❥ ❥ ❥ ❥ - - - ストーカーの場合 - - - ❥ ❥ ❥ ❥
「じゃあね花音、また明日~!」
「ばいばーい!」
目一杯、手を振る。学校が終わり、寄り道をせず、駅で友達と別れた。
いつもは女子高生らしく遊んで帰宅がお決まりだけど、期末試験が近い上にお互いお金がない。故に少し辛抱して、テスト開けお小遣いが入り次第、思いっ切り遊ぼうと約束をしている。
学生の本分は勉強だ。つらいが乗り越えた時の達成感と、テストの点数が良かった時の幸福感は半端ない。
「どこに遊びに行くか楽しみだな」
ご褒美があれば頑張れる性格に生んでくれた両親に感謝だ。足取り軽やかに歩いていると声をかけられた。
「――花音」
「湊!」
同じ私立の共学校に通う私――多々良花音と同学年の幼馴染、夏川湊だ。詰襟を用いた共布上下の衣服、所謂、学ランを着ている。因みに私は独特の形状をした大きな襟が特徴の上衣、セーラー服だ。
湊は目鼻立ちが整った細身の美男子で、178㎝と高身長、腰の位置が高く足が長い。髪型はツーブロックのナチュラル束感ショートだ、彼特有の爽やかさを一層際立たせている。
加えて彼の中身は外見に負けず劣らずだ。小学校、中学校、高校、私が帰路途中ひとりになる事を心配し、どんな時も毎日こうして待っていてくれた。特別に約束をしたわけではないし、「待ってるよ」なんて言われた試しもない。恐らく彼は私を気遣い敢えて言葉にしないのだろう、これは彼の優しさだ。
「一緒に帰ろう」
「うん!!」
湊は152㎝で足幅が狭い私に歩調を合わせてくれる。
「ねえ花音、去年誕生日にあげたウサギのぬいぐるみあるでしょ?」
「うん、佐藤さん」
唐突な質問に疑問を持たず答えた。湊は13歳の誕生日を機に毎年、可愛いウサギグッズをくれる。スクールバックにぶら下がったウサギのキーホルダーや、ウサギのスマホリングも然り、色はピンクや白が多い。
「その佐藤さん、体調悪いみたいなんだよね」
「そうなの!?」
実のところ彼は霊感や超能力がある。13歳の誕生日、こっそり私だけに教えてくれた。「気持ち悪いよね? 僕を嫌いになる?」と告白してくれた彼の悲しげな表情をいまも忘れられない。
無論、疑いはしない。彼が嘘をつく理由がないし、私は兄妹同然に育った彼が大好きだ。
「今日、預かってもいい? 治してあげたいんだ」
「もちろんいいよ!! ごめんね、私まったく気づけなくて……、もしかして昨日の夜、私がジュース零しちゃったせいかな?」
オレンジジュースをたっぷり注いだグラスを手の甲で倒してしまい、勉強机に座るぬいぐるみがびっしょり濡れてしまった。急いで手洗いし、ドライヤーで乾かしたが、相違なく原因は私にある。
「友達とお喋りに夢中だったもんね」
「凄いね湊は、透視だっけ?」
「まあね」
湊は首を傾け微笑した。仕草が逐一、魅力的だ。
「佐藤さんに謝らなきゃ、許してくれるかな?」
「大丈夫、怒っていないよ」
「そっか、良かった」
しかし一応、謝罪の気持ちでぬいぐるみにお菓子を買っておこう。クッキーでいいか考える私に、湊が違う話題を振ってきた。
「ねえ花音、クラスの渡辺君さ」
「え? 渡辺君?」
渡辺君は隣の席だ。最近仲良くなり、よくお喋りをする。
「うん。ちょっと花音と波長合わないんだよね、あんまり近づいちゃ駄目だよ。消しゴム無くて困った場合、僕が貸すよ。教科書だって、ね」
今更気に留めないものの流石だ。当たり前の如く彼は私の日常を把握していた。
「波長、波長、えっと、運気が上がったり下がったり……の?」
記憶を辿る。確か以前、人間の波動云々を湊が説いてくれた。でも難し過ぎて詳細に覚えていない。
「正解。彼の運気、落としたくないでしょ花音も」
湊の忠告は私と渡辺君を想って、だ。実際に湊は眉尻をハの字に下げ、切ない面持ちと口調で伝えてくれている。
「……うん、わかった」
私は事実を受け止め頷いた。極力、渡辺君と距離を取ろう。
「物分かりが良い子で助かるよ」
湊は「ありがとう」と一言付け足し、頭を撫でてくれた。私が毎朝、必死に寝癖を整えている事情を既知してか、茶色いナチュラルボブの髪が乱れないよう、絶妙な加減で動く彼の掌はひどく心地が良い。
「私もありがとう」
欠点のない幼馴染がいて幸せだ。巧妙に仕掛けられた罠、仮面で素顔を隠す好青年、甘美な囁きの裏、彼が抱えた闇の深さを私は知る由もなかった。
おはこんばんは、白师万游です(*'▽')
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