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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

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96 吸血鬼との死闘 ☆

 紙を束ねたメモ帳は、俺に文明を思い出させた。

 木から紙を作り、紙に書く文字を生み出す文明が存在したのだ。

 家があるのだから当たり前なのかもしれないが、ここは異世界だ。


 どんな進歩の仕方をしているかも、全くわからない。

 紙が劣化し、ボロボロと崩れた。

 読める部分は多くない。

 だが、これを書いたのは、この部屋にあった白骨死体だろうと推測できた。


 白骨死体だった者は、人間だった。

 吸血鬼を恐れていた。

 何もかもが劣化し、役に立たないこの地下室で、吸血鬼に対抗する研究を続けていたのだ。

 もともと、化学的な実験ができる施設だったのだろう。

 全てがガラクタに変わってしまった。


「ソウジ、何かわかりましたか?」


 俺の手元を照らしていたウーが覗き込む。

 俺の手にあるぼろぼろの手帳を一瞥し、元の姿勢に戻った。

 読めなかったのか、読む気にならなかったのかのどちらかだ。


「この世界は、吸血鬼と呼ばれる魔物に支配されている」


 手帳からの知識ではない。俺は、この世界に来てから見聞きしたことから判断した結果を告げた。

 ウーに言ったのは、俺の言うことをまともに理解してくれるのが、ウーだけだという期待もあった。


「吸血鬼というのは知りませんね。どんな魔物ですか?」

「昼間が苦手で、夜しか活動しない。ずっと渇きに苦しんでいて、渇きを癒せるのは人間の生き血だけだ」

「……不憫ですね」


「吸血鬼に血を吸われた人間も、また吸血鬼になる」

「友達がたくさんできるんですか?」

「できるのは配下だな。友達にはならないだろう。もっとも……これは俺がもともといた世界の吸血鬼の特徴だ。この世界の吸血鬼については、あまり詳しくは知らない」


「それで、ソウジはどうするんですか?」

「俺の求めるものがこの世界にない以上、オーブを壊してドラゴンの世界に戻る」

「それがいいですよ」


 もっともドラゴン族に忠実なウーは、嬉しそうに頷いた。


「だけど、もう時間が遅い。そろそろ夜になる筈だ。ウー、誰か来たら起こしてくれ」

「誰か来る予定なんですか?」


 ウーが、心配そうに広い地下室を見回した。

 背後に扉がある。

 閉ざして開かないようにしておいた。その先になにがあるのかは、ウーは知らない。


「来ないこと祈っていてくれ」

「……くるとどうなります?」

「言っただろう。この世界の人間は滅んだ。吸血鬼は、人間の生き血を求めている。俺は、この世界で生存している唯一の人間かもしれないんだ」


「……つまり……」

「俺がここにいることを嗅ぎつけられたら、お客さんが大量に来る。全て、俺の生き血をすすることを目的とした奴らだ」


 俺が言うのと、ほぼ同時だった。

 閉ざされた扉に、なにか重い物がぶつかるような物音が響いた。


「だ、だれか来たんでしょうか?」

「おそらくな」


 俺は言いながら、ウーを手招きした。


「ソウジ、ありがとうございます」


 呼ばれたウーは、俺が差し出した魔法の石版に触れ、吸い込まれた。

 俺は、魔法の石板で魔法画面を呼び出しながら、扉を見つめた。

 再び重い音があがる。立てかけておいた扉が曲がる。

 どうやら、確実に俺を狙っている。


 再び音が響き、扉が吹き飛んだ。

 同時に、俺は同化魔法をタップした。

 壁に寄りかかって座ったまま、俺は部屋の壁に同化した。


 扉を破壊したのは、青白い顔をした長身痩躯の男だった。

 部屋に入り、鼻孔をひくつかせ、血走らせた目で部屋中を睨んだ。

 魔法を使用して壁と同化している俺には気づかない。


「どうだ? いたか?」


 痩せた男の背後から、熊に服を着せたようなたくましい肉体をした男が現れた。


「いや。なにもいない」

「ああ。この辺りの人間は狩り尽くしたはずだ。生き血の匂いがしたと言ったが……気のせいじゃないか?」


 俺は、たくましい体を持った男の言葉を聞き逃さなかった。

 吸血鬼の食事は人間の生き血で、人間がいないこの世界では、栄養をとれないはずだ。

 男がなぜ膨らんだ体をしているのかということも謎だった。

 だがそれ以上に、男は『この辺りの人間は』と言った。


 地上で寝ていたニキヤという女吸血鬼は、この世界にはもはや生きた人間はいないかのように話していた。

 俺も信じかけていたが、ニキヤが知らなかっただけで、本当は離れた地域には人間がいるのかもしれない。

 吸血鬼は、俺の知識の通りの存在なら不老だ。


 いくらでも時間が使えるが、有り余った時間で科学的な研究をするとは思えない。

 だが、人間が残っていれば、人間が追い詰められた状況であれば、科学であれ魔法であれ、吸血鬼に対抗する手段を模索しているはずだ。

 その過程で、時間を遡って吸血鬼を滅ぼそうと考える者がいても不思議ではない。


 長身の痩せた男が、不思議そうに俺がいた目の前を通り過ぎる。

 俺は、同化魔法を使用している間、周囲に同化している。

 壁の中に沈み込んでいるわけではない。

 ぶつかられても、相手には気づかれない。だが、自分から動けば、魔法の効果が弱まるのではないかと想像して、俺は動けなかった。


 長身の男吸血鬼が目の前に来た時、太った吸血鬼は地上に戻ろうとしていた。

 俺は、同化魔法を解除した。

 目の前の痩身の吸血鬼が、首が振り切れるような勢いで、血走った目を俺に向けた。

 男の背後で、帰りかけた太った吸血鬼が、ケダモノのような顔を俺に向けていた。


 俺は、あらかじめ考えていた行動をとった。

 アイテム欄からダイナマイトを取り出した。

 1つとり、目の前の吸血鬼に押し付ける。

 突然起こったことでも、まるでそれが本能であるかのように、吸血鬼は口を開けて俺に噛み付こうとした。


 生命魔法を使用している時間もない。

 俺は、ごつごつした床の上を滑りながら移動した。

 体が痛い。何かで皮膚が切れた。

 多分、出血している。


 俺は転がりながら、少しでも吸血鬼から離れようとした。

 痩身の男が、俺が押し付けたものがなんであるか、理解もせずに握っていた。

 この世界にダイナマイトがないか、不死の体であるために気にしないのか、突然のことで意識がまわらなかったのかもしれない。


 なんでもいい。

 ただ、吸血鬼がダイナマイトを握ったままであることが重要だった。

 魔法の石版の画面をスライドさせ、魔法画面を表示する。

 痩身の吸血鬼が床を蹴った。俺に迫ろうとする。


 痩身の吸血鬼に、丸い巨大な塊がぶつかった。

 地上に出ようとしていた、たくましい吸血鬼だ。

 わかっていた。

 俺の味方ではない。獲物を横取りしようとする、意地汚いケダモノ同士の争いだ。


 俺は、もつれ合った二体の吸血鬼の横に、ダイナマイトが転がり落ちるのを見た。

 魔法のアイコンをタップする。

 転がったダイナマイトに向かい、爆発魔法を使用した。

 魔法の爆発に、ダイナマイトが誘爆することは経験済みだ。


 轟音とともに、肉片が散らばる。

 ただ、肉はあっても血はなかった。

 血は乾き、肉片の内側にこびりついていた。

 俺は、唯一の出入り口である地上への階段がある扉に向かった。

 外された扉を持ち上げ、生命魔法をタップして、力任せに固定した。

 最近仲間になったハンヘドを呼び出す。


「この扉を抑えていてくれ」

「わかった」


 部屋の天井近くまで体高のある恐竜種は、俺の半身ほどもある頭部をぶんぶんと振った。

 俺は、吹き飛んだ吸血鬼たちのいる場所に戻った。

 1つの体は微塵も原型をとどめていなかったが、痩身の男は体の半分を失いながら、俺に向かって牙を剥いた。


 俺は黙って、死霊魔法をタップした。


挿絵(By みてみん)

※本文と少しイメージが違いますが、二人の吸血鬼です。

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