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【15才】大人の階段を一歩登る♡

 

 オベリン様に両方手を脇の下に入れられて、

 持ち上げられてしまっている。


 さすがに僕はもう、

 抱っこの“高い高い”をされる年ではないし。


 ダンスでぐるぐる女の人を回すように、

 僕はくるくる回されている。


 林檎のお酒を少し飲んだ後なので、

 目がぐるぐるで本当に気絶しちゃいそう。


 オベリン様、どうしちゃったんだろう。


 ***************


「なんだ。ばれちゃってたのか?」


「なんだ?ばれた?へーー?」


 オベリン様のずいぶんと軽い返しに、

 僕が騒ぎたてたのが、まるでいけない事みたいです。


 僕は、フェザリンドの父上から相続した“隣街の小さな家”を心の支えに、

 スターク侯爵家を出て行く覚悟でお話をしたのに。


「嫌だったのか?

 それは、良かった。

 レンリー坊やも成長してくれているわけだ。

 いやー、めでたい。」


「良かった?めでたい?

 どこら辺がですか?」


 自分でもこんな低い声は出した事がない。

 くらいの低い声が口から出た。


「だって、レンリー坊やは嫌だったんだろう?

 私が“抱いた人間”を近くで見聞きする事が?

 いやー、めでたい。」


 もう、口を開く気にもならない。


「そんな可愛い顔をして怒るな。

 我慢が効かなくなるだろうが。

 いやー、良かった良かった。」


「レンリー坊やが、

 このまま私を“男”としては、見てくれないのではないかと。

 内心は、どうしたものかと思っていたんだ。」


「?」


「嫌だったという事は、

 少しは私に“そういう意味”での嫉妬心を持ってくれた、

 ということだろう。

 ありがたい。ありがたい。

 私は、このまま生涯レンリーの“父上”のままでは、

 とんだ片思いをさせられるところだった。」


 もう何なんだよ。オベリン様は。

 僕のどこかが、“プツン”と音がして切れてしまったのがわかった。


 僕の口が止まらない。

 自分でも何を言っているのかが分からない。


「ちゃんと、自分の“立場”をわきまえて我慢しようと思ったのに僕。

 不愉快に思う自分をもて余して、どんなに苦しかったと思うんだよ。

 それも、めでたくて、良かったんだ。


 家中が敵のようで、いつも笑われているようで辛かったのに。

 それも、伯爵家で甘えて来たせいだからだと、

 歯を食い縛ってこの家にいたのに。


 僕がご飯の味がしなくなったのは、

 スープに虫が入っていたせいでも、

 ミートパイに釘が入っていたせいでもないよ。

 そんなの、僕は食べられるもん。


 でも、それを僕に食べさせる事で、

 喜んでいる人がいるのが悲しくって。

 どうしたら良いのか分からなくなったんだよ。

 だって、こっちでは産まれてからずっと、

 みんなに優しくしてもらっていたから。


 それなのに、

 オベリン様は『良かった、めでたい』って言うんだね。

 もういい。もう僕いい。

 オベリン様の家にはいられない。


 僕には、ちゃんと避難場所があるんだからね。

 僕の本当の父上は、

 僕が路頭に迷わないようにしてくれていたんだから。


 どうせ、どうせオベリン様なんか。

 僕の本当の、……

 面白い子供を拾って……

 ひっく。

 もういい。もう。

 どうせ、もう僕出て行く。

 自分で働いて生きて行くから。

 オベリン様、あんまり僕を舐めないでね。

 僕は、ただの伯爵家の末っ子じゃないんだからね。

 僕は、僕は、ゴミ箱からご飯を拾って食べても、

 ひとりで生きていけるんだから。」


 オベリン様がいきなり、僕の口をふさいだ。


 いつもの、『おやすみなさい』、『行ってらっしゃい』の時とは違う。


 息ができない。


 オベリン様の舌が、僕の口の中をまさぐる。

 歯の裏、舌と舌を絡み合わせて。


 目の前が金色になって、貧血を起こしたみたい。


 気がついたら、長椅子に寝かされていた。



「レンリー、悪かった。

 奴らに、そこまで悪ふざけをさせてしまったのは、

 私自身を侮った事と同じことだ。


 舐められたのは、私の方だな。

 レンリー、少し時間をおくれ。

 その後で、ゆっくりレンリーにはお詫びをさせてほしい。

 今すぐに許してくれとは、とても言えないな。」


 僕は、オベリン様にはもう嫌われてもかまわない。

 この際だから、言わせてもらおう。


「オベリン様、ひとつ良いですか?

 生意気は、承知です。」


「ああ、何でも言っておくれ。レンリー。」



「もともとは、僕がここに来る前からいた人達でしょう?

 その人達にとっては、僕が“後だしじゃん拳”なわけでしょう?

 その人達の素晴らしい“居場所”を作ったのは、オベリン様で。

 あの人達ではないんですよね。


 行き先のない弱い者を力のある人が、

 気まぐれに捨てるような事はしないで下さいね。

 そんな事をする、オベリン様は、」



「ん?私は?」



「僕には、この世界でも縁がなかった“保護者”なのだと思います。

 逃げ場のない力のない者は、とても悲しいものなんです。


 僕は、この世界では恵まれた子供でしたけれど、

 父上が“後押し”をしてくれていなければ、

 オベリン様に自分の気持ちを口にする事もできなかった。」


「うんうん。レンリー。

 途中に多少分からないところはあったが、(おおむ)ね分かった。

 レンリーに後味の悪い想いはさせない。」


 それから暫くの間、

 僕はフェザリンド伯爵家の領地で療養をさせて貰う事になった。


 僕をフェザリンド伯爵家の(あずか)りとするにあたって、

 オベリン様は3人の僕の兄達に、

 ギューギューと音がする程に搾られてしまったと後に話していらした。


 オベリン様は、本来とても仕事が早く優秀な上位貴族である事は、

 国の誰もが認めること。


 オベリン様は、それからあっという間に、

 スターク辺境侯爵家の使用人、従業員の入れ替えをなさったという。


 今までの下働きの者も、

 それぞれに新しい職場を侯爵家の推薦状を付けて送り出したそうだ。


 彼らが、スターク侯爵家に来る前の“職場”を意識させずに、

 新しい気持ちで社会に出て行けるように。


「後は、本人次第だろう。

 昔の水を忘れて生きるか、生きられぬか。」


 オベリン様は、そう仰っていた。


 フェザリンド伯爵領地に、ミルカ姉上の知り合いのお医者様が、

 僕の様子を見に来てくれた。


 お医者様によると、

 僕は重い《気鬱(きうつ)の病》にかかっていたんだって。

 気がつかなかった。


 スターク侯爵家の屋敷の中が落ち着くと、

 フェザリンド伯爵領地にオベリン様が僕を迎えに来てくれた。


 まだ、少しモヤモヤしていた僕は、

 帰りの馬車でオベリン様にちょっと意地悪を言っちゃった。


「オベリン様、

 フェザリンドの父上も母上の他に、

 女の人と色々仲良くしていたようです。

 でも、子供が出来ない限りは屋敷の中ではなく、

 他の街に女の人の家を用意していたようですよ。」


「なるほど。

 だがレンリー、なぜ今私にそれを言うのだ?」


「別に。ちょっと思い出しただけです。」


「レンリー。

 レンリーが、本当に私のものになってくれたのなら、

 私は決して余所見(よそみ)はしないと神に誓うぞ。」


「へー。どこの神様でしょうか?」


「お~い、レンリー。」


 父上もそうだけれど、

 オベリン様も絶対に“余所見(よそみ)”をしないわけはないと。


 僕は何となく分かるよ。


 *****************


 王都のスターク辺境侯爵屋敷に久しぶりで戻って来た。


 執事や上位職のメイドの他は、たくさんの使用人が入れ替わっていた。


 自分の部屋に戻るとそれなりにホッとした。


 寝室の構造が作り変えられていた。

 ずいぶんと面白い形。


 僕とオベリン様の寝室の間にもうひとつ新しい寝室が出来ていた。

 寝室が、3つ並んでいる事になる。


 真ん中の寝室には、

 オベリン様の寝室からと反対の扉は僕の寝室につながっている。


 何でだろう?と、思ったけれど。

 僕はまだ色々な事を考えるのが億劫なんだ。


 頭の上に何かが乗っかっているようで、

 いつも少し不安な気持ちがする。


 ちゃんとしないと、と気持ちが焦る。


 フェザリンド伯爵領地に来てくれたお医者様が

『頑張っちゃダメだよ。』

 と、仰っていたので、頑張らないように頑張ろう。


 そう思うそばから、ため息が出てしまう。


 楽しい事を考えよう。


 アルフレド兄上とミルカ姉上に女の子が産まれたんだ。

 僕の姪だよね。


 会えるのが楽しみ。

 ユーニスが、“赤ちゃん返り”をしちゃっているんだって。

 ユーニスをからかって遊んじゃおうっと。


 お祝いを何か考えなくっちゃ。

 ユーニスにも、お兄ちゃんになっておめでとうの贈り物をしてあげよう。


 父上にもらった、隣街の家も見に行ってみよう。


 学校の友達にも、ずっと会っていないなあ。


 僕の15才、今年はずいぶんと慌ただしくて落ち着かないなあ。



目に入れて下さった方が、どう思って下さったのだろう?ドキドキ

今日の暇潰しや気分転換になってたりしたら嬉しいなあと思っております。


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