表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

Report 2 でぃーぷぐらうんど(女性棟)

 僕はレネに掴みかかる。

 婚約って聞いて飛びついたけどこれじゃああんまりだ。女にされるなんて聞いてない。身長も縮んでるし! 堀燿火()は人権を獲得する程度の身長はあったのに!


「説明して!」

「性転換薬(TSF)の治験だよ? 人体実験ができなくてずっと困ってたの~」

「『困ってたの~』じゃないよ! なにその性転換薬って!? あと(TSF)は余計だよ!」

「(TSF)ってTransSexual to Femaleじゃないの?」


 違うよ!

 FはフィクションのFだよ!


 それより、早く戻してもらわないと日常生活が送れなくなる。

 今まで男だった社員が今日から小さい女の子になって戻ってきたら、妹か親戚あたりに思われてオレンジジュースを出されて「さあ、保護者が来るまでまっててね」なんて言われるに違いない。


 レネはこの一大事に小さく下を出してエヘッってした。

 可愛いなちくしょう!


「そうだ、性転換薬(TransSexual to Male)はないの? もう一回被検体になるから早く男に戻して!」

「ごめん~。そっちは予算不足で凍結したから無理」

「親が製薬会社の社長なら無理も通るよね!?」

「そこは厳しい親なの」


 面倒くさいな!

 親御さん、あなたのその厳しさが娘の将来の婚約者に大迷惑をかけていますよ!

 いや、婚約とかもうどうでもいい。子供できたってレネなら人体実験に使いかねん。ここは手っ取り早く男に戻って流行りの婚約破棄を決めて、レネには生涯独身でいてもらう。

 さらば、マッドサイエンティスト!


「そういえばまだ写真撮ってないよ」

「……すごく嫌な予感がするけど聞こう。何の?」

「報告書に載せる写真。裸で撮らせて」


 ……。


 ……。


 やめろこっちくんな変態!

 五年も付き合った彼女が彼氏を女にして裸に剥いて弄ぶような極悪非道の輩だと知った身にもなれ!


 まて、下は倫理的にだめ――――




 ――――後で絶対殺す!!!!



 ・・・・・



 現在地下をエレベーターで降下中。

 僕という女の子の裸の写真を心ゆくまで撮影したレネ(変態)は僕を深い地下へとドナドナ中。


「ヨウカ、会社には育児休暇ってことにしといたから安心して。社会復帰できるまではディープグラウンドで大人しくしててね」

「待て、どこに誰の子供がいる。レネには婚約を決めるまでは手を出さないって約束したよね?」

「もちろん嘘だよ。噓も方便」

「僕の社会復帰の難易度を上げてくれてどうも! そんな方便あってたまるか!」


 ああ、僕のいないところで同僚が僕の噂話をするのが目に見える。

 くそっ、男でも育児休暇をしっかりとれるホワイト企業に入ってしまったのが運の尽きだった。




 しばらくして、ディープグラウンド女性棟に到着した。

 エレベーターに乗ってからずっと閉塞感がすごくて、常人でも閉所恐怖症になってしまいそうだ。


 レネと一緒に何層もの防護壁を通過して、なんだか違和感を覚える。


「すごい頑丈な作りだね」

「地震が多い国だからね」

「それ、壁と関係ある?」

「洪水の多い国だからね」


 おい、レネの言葉がころころ変わっている。

 これは僕の勘が告げている。何かやましいことがあるのだ。


 それより、それよりだ。


「なんだか下がムズムズする」

「発情したの」

「……」


 鉄拳制裁。




 彼女は四度目の壁をIDカードで開けた。頭をさすりながら。


「痛い……」

「で、パンツはどこに? 盗むならせめて穿いてからじゃないの?」

「彼女を泥棒呼ばわり……。正直言うと、穿かない快感に目覚めてもらいたくて、」

「おっと拳が」

「待って! というか、頭を殴ろうと跳ぶたびに下半身が危ないから!」


 あっ。

 この変態、油断も隙も無いな。そうか、スカートみたいなものか。

 そもそもどうしてこう患者用の服みたいなやつはペラペラなのか。ノーパンならせめて厚い服がいい。


 答えはすぐにやってきた。

 着替え入れの籠と人間洗浄用の部屋。


「コホン、では全部脱いでもらって、」

「死ね! 変態がぁぁぁぁ!」






 ここまで実に困難で長い道のりであった。

 だが、これから入る先はディープグラウンド女性棟。

 なんでも、TS事例は初らしいので肉体に合わせてこちらに決定した。中の住人はみんな薬や手術の副作用や後遺症で社会復帰が困難な人間らしい。でも、肉体的には問題ないのが大半らしく、女子高に入った気分でいればいいとレネは言っていた。

 君たちは信じるか? 僕は信じないが。


 大きな鋼鉄製の扉が開いた先、最初に見た光景に思ったのは「広い」だ。

 一階層の構造らしいが天井まで十メートル以上はある。敷地面積も四万平方メートルぐらいはありそうだ。所謂東京ドーム約一個分か。

 どうでもいいけど東京ドームとか分かりづらいから基準に使うな。




 レネは誰かと会話していて、その相手がこれまた美人なのだ。

 銀色の髪を後ろで緩くまとめていて、葉っぱ飾りみたいなのを頭にのっけている。身長は縮んだ僕より当然高く、その、あれだ。ボンキュッボンって言えば伝わるだろう。


 目が合うと、優しく微笑んでくれた。

 この人はまさに、その、


「初めましてヨウカさん。私のことは女神とお呼びください」


 わっ、自分で女神って言ったよこの人!

 中学二年生が患う病を一瞬疑ったけど、確かにこの人は女神に似てる。

 ヨーロッパの神様ってなんか葉っぱのリングを頭に載せてるイメージがあるけどまさにそれだ。


 女神は少ししゃがんで僕と目線を合わせると手をとって言った。


「これから仲良くしましょうね」


 そして、うふふと微笑む。

 天国ってあったんだ……。




 デレているとレネから睨まれた。

 ちょっと怒っている様子で女神に、


「その子、私の婚約者だから」


 といって去っていた。

 うーん、レネも綺麗なんだけどやっぱり女神様のほうが優しいんだよね。マッドサイエンティストじゃないし。




 女神様はレネの言葉を聞いて少し驚いていた。そして意味ありげにまた微笑んだ。

 なんだか少し背中に悪寒が走ったのは気のせいだと思いたい。

東京ドームは46,755平方メートル

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ