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Report 4 悪魔の鬼ごっこ

 悪魔のかくれんぼ。

 いや、悪魔ちゃんやデビルちゃんが主催してるんじゃない。もちろん女神主催だ。


 ただ、内容が酷いので僕はこれを悪魔の鬼ごっこと呼ぶ。



 ・・・・・



 昨日の夜。

 食堂にて。


 女神が僕に一つ尋ねてきた。


「ヨウカさん、明日の遊戯には参加しますか?」

「うーん、他にすることもなさそうだから参加しようかな」

「分かりました」


 そして微笑んで去っていく。

 なにやら女神はアカを含む十人程の集団でご飯を食べていた。


 そして、なぜかアオはボッチ飯。

 座る場所はたくさんあるが、敢えて隣に座る。


「……今日はありがとう」

「……」

「……」


 以上会話終わり。いやー、そりゃボッチ飯なわけだ。


 後は一棟の割り当てられた部屋に帰り、ゆっくりと眠った。

 僕は知らない枕でも寝れるタイプだ。




「九時に公園区画に集合です」


 朝食後、しばらく娯楽室で本を読んでいたら呼び出しがかかった。そういえば一棟のリビングには放送機器があった。


 仕方ないので『十二夜』を閉じる。本のラインナップがシェイクスピアの『十二夜』レベルって、そりゃみんなあんまり娯楽室を使わないわけだ。

 シェイクスピアがわるいんじゃない。男装したヴァイオラが恋をするところとかすごくいいじゃないか。

 でもね、ラノベの一つぐらいは置いて欲しい。






 女神は鞭を持っていた。

 馬を走らせるのに使うやつだと思う。まさか人を叩くものではないと思いたい。


「今日は鬼ごっこをしましょう。捕まったらお仕置きです。皆さん、頑張って逃げてくださいね」


 そして最後に微笑むのを忘れない。

 気分が和むはずなのに、鞭が女神の手にあるせいで恐ろしい笑みに見える。

 微笑んだままあの鞭を振るったら何人かあの世に送れそうだ。


「ヨウカさん」

「は、はい。なんでしょう」


 女神は僕に鞭を手渡して微笑むと、アオと共に公園の端に移動していった。

 で、僕にこの鞭でどうしろと?




 僕は鬼側だった。

 鬼の面子はまさに追いかける側といったかんじで、男勝りのアカやなんかケモミミのあるオオカミ(人)など、まあウキウキして準備体操をしている。ちなみにアオは女神の護衛で参加していない。

 一方、逃げる側は雰囲気が終わっている。みんな隅へ逃げて、もし鬼が来たら我先に逃げ出さんとしている。


「スタート!」


 という女神の掛け声で鬼ごっこは始まった。




 鬼ごっこを子供の遊びだと思っていた時期が僕にもありました。


 開始早々僕以外の鬼は鶴翼のような包囲陣形を組んで哀れな子羊たちを真綿で締め上げていく。

 何が酷いって、捕まえ方が本当に捕まえるんだ。

 酷すぎて酷い。


 組み倒して地面とのサンドイッチにしたり、二人で手を引いて引き摺っていったり。アカに至っては力が強すぎるので、捕まるとみんな顔面蒼白になって足がプルプル震え出す。もはや漏らしているのではないかと思うほど。


 あんまりの光景に僕は女神に抗議しにいった。

 僕は女性には正当防衛以外で危害は加えないと決めている。ただしレネは例外。

 ともかく、女の子が苦しんでいるところを見て喜ぶ性癖はしていない。


 女神は困惑した様子だった。


「おきに召しませんでしたか?」

「あんまりだよ! 乱暴にすることないでしょ!」

「そうは言われましても……。ここではルールですから」

「ルール?」

「弱肉強食の仕組みです。家事を上手くできず、再生装置の管理をする知能もなく、夜伽をできる魅力もなければ、ああして虐げられるしかないでしょう?」


 女神が何を言っているのか理解できない。

 いや、分かっている。ただ、そんな原始的な世界がこの世にあるわけないと心が否定する。




 女神は僕の心を読んだかのように、一つ提案をした。


「ヨウカさんは優しいのですね。なら、身を持って味わってみてはいかがでしょう。あなたのその特別な立場における権利を誰かにお譲りして、ヨウカさん自身が虐げられてみては。そうしたら、すぐにも元に戻りたいと願うでしょう」


 ……。

 自分がいじめられるが、誰かは助かる、か。

 傍観者殺しの理論だ。


 僕が頷こうとすると、アオが「待って」と言った。


「なんですか、アオ」

「彼女はここに来て日が浅いので、状況が分かっていません。今は時間を与えるべきです」


 アオの言葉で僕は覚悟を決めた。


「なってやるよ、虐げられる立場に」






 そして、今僕はアオに壁ドンさせられている。

 女の子の匂いがすればいいんだけど、紙袋の匂いがすごくてそれどころじゃない。

 体温を感じるほど近づいたアオから怒りを感じる。


「どうして私のフォローを断った?」

「そうすれば誰かが助かるから。ただの傍観者は嫌だ」

「普通でいい」

「誰だって特別になりたいはず」


 何の会話だこれは。

 別に女神への返答にそんな深い思考があるわけないのに。だって、自分が犠牲になれば女の子が一人助かるんだよ? すごくいいと思う。僕はどうせ半年後には男に戻ってこんな所おさらばだ。


 アオの紙袋の下はわからないけど、たぶんちょっと落ち着いてきた。

 体が密着してると恥ずかしいから早く退いて欲しいのに、なかなか退いてくれない。




 しばらくしたらやっとアオは離れてくれた。

 つくづく思うけど、この女の子は性格がイケメンな気がする。


「着替えを用意して。後で迎えにいくから」


 そう言い残して去っていった。

 着替え?

 洗濯でもするのかな。

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