屋に鍵をかけたほうがいいよ。バリケードまではしなくていいけど」

「ゾンビでも湧くんですか?」

「ゾンビより恐ろしいのがね」


 どうせたいしたことはないだろう。

 地震雷火事親父、なんでも来いってもんだ。






 前言撤回。

 誰かが扉を開けようとしている!

 呼び掛けても返事はなく、ただガチャガチャとドアノブを触る音がする。


 ここにいるのはただTSしただけのか弱い女の子ですよ。食べてもおいしくありません。なので早くお帰りください。


「……」


 一難去った。


 今気づいたけど、

 生娘ってだいたいの物語で犠牲になるよね。

 フラグじゃない。ただの事実。なんでこれが頭に浮かんだのかな。

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