第二話 状況整理と訓練
スマホでの投稿って辛い
家に着く頃には、空はもう暗くなっていた。
玄関を開けて家に入ると、ミアさんが出迎えてくれた。
「おかえり、レイ。ってどうしたの、そんなに服を汚して」
「ちょっとね。ファングボアに遭遇して、手こずっちゃって」
そう言いながら、魔石を見せる。
「確かにファングボアの魔石ね。とりあえず怪我がないようでよかったわ。ご飯ができているから、まずはお風呂に入って体を綺麗にしてきなさい」
そう言われて、お風呂に向かった。
体を洗い、湯船に浸かる。そしてまとまりきっていない頭を整理する。俺は今日、前世というものを思い出した。自分の名前はレイ。前世の名前は草薙玲音。前世では、地球と呼ばれる所に住んでいて、16歳の高校生だった。今の俺は、14歳で親と呼べる者はいない。ミアさん曰く、ある日家の近くの森に捨てられていたのを拾って来たらしい。その時に名前が書かれた紙だけがあったそうだ。
前世では、どうやら病気で死んだらしく、病室で異世界ものの小説を読む記憶だけが残っている。
少しのぼせてきたようで、頭がふわふわとしている。
これ以上は頭が回らないので、湯船から出て体を拭き、服を着てリビングへと向かう。
リビングでは、ミアさんとクリムさんが食べ始めていた。
「ずいぶん長かったな」
「ちょっと考え事をしててね」
俺も座って食べ始める。
「そういや、ファングボアを狩ったんだってな。初めての戦闘はどうだった?」
「怖かったよ。いくら訓練してるって言っても、型の練習と簡単な魔術ぐらいだし。何より実際に敵がいて殺意を向けられるからね」
「それなら良い経験になったな。最初に戦うことの怖さを知っておけば、次からは戦いの雰囲気に呑まれにくくなる。冒険者にとって大切なのは、必ず生き抜くことだ」
「そうよ、レイ。経験を積むために戦うのは良いけど自分の身を第一に考えなさい」
「はい。ごちそうさま。今日はもう寝るね。おやすみ」
「「おやすみ」」
皿を片付けて、自分の部屋に入り、ベッドに倒れ込む。
風呂でできなかったことを、改めて整理する。
この世界は異世界だ、前世で創作物だったようなもののある。魔術があって、魔物がいる。それだけで十分だろう。俺は異世界の住民なのだ。あくまで俺はレイだという感覚が強いが、今感じている興奮も本物だ。とりあえず明日に向けて寝よう。そう思いながら眠りについた。
朝だ。
いつもより少し早く起きた俺は、庭に出てひたすらに剣を振り続ける。
「おーう。今日も精が出るなぁ」
「あっ、クリムさん。今日は早いね。どうしたの?」
「ちょっとな。お前はどうしたんだ?」
「昨日のことを思い出してね。そうだ、俺に剣を教えてくれない?もっと強くなりたいんだ」
「いいぞ、ちょっと待ってろ。少し準備してくるから」
そう言われて、剣を振って待っていると、クリムさんが戻ってくる。
「待たせたな。じゃあまず俺に打ち込んでこい。遠慮はいらねぇ、どうせ当たらねぇし、当たったところで怪我にもなんねぇからな」
「じゃあ、いかせてもらうね。はあっ!」
クリムさんの言葉に少しムッとしながら、思い切り打ち込む。
「はあっ、やあっ」
「動きが単調すぎる。剣の重さに振り回されて、切り返しも遅い。型通りにやるのもいいが、それだけだと戦いには使えない。もっと合理的に動け。できる限り無駄をなくせ」
何度打ち込んでもクリムさんに軽くいなされる。
続けているうちに、息が切れて体が動かなくなる。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
「基礎はできてるが、戦闘はからっきしだな。毎日最初にこれをやる。これをやった後は指摘した部分の修正だな。一ヶ月の間に俺に勝てるようにしてみろ」
「ハイッ!!」
クリムさんとの訓練が始まった。
「ミアさん。俺に魔術を教えて下さい」
「いいけど、急にどうしたの?」
「昨日の戦いで自分の力不足を実感してね。魔術があればもっと手札が増えて強くなれるかなって」
「そういうことね、いいわ。教えてあげる。前に教えた基礎は覚えてるわよね?」
「うん。確か魔術には属性があって、炎、水、風、土、雷、
氷、光、闇の八属性と無属性があるんだよね?」
「そうよ。厳密に言えば、時空と精神があるらしいのだけど、今は関係ないからいいわね。魔術には種類もあって、古代文明が発明したものを指す古代魔術と、精霊の力を借りて発動する精霊魔術、一般的に使われている現代魔術ね」
「確かそれぞれの属性に適正があるんでしょ?」
「ええ。レイの適正は全ての属性にあったわね。訓練さえすれば全ての魔術を自由自在に操ることもできるわ。後は魔力量ね。最初の魔力量と限界値には個人差があるけど、一般的には適正と最初の魔力量が多いほど限界値も高いと言われているから、問題はないと思うわ。魔術の区分は下級、中級、上級で、その三つの中にも下位、中位、上位で分けられるわ。まずは各属性の下級魔術の練習をしましょう。順調にいけば一ヶ月で上級まで覚えられるわ。後は毎日全身に魔力を均一に巡らせる練習をして、魔力を空っぽ寸前まで無くしてから寝なさい。魔力のコントロールが良くなれば魔法の緻密な操作が可能になるし、筋肉の超回復と同じで魔力もふえるわ」
「ハイッ!!」
ミアさんとの訓練も始まった。
その日の夜、風呂に入り汗を流して夕食を食べた後、俺は自分の部屋へ戻り鏡に写る自分を見ていた。銀髪で165cmぐらいの身長。ため息の出るような美しさの顔。俺の価値観がおかしいのでなければこの世界でもかなり顔の整っている部類に入るだろう。まぁ、不細工でないだけよかった。俺は自分の将来に不安を持ちながらも、夢の世界へと飛び立った。