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神の眼を持つ少女  作者: 十七二
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第七話 再演、再録

 激しい頭痛がする。


 思い出した。思い出した! 思い出してしまった――――!!!!


 そうだ。今日みたいな日を、私は一度体験しているじゃないか。なぜ今まで忘れていたのか。あんなに大切だった家族のことを。


 いや、わかってる。思い出せない理由は私にある。私が忘れようとしていた。鍵をかけたのは私だ。なにもかも忘れてやり直そうとしたんだ。新しい家族と、新しい自分を作り上げて。


 でも、本気で忘れてしまうことなんて、私の本当の家族のことを捨ててしまうなんてできるはずもなかった。


 私に弟はいない。私に国家公務員のエリートパパはいない。私のすべてを許し、肯定してくれるママはいない。私の本当の家族はもっと厳しくて、それでいて、もっと温かかった。


 そして、そんなすべてが一度に消えたのは、今日みたいな日だった。寒くて、分厚い雲が垂れ込めている冬の日。違うのは、あの日が二月で、今日は十二月ということ。でもそんな変化は微々たるものだ。何より、もっと大切なことが、あるじゃないか。



 ◇



 リビングに入ると、見知った顔の二人と、両親が座っていた。深刻そうな顔をして。


 見知った顔の二人のうち、一人はただ名前と顔が合致しているだけの男。私が小学生のころに、両親によく連れていかれたとある施設で見かけた土掛という男だ。


 彼が私を見る目が怖かった。背が高く、真っ黒なスーツに身を包み、とげとげした髪と目で、高いところからいつも見下ろしている。決してしゃがんで目線を合わせてくれることはなかったし、話しかけてくることさえなかった。


 代わりに、私がいつも行っていた施設で私の相手をしてくれていた女性がいる。それがあの日にやってきたもう一人の見知った顔。名前は久世咲良くぜさくら。土掛と違って愛想がよく、その施設では両親と別れて行動していたから、子供の私にとっては一番の拠り所だった。年齢も母親に近く、それでいて母親よりも若い髪形や化粧をしていたから、年の離れた姉のようであった。


 でも、その顔はすべて紛い物。私を騙すための体のいい嘘の顔だった。


 正直なところ、施設へ通うのは窮屈で退屈だった。眼の力をいろいろと使わせてくれるのは楽しかったけれど、命令ばかりで好き勝手に何でもやっていいわけじゃない。それでも、言われた通りにやれば、久世咲良は丸く艶のある声で褒めてくれたからいい気になっていた。


 思えばいい餌付けの方法だ。たしかに、子供の時分ではそうやって手懐けるのが最も効率がいいだろう。褒められれば誰だっていい気になって舞い上がる。そういう心理を利用して私を操った。


 そうやって騙され続けた私は、中学に上がり、施設に行くこともなくなったたため、本当の自由を得た。


 もう私を縛るものはない。眼だって使い放題、そう思っていた。施設でいろいろと試したいことも思いついていたから、それらを一つずつ実行しようと考えていた。


 でも、私に与えられた自由は仮初のものだった。監視をされていた。そして眼を使えばすぐにばれて、両親からも彼らからも怒られた。


 でも、両親は悪くない。言っていることは理解できなかったけど、彼らが両親を洗脳し、悪い考えを吹き込んでいたことくらいはすぐにわかった。彼らから聞いたと言いながら、その口から発せられる言葉は紛い物だった。


 私のためと何度も繰り返されたけど、だって、私は誰も傷つけていない。人を傷つけちゃいけないことくらいわかってる。だから代わりにウサギやキンギョを使ったんだから。


 それに私はみんなが悲しまないように、ウサギやキンギョのことをちゃんともとに戻した。みんなが可愛がっていたことは知ってる。でも、気になっていたから、ちょっとだけ、ひねったり、飛ばせてみたりしただけ。死んじゃったこともあるけど、私はちゃんともとに戻す方法も知っている。だから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 でも、あの施設の人たちは、なぜだか私をずっと見張っていて、私がしたことを敢えて悪いことのように両親に告げ口をしたんだ。


 そこで優しいと勘違いしていた、久世咲良とかいう女の正体も知ることになった。彼女は何度も私に繰り返した、その眼の使い方を間違えないでって。


 一体何様のつもりなのか。これは私が持って生まれた私の体の一部だ。それを私がどう使おうと私の勝手。それに、私は犯罪をしているわけじゃない。人のものを盗んだり、人を殺しちゃいけないことくらいはよくわかってる。だから、そういうことはしないし、みんなが悲しむようなことは、元通りにすればいい。私はそういうことができるんだから。


 でも、どれだけ私が訴えても、彼らは私の両親への洗脳と告げ口を止めなかった。むしろ日に日に激しくなっていった。彼らが学校まで直接やって来て私を無理矢理連れて行こうとさえしたこともあった。


 思えば、あの時眼を使って抵抗すればよかったんだ。そうすればあんなことが起きることもなかった。私は優しすぎた。優しすぎたから、両親が悲しむことになってしまった。


 学校にやって来るというのもいい方法だ。学校でむやみやたらに暴れれば、次の日から友達に避けられることは知っている。


 私は優等生。そういうことは友達や先生、両親の前ではしない。だから、大人しく従っていたけれど、そんな態度だったから彼らはつけあがった。思えばばれない方法だっていくつもあったのに。


 でも、誰にも見られないっていうのも、悲しいでしょ? だから、あんな人たちでも見ててくれたのはほんの少しだけ嬉しかったのかも。そんなんだから、あの日がやって来ることを避けられなかったのだけれど。

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