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Report 3 アオという人形

 地下でありながら広大なディープグラウンド。

 女神という女性は端的に言えばここの統治者らしい。


 レネが去ったのを確認してから彼女が手を振って合図をすると、誰かが近づいてきた。

 その人はここの人なので当然女性だが、頭に被り物をしていた。どこでも手に入りそうな紙袋に目と口と耳の分だけ穴が開けてある。武器は持ってなさそうだが体つきからして強そうだった。


 女神は僕に、


「護衛のアオです。ついてくるだけなので気にしなくて結構ですよ」


 と言い、アオという護衛には、


「ついてきなさい」


 と短く告げた。




 いや怖いよこの人。

 紙袋の隙間から覗く目が人を殺せそうなほど冷たい。

 というか紙袋の説明ないのね。


 それにしても、なんで護衛が必要なんだろう?



 ・・・・・



 結局何事も起こらなかった。

 護衛というのはこの空間における一種のロールプレイングなのかもしれない。

 だって女神とか普通に名乗るなら頭おかしい人だもの。


 リビングに着くと、そこそこの人数が僕を迎えてくれた。

 ざっと二十名ほど。思ったより少ないかもしれない。リビング自体は学校の教室の四倍はあるから少ないのか。


 女神がみんなの前で、


「今日から加わるヨウカさんです。皆さん、仲良くするように」


 と言って、みんなが「はーい」と答える。

 いたた、このノリ社会人になってからだとキツイな。


 約二十人を見回すと実に様々な人がいる。ただし全員女の子ですが。僕は本分違うけど。

 アオという紙袋被った変人さんの横にはもう一人強そうな人が立っている。アオは名前の通り髪が青くて、もう一人の方は髪が真紅色。

 名前はたぶん、


「アカだ」


 でしょうね。

 体格が性転換前の僕を越えている。おそらくディープグラウンド内の女性で一番大きい。どちらかというと男みたいだ。


 他にも気になる人はいた。

 耳が生えてる人とか目がハートマークの人とか。

 特に目がハートマークの人はヤバそうだったので目があった瞬間無視を決め込んだ。




 女神が厳かに告げる。

 女神(人)ね。


「皆さん遊戯の時間です。十五時までに公園区画に集合してください」


 その言葉で場に緊張が走る。

 ……。

 なんでかな? ただの遊戯なのに?


 女神は困惑する僕を見て、


「今日はヨウカさんは見学にしましょう。アオにその間施設を紹介してもらってください」


 と言って微笑み、移動していった。

 ああ、いい匂いが遠ざかっていく。


 で、残されたのは僕と紙袋ヘッド。

 紙袋ヘッドのアオは無言で歩きだした。


 で、僕がついて来ないのを見て、


「来て」


 と喋った!

 話せない人なのかと思ったらただの無口な人だったていうオチか。




 どうやら最初のリビングがあった場所は一棟らしく、位置はディープグラウンド南西。

 その北に食堂がある。


 食堂内では数人が料理の仕込みを行っていた。

 そのうち一人が僕たちに話しかけてきた。


「アオ、その子は新入り?」

「はい。ヨウカさんです」

「ふーん。相変わらず女神様は情報を下によこさないんだ。まったく、新入りちゃんも気を付けて────」

「メイドさん、口を慎んでください」


 メイドさん?

 確かにこの人メイド服着てるけど。だからってメイドはないだろう……。その名付けのセンスでいったら隣の青髪の人は紙袋さんになってしまう。


 メイドさんはアオを少し恐れているような感じで、僕を心配そうな目で見ていたがすぐに仕込みに戻っていった。メイドさんだけじゃない。他の人もアオを恐れているように見える。

 アオ、いや女神の一派はこの空間の何なのだろうか。




 次はディープグラウンドの東、自然区画に連れてこられた。

 じょうろから流したような細い川を天井まで伸びた木々が覆っている。天井の照明は遮られて暗く、鳥の鳴き声の安っぽい音声が流れ続けている。

 それと、なんだか不健全な香りがする。

 レネの変態が僕に移ったとかじゃなくて、鼻腔を所謂牝の匂いが突いているような気がする。


 アオもどうやらそれに気づいているらしい。


「ヨウカさん、自然区画へは近づかないことを勧めます。暗くて声が通らないのでここはとても()()()やすい場所です」

「意味は分かるよ。けど、女の子しかいないのに誰が襲うの?」

「……今のあなたの発言が答えです」


 あっ、そういう。

 おかしいよこの場所。いや、女子高では百合の花が咲くのはそう珍しくないんだっけ……。




「危ない!」

「えっ、何が?」


 突然アオに押し倒される。

 土の匂いと紙袋の匂いが混ざってすごく自然を感じる。

 というか、今の状況が危ない!


 と、次の瞬間、誰かが猛烈な勢いでアオに衝突してきた。

 奇襲だ! でもアオはうまくいなして逆に相手を転ばせた。その誰かはそのまま「ああああぁぁぁぁ!!」とか喚きながらどこかへ走り去っていった。


「な、なに、今の?」

「あなたに私が同伴する理由です。ディープグラウンドには一部精神に異常をきたした者がいて、彼女らは薬が治験段階に入るまでここで暴れ続けています」


 迷惑すぎる!

 これが本当の人種のるつぼ、いやサラダボウルか。


 ところで、まだ牝の香りが奥からする。

 ホーホケキョというウグイスの鳴き声に喘ぎ声が重なってシンフォニーを生み出している。

 僕が指揮者なら指揮棒を投げつける。


「あの奥にいるのも精神患者?」

「……まあそうですね」


 環境が人格に影響するのは当たり前だ。

 つまりここの環境は破綻してる!






 二棟は案内してもらえなかった。

 アオ曰く、そこはまさに精神に問題がある人が多いのだそう。


 最後に、アオに気になっていた質問をした。


「どうしてみんな本名を使わないの?」


 アオの目が微かに輝く。

 紺碧の目が名前に関して何かあることを訴えているみたいだ。


「……名前は奪われるのです」

「どこかの温泉お婆さんみたいだね」

「……」


 このネタは分からないか。

 アオに続きを促す。


「……ここは地上とは違います。搬入口から入るものと再生室でリサイクルされるものが全て。娯楽に乏しく、秩序も構築できない」

「秩序はあるよね?」

「女神様が生み出したのは秩序ではなく束縛です。与えられるものを管理することで人は従うようになります」


 束縛ね。

 地上の秩序もある意味束縛と変わらないように思うけれど。


「名前は人を表します。女神は女神に、オオカミはオオカミに、ヴァンパイアはヴァンパイアに」


 後半二つがヤバそうだ。

 絶対関わりたくない。


「ヨウカさん、名前は大事にしてください」

「わかった」


ロールプレイングも楽しそうと思ったのは内緒。

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