【13才】運命の人との出会いは波乱万丈
************[オベリン·スターク侯爵領地☆温泉は楽しいな]
「侯爵様はすごいなあ。」
「びっくりしたか?坊主。凄い傷だろう?怖いか?」
「うーん、違うよ。傷はカッコいいけれど。」
「ほお、じゃあ何がすごい?」
******
今僕は、オベリン·スターク侯爵様の、
西の辺境領地に遊びに連れて来てもらっているんだ。
チー兄は、“遊びに”ではなくて、
僕が連れ去られたって騒いでいるんだって。
チー兄が兄弟代表で、国王陛下に直談判をしたんだって。
侯爵様が、お腹を抱えて笑っていらっしゃった。
学校の春のお休みが終わる頃には、
一緒に王都に送り返して下さるって侯爵様が仰っているので、
僕はチー兄に手紙を書いて送ったところだよ。
侯爵様が、フェザリンド伯爵、僕の父上には話をしてあるのに、
何で兄3人が大騒ぎをするんだ?と、首を捻っている。
春のこの季節には、侯爵様の領地はとても過ごしやすい。
食べ物も美味しいし、
色んな花が咲き乱れている領地では《花祭り》の準備で賑わっている。
冬の間は海が荒れるそうで、
貿易を控えていた外国の船が、
春になると一斉に侯爵様の領地の港に入って来ている。
僕は、こちらに産まれてからの12年でも、
その前の人生の10年でも“海”を見たことがなかった。
潮風の中で、色んな旗をたなびかせた大きな船が並んでいる様子に、
感想を言えないほどに驚いて口を開けてしまった。
侯爵様が、横で大きな声を上げて笑っていらっしゃった。
侯爵様のお屋敷には、海を見下ろす大きなお風呂があるんだ。
お湯がサラサラと流れている。
“天然温泉”なんだって。
僕は、温泉に入ることは、今回の人生も前の人生も初めての事。
侯爵様の領地には、素敵な“初めて”がいっぱいあるんだ。
この温泉は侯爵様のご自慢で、
国王陛下もお若い頃にはちょくちょく入りにいらしていたそう。
僕は今その温泉に、なぜか侯爵様に“抱っこ”をされて入っている。
外に作ってある侯爵様の‘ご自慢’の温泉の中で“抱っこ”。
「足が立たないほど深くはないから、大丈夫です。
僕は赤ちゃんじゃありません。」
僕が、侯爵様に言ったのに。
危ないからって、侯爵様が抱っこから離してはくれない。
僕を抱っこしながら、
お酒を飲んでお風呂に入っている侯爵様の方が、
のぼせたらよっぽど足元が危ないと思うんだけれど。
******
「侯爵様、傷を負われる怪我をした時には、
痛みだけではなくて、熱もいっぱい出たのでしょう?
傷が膿んで熱が出たら、頭が混乱するでしょう?
気持ちが悪くて吐き気がして、
じっと、丸まってやり過ごそうとしても終わらない時は、
これから先に何も良い事が起こらない気持ちがしませんでしたか?
それも、侯爵様の傷の数だけ、何回も。何回も。
だから、侯爵様って凄いなあって思ったんです。僕。
僕なら、きっと『もういいです神様』って思ってしまう。
僕は、弱虫だから。
僕が助けなければ死んでしまう者がいなければ、
きっと頑張れない。」
僕が前の人生で、酔っぱらいに蹴っ飛ばされて怪我をすると、
体が紫に腫れ上がって熱が出て辛かった。
その時は、ただじっと丸まっている事しかできなくて、
そんな気持ちになったんだ。
「あははは。レンリー坊やはどこでそんな事を考えるようになったんだ?
お兄ちゃんが、たくさんいるから“耳の知識”が豊富なのかな?
そのわりには、色々と幼いようだがなあ?」
「僕は、もう12才です。
そんなに幼くありません!
兄達は、末っ子に過保護なだけです。」
「怒るな。怒る顔もかわいいな。
レンリー坊やに呪文の言葉を教えてやろう。」
「呪文?」
「『必ず今は昔になる』苦痛も幸福もな。
今を幸せに過ごす事は、
神に命を貰った者の恩恵と楽しんだらいい。
苦痛は、諦めないでいたら過去のものにもなる。」
難しくて、全部はわからないけれど。
何となくはわかるかな?
でもやっぱりスターク侯爵様は、心が強い人なんだ。
僕も、少しでも近づけたらいいんだけれど。
「それにな、レンリー坊、
『人は、自分の為ではなく守るものの為に強くなれる!』
それをその年で理解しているだけでも偉いぞ。」
スターク侯爵様が、
抱っこしたまま頭も撫で撫でしてくれている。
侯爵様は、領地の民、国や国王陛下の為に、
たくさん強くなったんだねきっと。
「私は、こんなところにまで傷があるのだが、
ちゃんと《機能》には、問題はないのだぞ。
私が、この傷のせいで嫁を娶らんという噂は、真っ赤な嘘だぞ。
大人の《機能》の意味は、わかるかな?レンリー坊。」
「ええと、ええと。大人?」
スターク侯爵様はお腹からおへその下まで切り傷がある。
そのせいで、《機能》っておっしゃっているのかな?
トイレに行けなくなったら困るもんね。
でも、ちょっとだけ思いあたるんだけど。
この前、2番目のイアニス兄様が、
僕を“王宮見学”に誘ってくれたんだ。
アルフレド兄上達の訓練中の凛々しい姿を見てうっとりしたあとに、
王宮の廊下を歩いていたら、
柱の影にチー兄と知らない大人の人がいたんだ。
声をかけようとチー兄に近付くと、
話をしているにしては何だか変で。
距離が近すぎるような?
大人の男の人が、チー兄の口を塞いでる?口で?
手が、チー兄の上着の中をモソモソと探し物をしている?
イアニス兄様が、僕の目を手で目隠しをした。
それから、兄様が叫んだ。
「エド!子供に見せる事か。」
チー兄を見てドキドキが止まらないのなんて、
僕は産まれてから初めてだよ。
僕は次の日の朝に、
自分が布団でお漏らしをしているのを発見。
一緒に寝ていたユーニスに知られたら恥ずかしいし。
どうしようと、困っていたらロイズ婆やが始末をしてくれた。
「末っ子レンリー坊っちゃんも、少しずつ大人におなりですね。」
??
後からアルフレド兄上が教えて下さった。
「男の子は、お父さんになる準備に、
時々そういうことがあるのは普通なんだよ。
レンリーが成長している証拠だから。
恥ずかしい事ではないから心配はいらないんだよ。」
アルフレド兄上は、いつも僕の心配を優しく相談にのってくれる。
スターク侯爵様が《大人》《機能》って言った時に、
それを思いだしていた。
恥ずかしいからそれは侯爵様には言えないけれど。
スターク侯爵様は、
お風呂で僕を泡だらけにして洗って下さるってきかない。
僕を何歳だと思っているんだろう?
もう自分で洗えるし、普段はユーニスまで洗ってあげているのに。
スターク侯爵様は、すぐに『趣味だ』と仰るけれど。
変なの。
スターク侯爵様は、子供と暮らした事がなくて、
4才も12才も区別がつかないんだろうか?
************
スターク侯爵様に、港に連れて行ってもらった時に、
僕は大発見をして大興奮。
冬の名残で港に白身魚がたくさん上がったところで。
その魚のお腹に卵の袋が入っているのを見つけて、
漁師さんがポンポン魚を捨てちゃっているんだよ。
うわ、もったいないなあ。
食べられるなら食べたらいいのに。
前の人生で、いつもお腹がペコペコだったから、
今でも腐ってない食べ物を捨てるのを見ると落ち着かない。
「このお魚は毒があるの?」
「産卵季節のこの魚は、油が抜けて旨くはないし。
わざわざ、魚の卵なんぞ食べなくても、
鶏の卵の方が旨いからですがね。
坊やは、スターク様の親戚ですか?」
漁師さんが、話してくれたのを聞いていたスターク侯爵様が。
「レンリー坊、どうした?
興味のあるものでも見つけたか?」
「侯爵様、この白身魚の身を磨り潰して何かの繋ぎをあわせて、
蒸したり揚げ物にすると、
美味しいお酒のお摘まみになるかもしれないと思って。
卵の方は、塩漬けにして、新鮮なうちは生でも、
焼いても美味しいかもしれません。
塩漬けに、赤い辛子や、柑橘の皮を少し加えると、
もっと侯爵様のお酒の摘まみになりそうです。」
面白がった侯爵様が、
僕の拙い説明の『蒲鉾』『さつま揚げ』『たらこ』『明太子』を料理人に試しに作らせてみたら。
もうもう、スターク侯爵様が大喜びして下さった。
こっちには、なかったんだね。
僕が知っている食べ物の知識が、
ほとんど飲み屋のゴミ箱経由だから残念だけれど。
もっと、色んな食べ物を知っていたなら良かったのに。
船の中から袋詰めの穀物が運び出される途中で、
袋から穀物がこぼれて落ちた。
米!これ、籾殻つきお米じゃないのかな?
僕が前の人生を終えたアパートには、共同炊事場があった。
誰かが煮炊きをしているところを僕と弟のゆうとが覗いたりすると、
『何もやらないぞ!じろじろ見るな。』
って怒鳴られていたけれど。
たまに、同じアパートに住んでいた歯のないおばあさんが、
安い古米の玄米を買って来ることがあった。
空っぽになった、お酒の一升瓶にその“玄米”を入れて、
少し長い棒を瓶の中につき入れて、
どんどんとしていると籾殻が外れて食べられるようになってくる。
でも、すごく根気がいる。
おばあさんに言われて、それを手伝うと、
炊き上がったご飯を僕とゆうとに少し分けてくれたんだ。
侯爵様のところに入って来た玄米は、
精米のあとは潰して米粉にして使うそうだ。
この国の主食にしている、パンや麺よりもだいぶ価格が低い。
鳥や豚の飼育用の雑穀に混ぜたり、
たまに貧しい人が団子に丸めて煮て食べるんだって。
“貧しい人”が美味しく食べられたらずいぶんといいだろうに。
侯爵様に頼んで、僕はお米を“炊かせて”もらってみた。
歯のないおばあさんが、鍋でお米を炊くのは見て覚えていたから。
炊き上がった“ご飯”は、
前の人生の炊きたてご飯よりもずっと美味しかった。
このお米は、田んぼで作られてはいなくて、
畑で作られるお米であまり美味しくないと言うのだけれど。
僕には、充分に美味しいし懐かしい味だった。
オベリン·スターク侯爵様が、
僕のたらこおにぎりと明太子おにぎりを横から摘まみながら、
蒲鉾でお酒を飲みながらおっしゃった。
「レンリーは、酒のお摘まみが良くわかって本当にいい子だな。
うちの子供になれよ。
うーんと可愛がってやるぞ。
兄上達には、出来ないくらいに可愛がってやるぞ。
どうだ?その気にならないか?」
「侯爵様、
僕はアルフレド兄上のように、
剣で侯爵様の領地を守るほど強くなれそうもありません。
2番目のイアニス兄様のように、
頭が良くて仕事が出来るようになりそうもないし。
チー兄様のように、……宮殿で……何かの活躍も出来ないし。
侯爵様のお役に何にも立たないのに、
美味しいご飯を食べさせてもらっても。
申し訳なくて、ご飯が喉を通らないと思います。」
「フェザリンド伯爵家で、
真綿に包まれるように育った末っ子は、
時々、良くわからない事を言うな。
それがまた、面白いが。」
面白いかなあ?僕。
「まあ、良い。
じゃあ、レンリー友達からだな?
私オベリン·スタークとお前はまずは“友達”になろう。
両思いになる証は、もう少しレンリーが大人になってからだな。
いいか、レンリー、友達だからスターク侯爵様はやめておけ。
オベリンと名前を呼ぶんだぞ。友達だからな。」
「オベリン様?…ですか?」
「まあ、今はそれでもいいな。
もう少し先には、……まあいいか今は。」
“両思い”って何だろう?
まあいいか。
オベリン様は、とてもカッコ良くて優しい方だし。
「レンリー、友達の私には決して嘘はつくなよ。
話をしたくないことは、そう言えば良い。
でも、嘘だけはつくな。
いいな?わかったな。約束だぞ。」
「わかりました。オベリン様。」
オベリン様と、“指切りげんまん”をした。
オベリン様が、これは何だ?と不思議なお顔で聞いていたので。
約束の記しだと教えてあげたら、また大笑いをしていた。
オベリン様は、笑い上戸なんだね。
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********************[救出作戦]
外から火のついた矢がビュンビュン入って来た。
小屋のあちらこちらから火の手が上がりだした。
見張りの男が煙に耐えきれなくなって、外に飛び出して行く。
外に出て直ぐに、ギャーっと悲鳴が聞こえている。
何が起こったんだろう?
誰かが僕達を助けに来てくれたのでは、これはないね。
“ゆうと”だったユーニスと僕は、また一緒に死ぬんだろうか。
ユーニスは目を覚まさない。
もうダメだと思った時に、
僕の胴体と腕をグルグル巻きにされていた縄が緩んだ。
僕は必死で縄を柱にゴリゴリ擦り付けた。
手の肉ごととれてもかまわないと、必死で擦り付けた。
血だらけの縄が体の下に落ちた。
入り口は炎が上がっていてもう抜けられない。
小屋の中心に屋根裏部屋に上がる小さな階段があった。
ユーニスのほっぺたを叩いて、
何とか歩かせて階段を登らせようとしたけれど。
階段の一段一段がユーニスには歩幅届かない。
登るのは無理そうだ。
千切れた縄で、僕はユーニスをおんぶした。
屋根裏部屋に上がったからって、逃げる方法があった訳ではないけれど。
とにかく、ここにはいられない。
何とか屋根裏部屋に上がったけれども、
煙がすごくて目けられないし、喉が苦しい。
落ち着こう。落ち着こう。ユーニスを生かしてやりたい。
さわっと風がよぎって、煙が揺れた先に梯子があった。
あの梯子は、どこに向かっているんだろう?
ユーニスをおんぶしたまま、梯子を登った。
梯子のてっぺんの天井は外側に開く小さな扉がついている。
両手で押し上げた。
固くて重い。
『女神様!』心で叫んだのか、本当に叫んだのかわからない。
目がとろんとしているユーニスに僕は叫んでいた。
「しっかりして。“ゆうと”。
にいにの背中を乗り越えて、屋根に上がるんだ。
上がったらにいにを待っているんだよ。」
ユーニスが僕の背中から、
リスのように肩に足をかけて扉を頭で押すようにして外に出た。
僕を出そうと、小さな手で扉を押さえている。
僕の体がギリギリ通れる扉を抜けようとすると、
着ている服が引っ掛かる。
僕は服を脱ぎ捨てながら屋根に上がった。
下着もびりびりで、裸に布がまとわりついているだけになった。
少し離れたところに、アルフレド兄上と同じ軍服を着ている人達が見えた。
喉が千切れそうだったけれど、最後の力を振り絞って叫んだ。
「あにうえー。あにうえーー。」
誰かがこちらに走って来る。
アルフレド兄上と、何人かが一緒に。
うんと近くまでは、炎で兄上は近付けないみたいだ。
どうしよう。
ユーニスを飛び降ろさせても、兄上は受けとめられない。
そうだ!
ユーニスを投げてしまおう。
僕は、ユーニスをもう一度縛り直した。
ユーニスを縛った縄を、
僕は帯を掴むように握った。
ユーニスを物のように引きずって、
体を回転させるようにグルっと回りながら放り投げようとした。
兄上は、僕が何をするのかわかってくれたみたいだ。
火の手が上がる小屋の近くまで飛び込んで来てくれた。
僕は、大きな猫を投げるつもりで両手でユーニスの縄を握って、
後ろ向きから前に体を回して投げた。
『女神様。お願いします。』
ユーニスを、兄上と数人で受け取るのが見えた。
ホッとして体の力が全部抜けて、
へなへなと屋根に座りこんでしまった。
『女神様、ありがとうございました。
今度は“ゆうと”を助ける事ができました。
感謝いたします。』
頭がクラクラめまいがする。
フーッと眠くなった。
「諦めるな!レンリー。」
声が聞こえた。
あの声は?
スターク辺境侯爵様。
オベリン様だ。
「こっちを見ろ!レンリー。」
必死で、眠気を我慢して声のする方を見ると、
炎が上がって崩れはじめている屋根の方向に池が広がっている。
その池の前に、オベリン様が両手を広げて叫んでいる。
オベリン様は、びしょ濡れだ。
「飛ぶんだ。レンリー。
炎の中を抜けて飛んで来い。
必ず受け止めてやる!」
考えるよりも先に、立ち上がった。
力がどこからか体に沸いて来た。
僕も大きな猫になったつもりで、屋根の真ん中を走った。
走っている先は炎の中。
炎を見ないで、炎の先のオベリン様だけを見て走り抜けた。
走っている足元から、バキバキと屋根の板が踏み抜けて落ちて行く。
ギリギリに行ける端まで来て、おもいっきり踏みきった。
髪の毛が燃える臭いがしていた。
僕を受け止めたオベリン様は、
そのまま後ろの池にボチャーンと一緒に落ちた。
僕はそのまま気が遠くなった。
気がついたら、毛布に包まれてたくさんの人に囲まれていた。
チー兄が心配そうに覗き込んでいる。
遠目で兄上が見える。兄上は、誰かに膝をついている。
何だか嫌な予感がする。
「チー兄、お願い。
僕を兄上のところへ連れて行って。
お願い、お願いだから。」
兄上は、上官に親衛隊の紋章と剣を返そうとしていた。
僕は、這うようにして兄上の手にすがりついた。
「兄上は悪くない。
悪いのは国王陛下に悪い事をしようと。
僕達をさらって、言うことを聞かせようとした人達だよ。
お願い、女神様。
兄上は悪くない。
兄上と違う銀色のボタンの軍服を着ていた人が……。」
そこで、僕は完全に気を失っちゃった。
僕が王都の父上の屋敷で目を覚ました時には、全てが終わった後だった。
今回の僕達の誘拐は、
国王陛下の親衛隊に隙を作ろうと、
兄上を脅して協力をさせるつもりだったんだって。
そんな事までして、国王陛下を亡きものにしようとしていたのは、
第一王子のオスカー様だったんだ。
《第一王子の謀叛》
王宮も国中も大騒ぎで。
オスカー様は廃嫡の上、
幽閉をされて国王陛下のご沙汰を待っているところだった。
我が家も、少なからず大騒ぎに巻き込まれている。
チー兄がお仕えしている第二王子のリベオン様が立太子をする事になって、
チー兄の“人生設計”が変わってしまったんだって。
次の王様に、リベオン王子様がなることになったんだ。
のんびり人生を送るつもりだったのにって、チー兄がブーブー言っている。
イアニス兄様は、宰相様と一緒に後始末に終われて、
何日も眠っていないそうだ。
問題は、アルフレド兄上。
アルフレド兄上は、今回の被害者で、
何も悪くないのは分かってもらえているんだよ。
国王陛下にも親衛隊のみんなにも。
でも、兄上自身が頭を抱えてしまっていた。
国王陛下に対してではなくて、僕やユーニスに対してね。
僕とユーニスを誘拐をした犯人からの脅しの手紙が届いた時に、
アルフレド兄上は直ぐ国王陛下と親衛隊長に知らせたんだって。
それが、僕やユーニスを見捨てる事になるのは分かっていたのに。
僕、兄上に笑っちゃったんだ。
なーんだ!そんな事?
「アルフレド兄上、そんなの当たり前じゃない!」
「あたいまえじゃない!」
ユーニスは、このごろ僕の口真似をするのが大好き。
「どうしてそんな事を気にするのか僕は分かんないよ?」
「ぼくもわかんない。」
「それよりも、
アルフレド兄上がお仕事をやめてしまったらどうしようと思った。
ユーニスがまたご飯を食べられなくなったら大変じゃない。
兄上にはちゃんと働いてもらわないと。」
「ごはんは、たべられないとたいへんだね。」
アルフレド兄上は、ため息をついていた。
************
暫くしてから、オベリン様が僕のお見舞いにいらして下さった。
「火傷が少し残ったな。
顔は綺麗なままで良かった。
偉かったぞ。レンリー。」
僕は、改めてオベリン様にお礼を言った。
「あの時、オベリン様の声が聞こえなかったら、
僕はもう終わりにするつもりだったんです。
命をありがとうございました。」
オベリン様は、ニコニコして。
「だったら、レンリー。
やっぱりうちの子供にならないか?
レンリーは、どんな大人になりたいと思っている?」
「僕は、守って貰うだけじゃなくて、
オベリン様のように人を守れる大人になりたいです。
でも、今の僕は世界の事をなにも知らなくて恥ずかしいです。
人を守る頭も力もなくて。」
「よしよし。
ではこれから私は、
レンリーにたくさんの“初めて”を教えてやろう。
たくさんの知識を授けて、
たくさんの“初めて”の経験をさせてやろう。
レンリー、うちの子供になるな?」
僕は、勢いに押されて。
「はい。分かりました。」
って言ってしまった。
それから僕は来年14才になったら、
正式にオベリン様の家の養子に入る事になった。
チー兄が、
「“初めて”の経験だ?
おい、それってどういう事だよ。
レンリーお前、意味が分かっているのか?」
「チー兄は、リベオン王子様の一番の従者になるんでしょう?
僕はオベリン様の一番になりたいから。
ねえ、チー兄。
リベオン様とオベリン様ってお名前が似ていて可笑しいね。」
と、僕が言ったら、チー兄が。
「お前は、本当にバカか?
辺境侯爵様も、
こんな子供を騙してどうするつもりだよ?
あー全く心配だよ。」
目に入れて下さった方が、どう思って下さったのだろう?ドキドキ
今日の暇潰しや気分転換になってたりしたら嬉しいなあと思っております。
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