93 3つ目のダンジョン探索 ☆
村の中央の、大きな家に入る。
荒れているとは見えなかった。
ただ、家具がない。
タンスもソファーも、テーブルも椅子もない。
「ただの建物だけで、実際には誰も住んでいないようだな。やっぱり、地下に近代施設が隠されているんじゃないかな」
俺は、かがんで床板を叩いた。
「この下は、ただの地面だぞ」
シルフが言うのなら間違いはないだろう。音の響き方で判断しているのだ。
「建物のどこかに地下に伸びるエレベーターがあって、ずっと地下深くに伸びているのかもしれない。俺が二つ前に入ったダンジョンは、地下の研究施設で大量のゾンビに襲われたんだ」
「そんなことがあったのか?」
シルフは知らないのだろうか。俺は考え、シルフやアリスをほとんど石板の中に入れていたことを思い出した。
魔法の石板でアイコン状態になっている間は、本人達にとっては時間が止まっているのだ。
俺の経験したことを、共有できるわけではないのだ。
「ああ。少し、この家を探ってみる」
「わかった」
「一度戻っているか?」
「いや。ソウジだけじゃ心配だ」
「そうか」
俺は、アリスとウーのアイコンをタップした。最近仲間にした恐竜のハンヘドは出さなかった。体が大き過ぎるのだ。
「……腐った木に囲まれていますね」
アリスが鼻腔をひくつかせ、肩を落とした。俺にはわからない。シルフもなにも言わなかったが、この建物の中は不味そうな匂いで満ちているのだろう。
「ただの家ですね。休暇ですか?」
いつもように杖を持って現れたウーは、俺よりもオーブの破壊に積極的だ。
「いや。休暇のつもりはない。ダンジョンに入ったばかりだ。オーブを目指す前に、この世界がどんな世界なのか、確認しておきたい。もし、この世界に時間を遡る装置があれば、オーブを急いで壊す必要はなくなる」
「……なるほど。わかったような、わからないような……」
ウーが首を傾げる。
シルフは、アリスを重そうに抱き上げて慰めていた。
俺が抱えるには小さなウサギだが、シルフが抱えると両腕いっぱいに白い花束を持っているかのようだ。
「集落を見つけたが、誰もいないようなんだ。ドラゴンナイトの言葉によれば、きっと科学が発達したダンジョンだ。俺は、その科学の成果を知りたいんだ」
「そう言ってくださいよ。わかりました。ドラゴンナイト様が言うことに、間違いがあるはずがないです。ところで……『科学』ってなんですか?」
ウーは、肌色の頭部を傾げた。
「科学が何かは、そのうちわかるさ。俺にも説明できない。この建物に、誰かいないか調べるのが先だ」
「じゃあ、手分けをします?」
お腹でも空かせているのか、アリスがシルフの腕から脱出して足をぱたぱたと動かしながら尋ねた。
アリスは餌を探しに行きたいのではないかと、俺は推測した。
「いや。この世界にきたばかりで、別れるのは危険だ。一緒に行動しよう。アリスとウーを呼び出したのは、俺やシルフでは気づけないことに二人なら気づけると期待したからだ」
「まあ、当然ですね」
アリスが後ろ足で立ち、胸をそらす。
「この部屋には、誰もいませんね」
ウーは、魔法の杖についた水晶を目に押し付けながら言った。
「水晶に目を押し付けると、何が見えるんだ?」
「目を押し付けたからではなく、魔法を使ったからですが……生物から出ているもやもやした何かが見えます」
ウーは、水晶を覗きながら言った。
「『もやもやしたもの』って……魂とか、オーラとか言わないのか?」
「魂がもやもや出ていたら大変じゃないですか。オーラっなんです?」
「いや、いい。俺が知っている世界で、そんなことを言っていた奴がいたが、本当はなかったのかもしれない」
詳しく解説できるだけの知識がなかった俺は、民家の捜索を再開した。
「俺は、この世界は機械的な技術が発達しているはずだと思っている。地上の家は無人でも、地下深くに降りる近代的な装置があるんじゃないかな」
「あったとして、どうやって見つけるんですか?」
「俺やシルフだけでは見つからないから、ウーとアリスを呼んだんだ」
ウーは、魔法の杖から目を離して、短い前足を組み合わせた。
「まあ、やるだけやってみます」
言うと、今度はウーは杖で床を叩き出した。
アリスが耳をぱたぱたと動かしているのは、何か音を拾っているのだ。
「何もなさそうですね」
ウーが音を出し、アリスが音を拾う。俺は、潜水艦のソナーを思い出した。
俺の呼び出した3人が何もいないと言っている以上、危険は少ないだろう。
「……わかった。ウーとアリスは、地下への入り口を探してくれ。何か見つけたら、すぐに俺に知らせてくれ。俺とシルフは、二階を探してみる。声を出せば、シルフが気づく」
「わかりました。任せてください」
「仕方ないですね」
ウーが頷き、アリスは足で床を蹴った。
俺はシルフを連れて階段を上がる。
人気のない建物を登る。
それほど痛んではいない。
少なくとも、最近までは手入れがされていたと思われる。
「何かいそうかな?」
「何もいないと思う」
「やっぱり、そうか」
俺も、生命魔法をタップして耳に意識を集中させていたが、何もわからなかった。
二階の廊下で、手近な扉を開けた。
俺は、この世界が外れだと確信した。
俺は、扉を開けた最初の部屋の中で、ベッドがあるべき場所に置かれた、棺を見つけていた。
最初のダンジョンは、ゾンビに溢れていた。
ドラゴンナイトのキリシアンは、似た匂いのするダンジョンに俺たちを連れてきた。
科学の発達した、という意味で似ていることを期待したのだが、どうやら間違いだったようだ。
部屋の中に棺がある。
この光景を、俺はかつての世界で物語の中でよく知っていた。
「あの木の箱はなんだろう」
「開けない方がいい。きっと、魔物が寝ている」
キリシアンは、ゾンビが溢れたダンジョンと似た匂いのダンジョンとして、吸血鬼が支配するダンジョンに俺を連れてきたのだ。




