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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

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95 地下室に残されたもの

 人間が住んでいれば厨房だっただろう場所は、水瓶がいくつも並んでいた。

 現在は厨房としては使われない。

 何しろ、この世界の住人は料理をするという概念を失ってしまった。

 俺は、水瓶が並んだ部屋の隅の床の上に、引き開ける扉があることに気づいた。


「ソウジ、ひどい臭いだ。あたしには我慢ならない」


 シルフは、腕を自分の顔に押し当てていた。鼻を塞いでいるのだ。

 俺は、生命魔法を使用してシルフと同程度まで五感を引き上げることはできる。

 だが、四六時中同じ感覚でいるシルフには、耐え難いこともあるのだろう。


「わかった。入っているか?」

「うん」


 俺が魔法の石版を差し出すと、シルフは素直に画面に手を伸ばし、吸い込まれるように消えた。

 俺は、また一人になった。

 シルフに言われるまで気づかなかったが、たしかに臭いは酷い。

 俺は床の上にある扉に向かいながら、臭いの根元が水瓶にあることに気づいた。


 人間が入れるほどの大きさの甕だ。

 重そうな蓋もついている。

 中に何かいるのだろうか。

 水が入っているのだろう。だが、それだけだろうか。


 俺は、生命魔法をタップして腕と脚に意識を向けた。

 水瓶によじ登り、蓋をずらした。

 水瓶の半ばまで、液体で満ちている。

 赤黒い液体の中に、人間の骸骨と思われる白い頭部の骨がいくつも浮かんでいた。


 動くものはない。

 俺は、静かに蓋を閉めた。

 この世界の吸血鬼の定義はわからない。

 だが、厨房に置かれた水瓶は、置かれた場所にふさわしい用途に使われていたのだろう。

 無数の水瓶の中に、人間の血と死体を詰め込み、保存食にしたのだろう。


 だが、いかに蓋を載せても、何百年も乾きも腐りもせずに保たれるはずがない。

 赤黒い液体は、腐った水だったのかもしれない。

 俺は、死霊魔法に手を伸ばし、辞めた。


 すでに完全に死んでいる人間に、事実を尋ねることに意味があるとは思えなかったのだ。

 俺は、水瓶の中身を覗いたことを後悔しながら、入り口を隠すように置かれた鉄板状の扉を引きあけた。


 ※


 床の引き戸を開けると、地下に向かう細く長い階段が現れた。

 俺が当初期待したような、研究所が地下にあるという想定はもうしていない。

 ならば、なぜ俺は地下室を目指すのか。

 二階で寝ていた吸血鬼ニキヤが言った。


 昼間は渇きが酷く、起きていると辛いから寝ているが、夜になると活動を開始する。

 ただし、活動しなくても死ぬわけではない。

 活動する必要がある奴だけが起きだすのだ。

 この廃墟に俺が、つまり生きた人間がいることは、この集落で寝ている全ての吸血鬼にとって活動を再開する原因となりうるだろう。


 俺はそう考えたのだ。

 この集落にどれだけの吸血鬼がいるのかわからないが、何もせずに夜を迎えて襲われることになる前に、隠れる場所を確保しておきたいと考えたのだ。

 できれば、夜の間は吸血鬼には見つからずにやり過ごし、朝を迎えるのが望ましい。


 そのために、俺はニキヤに言われた通り、隠れる場所を求めて、地下室に踏み込んだのだ。

 ダイナマイト点火用のライターで拾った木の破片に火種を灯し、生命魔法で目の機能を闇を見透かせるように拡大すれば、地下室の暗さは気にならなかった。

 上に大量の水瓶が載っているためか、階段は長く、ただの倉庫とは思えない程度には、地下室は深い場所に作られていた。


 階段を降り切った時には、3階建のビルほどの高さを降りたのではないかと感じていた。

 階段の最深部に扉があり、俺は地上の家とは全く異なる、金属を使用した電子ロック式の扉に胸が踊った。

 俺がすでに諦めていた最初の予測に、かなり近かったのではないか期待したのだ。

 電子ロック式の鍵に、核シェルターのような金属の巨大なハンドルがついている。


 俺は、電子ロックに挑んだ。

 結果として、電気が流れていないことを理解した。

 巨大なハンドルに触れる。

 錆びついているのか、回らない。

 俺は魔法の石版を取り出し、生命魔法を駆使して筋力を引き上げた。


 しかし、動かない。

 俺が額に浮き出た汗を拭うため手を離すと、ゆっくりと扉が開いた。

 ハンドルは完全に錆びついて扉と同化しており、電子ロックには電気が通らないため役に立たず、扉の留め金が錆びて崩れ、扉が役割を放棄したのだ。


 つまり、扉で区切られていた空間が、扉と同じだけの広さの入口を晒して、もはや戻すことも不可能となった。

 開け放たれた扉の向こうには、深い闇が待ち受けていた。

 俺は安全を確認するため、闇に向かって爆発魔法を放った。

 実際のダイナマイトより爆発が小さく、原理はわからないが火が舞うため、一瞬でも闇を晴らせる。


 結果として、部屋のかしこに可燃性の布があったらしく、俺に部屋の様子を教えてくれた。

 俺は、赤々と燃えた塊が、脱ぎ捨てた服の成れの果てだと見て取ると、火を消して丸め、落ちていた鉄パイプに巻きつけて簡易的な松明を作成した。


 ウーを呼び出すことも考えたが、まだ安全は確認できない。あまりにも危険が大きい。

 地下の空間は広い部屋だったが、あったのは瓦礫の山だった。

 だが、木屑ではない。瓦礫を形成しているのは、金属の塊やガラスの破片だった。

 俺は、この地下室はただの民家の物置ではなく、なんらかの実験が行われていたのだと結論づけた。


 動くものはない。

 動かないからといって、安心はできない。地上で会った吸血鬼も、分類すれば生物ではない。

 松明を左右に動かしながら部屋の奥に進む。

 俺は突き当たりで、椅子の上に重ねられた白骨を見つけた。


 もう少し、あと何年か早ければ、椅子に座っている白骨死体をみつけられたかもしれない。

 だが、すでに骨自体が崩れており、人の体を成していない。

 死霊魔法を使用すれば、生前のことがわかるだろうか。


 俺は魔法の石板に手を伸ばし、止まった。

 白骨が置かれていた椅子の横に、分厚いメモ帳が落ちているのが目に止まった。

 このような地下室に長く閉じこもっていたなら、吸血鬼となることを恐れたのだろうと推測できる。

 何かを研究していたのかもしれない。


 結果は実らなかったのだ。

 だが、この世界で何が起きたのか、手がかりはつかめるかもしれない。

 俺はメモ帳を手に、爆発魔法を連発して、動けるが動かない死者がいないことを確認の上、外れて転がった扉を内側から閉めた。


 夜になり、俺の匂いに惹かれて吸血鬼が大量に集まってはたまらない。

 俺は安全を確保してから、魔法の石版をタップした。

 飛び出したピンクのオークが、杖を握りしめて見回した。


「ウー、明かりを」

「あっ……まだ、オーブを壊していないんですね。はいはい。これでいいですか?」


 ウーが魔法の杖に光を灯す。

 俺は、風化して崩れそうなメモ帳を開いた。


 この世界の文字で、全く見たことがない文字が並んでいたが、俺には意味が理解できた。

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