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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

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86 未来の基地 ☆

 俺は、俺が知る地球の未来からこの世界に来たソルト教授たちが、俺が得たのと同様な力を得ていることを知った。

 俺の持っている力は、ダンジョンの攻略に挑むためにドラゴンと契約したことにより、当初よりはるかに解放されている。その力ではない。


 俺がこの世界に来た時に魔法の石版を得て、精神魔法、生命魔法、火炎魔法をそれぞれレベル1の状態で使うことができた。

 ソルト教授たちも、同じように精神魔法、生命魔法と固有魔法を取得していたという。

 ただし、俺と違うのは、魔法の力に何ら興味を抱かなかったことだ。


 未来の地球では、個体として強くなるために、ほとんどの地球人が肉体を科学的に改造し、脳を刺激することで、ある程度の超能力を得ているようだ。

 手に持つ石版のようなスマートフォンなどはもはや存在せず、意識すれば肉体の能力や所持金などが空間に表示される表示機能を、脳と連動させて肉体に施してあるという。


 つまり、俺がこの世界に来て得たことで喜んだ魔法の力は、ソルト教授たちには初めから持っており、ありがたがる程度のものですらないということだ。


「俺が住んでいた場所は、まだ電線が空にあり、排気ガスで空気が淀んでいました」


 ソルト教授たちは、過去のこの世界の人間と同じように、ドラゴンたちを敵視していた。この世界に拉致されたことすら恨んでいるのだから、ドラゴンに協力しようと思うはずがない。

 俺は、ドラゴンに協力してダンジョンを攻略したことを、隠すことにした。


 これから仲間がさらに合流するなら、敵視されるのはまずい。

 それに、ソルト教授たちなら、それほど未来の地球から来た人たちなら、時間を遡ることもできるのではないかと期待した。


「……ふむ。もはや地球上に、そんな場所はないはずだと考えていたが……聞いたことがあるか?」


 ソルト教授は、俺たちに背を向けて周囲を警戒している、銀色の人間たちに尋ねた。

 一人が振り返る。


「『血の池』ではないでしょうか。あの周辺は、気流も海流も他の世界から独立していますから」

「……確かにな。『血の池』であれば、他国の干渉も技術供与もない。大気は汚染されているから、そこで生きられる体であれば、この世界の空気に適応できても不思議はない。なるほど……面白いな。日本というのは、『血の池』に住む部族の名称というわけか」

「そ、そうだと思います」


 ソルト教授たちが言う『血の池』というのが何を意味するのかがわからなかったが、地球上のどこか文明が遅れた地域なのだろうと推測した。


「確かに、『血の池』からドラゴンが拉致をしないという根拠はない。では、君はどう思った? ドラゴンに拉致された時のことだが」


「お、俺は、この世界の端で、一人しか住んでいない場所に住む、可愛い女の子に助けられました。いい場所だと思いましたよ。魔法の力みたいなものがあるなんて信じられなかったし……傷が自力で直せるとは、奇蹟だと思いました」

「おい。ジレット、ナイフを貸せ」

「はい」


 ソルト教授は、受け取ったナイフを俺の腕に叩きつけた。

 反射的に避けたが、突然のことに俺の理解が追いつかず、よけきれなかった。

 血が当たりに飛び散った。俺の腕に、深さ一センチ程度の傷口が開いた。


 俺は、すぐに魔法の石版を取り出そうとした。ソルト教授の目の前であることも考えなかった。習慣となっている行動だ。

 だが、俺の左手が魔法の石版を掴むより速く、俺の傷ついた右腕をソルト教授がつかみとった。

血を流す傷口を見つめた。


「なるほど……傷口が塞がらない。見たまえ諸君、原始の人間の肉体とは、こういうものなのだよ」


 ソルト教授が何を言っているのか、俺が理解するのに時間がかかった。背中を向けていた5人が一斉に覗き込む。

 銀色の服を着て、顔だけが透明のシールドで露わになっている人々が、俺の傷を物珍しそうに覗き込む様子は、実に奇妙だった。


「あ、あんたたちは、腕を斬られても血が出ないのか?」

「ああ、そうだな。ここでは、防護服を脱ぐことはできない。基地に行ったら見せてやろう」


 ソルト教授は俺に笑いかけた。銀色の一人が尋ねる。


「では、この男を基地に連れて行くのですか?」

「ああ。仮にわしらに協力的でなくとも、原始の人間は珍しい。貴重なモルモットだ。逃がす手はなかろう」

「承知しました。丁度、来たようです」


 俺を無視して、銀の人間たちは基地と呼ばれる場所に俺を連れて行くことに決めたようだ。

 人間たちが顔を向けた方向から、真っ黒い円盤型の乗り物が、宙に浮いて滑るように移動してきていた。

 俺は、背後を振り向いた。大木の影から、シルフとアリスが心配そうに顔を出している。


 俺は、二人に今の場所に留まるように、手で合図を出した。二人に戦う力はない。下手に連れて行けば、俺より先に実験動物として扱われることがわかっていた。

 心配そうな二人を他所に、黒い円盤は銀色の人間たちを乗せるために地面に下りた。

 黒い円盤から降りて来た、やはり銀色の服を着た人間たちは、俺を見つけるや否や指先を向けた。


 警戒しているのだろう。シルフとアリスの言葉によれば、指先から出す光線で空を飛ぶ巨大な鳥を撃ち殺したという。

 その鳥は銀色の人間たちが運んでいたし、円盤の中に俺の目の前で収納している。

 収納の仕方が、担いで円盤の上から押し込むという方式だった。そこだけ、何故か進歩し忘れたのだろうか。


 黒い円盤から降りた銀色の人間たちに、俺と話をしていたソルト教授が指示を出していた。ソルト教授は、話に出ている『基地』という場所でも発言力があるらしい。

 俺に指先を向けるのは止めたが、代わりに俺の左右の腕を、俺の背後で拘束した。

 何を使って縛ったのかわからないが、俺の腕は動かなくなった。


「この魔物、言葉は通じますか?」

「解るよ」


 俺が答えると、銀色の人間たちが驚いた。ソルト教授が口を挟む。


「ついでに、魔物ではない。私たちと同じ世界から、同じようにドラゴン族にさらわれたようだ。防護服を着なくても毒素に侵されることなく生存が可能らしい。私は、『血の池』出身者だろうと判断しているが、『血の池』に住む人間に、『血の池』と言っても理解できないようだ。あそこは、本来はただのゴミ捨て場だからな」

「了解しました」


 円盤から降りた人間たちが、ソルト教授に敬礼する。『了解』されても困るが、口を挟んでややこしくしたくはない。

 俺は背後に誰もいないタイミングを見計らい、後ろ手に魔法の石版を出現させた。

 銀の服は防護服というらしい。銀の防護服に守られた人間たちとは魔法の使用方法が違うので、感づかれることはないだろう。


 画面を見られないが、魔法の石版は、呼び出した時は常に魔法画面を表示する。

 俺は、推測で画面をタップした。

 魔法が起動した。狙い通りの魔法だと感じた。


「何でもいい。この地に眠っている奴、起き上って円盤を追え」


 俺の足元で、ネズミの骸骨が起き上っていた。スケルトンという骸骨の魔物がいることを、俺は前世のゲームや物語で知っていた。

 この世界では、まだスケルトンと呼ばれる魔物には会っていない。実はいないかもしれない。

 問題はない。こんな異様な物体がいれば、五感が俺よりもはるかに優れているアリスやシルフが気づかないはずがない。


 俺は、強制されるままに黒い円盤に乗り込むことになった。

 黒い円盤にどうやって乗るのか。

 地面に下りている時に、よじ登って上から入るのだ。


 ※


 空を飛ぶ円盤といえば、宇宙船というのが俺のイメージだったが、そこまで進歩したものではないようだ。

 この世界に元の世界から持ち込めるものは限られており、この世界の物質で作れるものに限界があるということなのかもしれない。


 俺が連れ込まれた円盤の内部は、円形の広い自動車の内部という印象だった。

 ソルト教授たちを迎えに来た人間が2人、そこにソルト教授たち6人が乗り込み、撃ち落とした巨大な鳥を収納しているため、かなり広い内部が割と一杯だった。


 窓はないが、360度モニターが周囲を取り巻いていて、周囲の様子は見ることができる。360度といっても平面上での角度であり、頭上や地面まで見えるわけではない。

 のぞき窓が一周しているという感じだ。


「この世界で、よくこんなもの作れましたね」

「ああ。何人か技術者が連れ去られた。技術者たちは、基礎的な設計図はいつでも見られるように体に刻む習慣がある。その成果だといえるな」


 俺が感心すると、ソルト博士が自慢げに教えてくれた。ソルト博士の説明を受けると、銀の防護服の中身を見るのが怖くなってきた。


 俺は縛られたまま円盤の内部の中央に転がされ、円盤が浮き上がるのを感じた。


挿絵(By みてみん)

※未来人の基地のイメージです

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