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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

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91 3つ目のダンジョンへ

 俺は、未来人の基地から離れた。

 並行してがさがさと付いてくる物音がした。

 俺が足を止めると、草むらから長い耳をした子どものような姿が飛び込んできた。


「ソウジ、無事か?」

「シルフ、臭いは大丈夫だったか?」

「うん。このぐらいなら我慢できる。アリスの奴はどうして平気なんだ?」

「賢いからです」


 俺の頭にしがみついていた白うさぎが、ふふんと胸を逸らした。


「野生に近いアリスの方が、臭いに敏感だと思うが……仲間になったハンヘドも恐竜の割に平気みたいだし、個人差があるんだろう」

「ハンヘドってなんだ?」


 シルフが尋ねたので、俺はアイコンをタップした。

 恐竜としては大型ではない。サイズは俺の世界のサイぐらいだ。

 だが、大きさが強さと比例しないのは、恐竜も同じだ。

 突然呼び出されたハンヘドは、つるりとした頭部を左右に振った。


「ここはダンジョンかい? 見た感じ、前の世界と変わっていないな」

「ああ。元の世界だ」


 使命感の強い魔物ほど、魔法士をダンジョンに行かせたがるようだ。


「なんだ。誰を食い殺せばいい?」

「いや、殺さなくていい。仲間を紹介しようとしただけだ。こっちはシルフ、それから……ウーだ」


 俺は、さらにアイコンをタップした。ピンクなオークであるウーが転がり出る。


「ソウジ、まだ光りますか?」


 突然アイコンに閉じ込めたので、ウーは認識が混乱している。


「大丈夫だ。見てみろ」


 ウーが振り返る。視線の先には、恐竜種のハンヘドが口を開けていた。


「ひゃっ! 私を囮にするんですね。ついにこの時が……」


 ウーががたがたと震えながら、魔法の杖を構えた。

 俺は、ウーの肩を叩く。


「ウーと同じ、知恵のある魔物だよ。この時代では、ドラゴンたちは魔法士を導く魔物と勇者を殺す魔物を区別していないようだ。分けているのは、知恵のある魔物と餌になる魔物の違いらしい」

「……私、餌に見えますか?」

「ああ。見えるな」


 ウーの問いに答え、ハンヘドが言った。ウーは泡を吹いて失神しそうになったが、俺が宥めた。


「ウーは魔法が使えるんだ。役に立つ。いじめるな」

「わかったよ」

「あたしも使えるぞ」

「私も……使えるんですか?」


 シルフとアリスが競って名乗りをあげた。

 シルフの魔法とは、植物の成長を長時間かけて操作するもので、見た目にはわかりにくい。アリスに至っては、野生動物としての感覚を言葉にできることで、魔法以上の力を発揮しているといえる。


「ああ。いつも助けられている。ハンヘド、よろしく頼む」

「わかった。殺して欲しい奴がいたら呼び出せ」


 これまでの仲間とは、明らかに異なる性質を持つハンヘドに戸惑いながら、俺はアイコンを押し付けた。

 ハンヘドの大きな体は、やはり目立つのだ。

 俺は、シルフとアリス、ウーに言った。


「俺は、この世界で1000年前に別れたヒナという女を助けるためにダンジョンに挑んでいたんだ。元の時代に戻りたい。この時代の人間たちなら、時間を遡る方法を持っているかと思って基地に入ったが、そんな方法はないらしい。可能性があるとすれば……ダンジョンだと思う」

「そうですね。ダンジョンです」


 ウーが何度も頷いた。


「これまでのダンジョンはどうだったんだ?」


 シルフが尋ねる。俺は首を振った。


「最初のダンジョンは、俺の元いた世界に近いと思ったんだが……俺の世界にも時間を遡る方法は見つかっていなかった。その次のダンジョンは、この世界とほとんど変わらないと思う」

「じゃあ、どうするんですか?」


 アリスが手近にあった草をむしって食べながら尋ねた。


「ダンジョンには、この時代よりもっと進んだ文明を持つ異世界もあるんじゃないかと思う。俺はそのダンジョンを探す」

「どうやって?」

「ドラゴンに聞くしかないだろう。ウー、ドラゴンを呼べるかい?」

「私は呼べません。呼べるのはソウジです」


 魔法使いのウーに期待して尋ねると、意外な答えを返された。

 俺が驚くと、ウーは手になにかを掴むような仕草を見せた。

 俺は、その意図を理解し、魔法の石版をとりだした。


「どれだ?」

「呼び出しボタンってありませんか?」

「ああ……これか」


 画面表示ではない。石版の横に、スライドしきのボタンをあった。

 俺は、ボタンを押し上げる。指を離すと戻った。


「ソウジ、ドラゴンを呼んだなら、私は隠れます。恐れ多くて、面会は難しいですからね」

「あたしもだ」

「怖いですもんね」


 ウー、シルフ、アリスの順に、俺の持つ石版に次々に飛び込んだ。

 三人とも石版に吸い込まれたとき、上空に巨大な影が迫っていた。


 ※


 地響きと同時に地面に下りたドラゴンは、山のように大きかった。

 だが、俺が初めて会った時は、山脈のように巨大だったのだ。


「キリシアンか?」

「ほう。我が一族を見分けられるか」

「いや。ドラゴンの見分けなんかできないけど、キリシアンは別だな」


「そうか。ドラゴンはいくらでもいるが、魔法士と契約し、実際にダンジョンを破壊したドラゴンとなると我だけだ。ソウジが我を見分けられるとなれば、ダンジョン破壊の栄誉は、我が独占することになろう」


 キリシアンは嬉しそうに語った。


「ドラゴンにも、名誉欲みたいなのがあるんだな」

「最強、不老、不死の我らに、それ以外の何があるというのだ」

「ああ……そうだよな」


 俺は納得した。俺自身も、欲求の全てが満たされたら、きっと名誉が欲しくなるのだろう。

 その名誉とは、ドラゴンによって使われた結果か、ドラゴンを倒すことによって与えられるのだろう。


「次のダンジョンに向かう覚悟はできたか?」

「そうだな。この世界にいる人間たちは、俺が知っている世界より高度な文明を持っていたが、時間を渡るような知識も技術も持っていないようだ。なら、時間を逆行するなら、そういうことが可能なダンジョンを探すしかない」

「見つかるまで攻略し続けるのだな。結構なことだ」


 ドラゴンは、魔法士をダンジョンに送り込んで、数多くのダンジョンを破壊したいのだ。

 ダンジョンには、オーブがある。どうやらそのオーブは、ドラゴン王の魂の欠片であるらしい。


「意地悪して、そんな技術がありそうもないダンジョンに送り込むとかはやめてくれ。心が折れる」

「我らは、ダンジョンの中身までは知らん。察する方法はあるがな」


 俺は、キリシアンを見上げた。


「察する方法? どうするんだ?」

「ダンジョンの入り口の匂いを嗅ぐ。似ている匂いのダンジョンもあれば、異質な匂いを放つダンジョンもある。これまでに入ったことがないダンジョンを望むなら、異質な匂いを放つダンジョンに連れて行ってやる」


「どんなダンジョンなのか、どのぐらいの精度でわかる?」

「ダンジョンに入れるのは、魔法士と魔法士に従う魔物だけだ。ダンジョンに入ったドラゴンはいない。比較の対象となる情報が必要だ。1000年前、ソウジが初めて攻略したダンジョンの匂いは覚えているが、そのダンジョンがどんな世界だったのか、我にはわからん。似た匂いのダンジョンはあるが、どう似ているのか、実際に入った魔法士から聞かなくては判断もできん」

「……そういうことか」


 俺が情報を与え、ドラゴンが匂いを嗅ぎ分け、ようやくダンジョンの傾向ぐらいはわかるということだ。


「ダンジョンの中の世界も時間が経過しているのだろう? 匂いが変わることはあるのか?」

「あるだろうな。ダンジョンの匂いの違いを調べて回る趣味はないからわからないが」

「俺が2回目に入ったダンジョンの匂いはわかるか?」

「そのダンジョンに案内したのは、我ではない」


 やはり、別のドラゴンだったのだ。

 俺は、最初に破壊したダンジョンを思い出した。

 ゾンビに溢れていたが、科学技術は発達していた。

 俺が元居た世界より、ある意味では発達していたのだろう。だから、死んでも動く者たちで溢れていたのだ。


「それから……ドラゴンを倒そうとしている人間たちの基地があるぞ」

「あるだろうな。見つけ次第潰している。だが、なかなか見つからん」

「隠れているからな。それを教えるから、俺が最初に入ったダンジョンと、1000年前に似た匂いをしていたダンジョンに行きたいんだ」


「承知した。人間は、徒党を組むとろくなことをしない。昔から、まとまって住むのは9人までと決めてある。それ以上になった場所は見つけ次第破壊していたのだが、実に面倒だ」


 キリシアンは嘆息するように息を吐いた。

 この世界には村はない。見つけ次第、この世界の支配者であるドラゴンが破壊しているからだ。

 どうやら、ドラゴンにとって人間は、便利な駒である以上に害虫のような存在らしい。

 俺は深くは考えず、魔法の石版からハンヘドと名付けた恐竜を呼び出した。


「おっと……ド、ドラゴン様?」


 恐竜は強く、頼りになる。だが、キリシアンから見ると、不憫になるほど小さく見えた。


「ほう。早速、この時代の魔物を配下にしたか。結構だ。ダンジョン破壊が捗るだろう」


 キリシアンは満足げに腹をかいた。人間なら、みじん切りにされるほどの爪の鋭さである。


「ハンヘド、さっきの人間たちの基地に、キリシアンを案内してくれ。俺はここで待っている」

「わかった」


 サイほどの恐竜が、長い尻尾を揺らせて駆けて行く。

 キリシアンはゆっくりと移動した。体が大きいため、早く動かなくとも追いつけるのだ。

 しばらくして、ハンヘドは戻ってきた。

 俺に頭を向けたので、魔法の石版に収納する。

 キリシアンは上から降ってきた。


「迷彩柄に、ドラゴン避けの匂いか。小賢しい真似をするものだ。ソウジが最初に入ったのと、似た匂いのするダンジョンだったな。承知した」


 キリシアンは言うと、俺を鉤爪で掴んで軽々と飛び上がった。

 すぐに現在位置はわからなくなる。

 俺は、木々が密集した草原地帯の奥に降ろされた。

 キリシアンは飛び去った。


 魔法の石版で確認すると、ダンジョンの入り口が草むらに埋もれているのを確認できた。

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