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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第3章 1000年後

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84 1000年後の世界で ☆

 竜兵というのは、ドラゴン族の中でも若い者達の呼称で、主に雑用を勤めるという。

 キリシアンは竜兵から300年前に竜騎士に進化し、人間たちの集落を回ることはそれ以来行なっていないという。

 俺は、深い森の中に下ろされた。


 俺としても、約1000年壁の中にいた。

 記憶は曖昧になっている。

 だが、それでも断言できる。

 樹々はこれほどまでに巨大ではなかった。


 かつて、マーレシアを領主と仰ぐ集落があった場所だと告げられ、俺は地面に下ろされた。

 集落の痕跡は既になく、ただ巨大な樹木が身を寄せるように立ち並んでいる。

 廃棄されて、数百年は経つのだろう。

 俺を背に乗せて飛んだキリシアンは、俺を置いて飛び去った。


 ドラゴンたちが魂の結晶と呼ぶ魔法の石板があれば、近くのダンジョンはわかる。ダンジョンに向かえば途中でドラゴン族の誰かが向かえに来ると言って、キリシアンは去った。

 あまりにも巨木が密集して生えているため、視界は効かない。


 かつて貴族を名乗っていたマーレシアとは全く関係ない場所に連れてこられたとしても、俺にはわからない。

 とりあえず、俺は途方にくれた。

 木の根を椅子にして、腰掛ける。

 まず、何をしていいかわからなかった。


 ヒナを探す。その目的のために、何をすればいいのかわからなかった。

 手持ち無沙汰になった俺は、しばらく魔法の石板を取り出して眺めていた。

 結局、俺は魔物のアイコンを3度タップした。

 地面に、ウサギのアリス、エルフのシルフ、オークのウーが転がり出る。


「……うん。美味しそうなにおいがしますね」

「ド、ドラゴンはいないな?」

「なんだ。まだ新しいダンジョンじゃないんですね」


 同じように周囲をみまわしながら、三様の感想を口にする。

 アリスは食べ物を求め、シルフはドラゴンを恐れ、ウーはダンジョンに挑みたがった。

 俺は、俺の足元の草をちぎって与えながら、アリスを膝の上に抱いた。


「俺たちが最後にこの世界でダンジョンに入ってから、1000年が経過している。それは間違いないそうだ」

「そうでしょうね」

「今更、何を言っているんだ?」


 ウーが首をかしげ、シルフが呆れた。アリスの口には草が詰め込まれている。


「シルフとアリスは知っているはずだが、俺はヒナという人間の女を取り戻すため、ダンジョンに潜った。人間が1000年も生きられないことはわかりきっている。俺には、もうダンジョンに潜る理由がない」


 シルフとウーが顔を見かわした。アリスも混ざりたそうだったが、俺が離さなかった。


「どうした? ダンジョンに入らない魔法士には用がないか?」

「……私はそうですね。でも……」


 ウーは容赦がなかった。だが、何か言い淀んだ。シルフが、その後を続けるように言った。


「ダンジョンには全てがある。そう竜兵が言ったんだろう?」

「ああ」


 それを聞いたのは、1000年も前だ。


「なら、方法はあるんじゃないか? この世界で無理なら、ダンジョンに」

「ダンジョンは二つ攻略した。そんなに、なんでもある感じじゃなかっただろう。一つはゾンビに覆われた俺のいた世界に近い世界で、もう一つは、ここより人間の文明が発達して、魔王や勇者がいた世界だ」

「一つのダンジョンで全てが揃わなくても、全部のダンジョンを巡れば、ソウジが探しているものも見つかるんじゃないか?」


 シルフはドラゴンを恐れているし、ダンジョンの攻略に熱心だったわけではない。

 だが、それだけに、俺は気になった。

 シルフにとってダンジョン攻略が大切なことではないのなら、本当に俺のことを考えて、ダンジョンに求めるものがあると言っているのかもしれない。


「でも、ダンジョンの中に何があるのかは、入ってみなくてはわからないんだろう? それに、一度入ったら、中のオーブを壊さないとこっちの世界に戻ってくることもできないんだ。試しに入ってみると言えるほど、簡単なことじゃない」

「じゃあ、ヒナって人のことは諦めるのか?」


 シルフが核心をついた。

 俺は、考えてみた。


「俺は、どんなダンジョンに入ればいいんだ?」

「時間を遡れるダンジョンでしょう。そういう魔法が存在する世界なら、1000年遡って、オーブを壊せばいいんです」


 ウーの言葉は力強かった。俺は頷く。


「さっきのダンジョンでも、時間を遡る方法はあったかもしれないな。あの場合……すぐにオーブを壊さないと俺が死にそうだったから、仕方ないんだが。わかった。ダンジョンに行こう」

「さすがソウジです」


 ウーが頷く。シルフは首を傾げていた。俺がダンジョンに入ると決めた過程が、理解できないかのようだ。アリスは、口の中を草で一杯にしていた。


「でも……この世界のことをもう少し知りたい。1000年間で、植物が育った以上の変化があるかもしれない」

「えーっ……何もありませんよ」

「ウー、しばらく休憩だ」

「はいはい。次のダンジョンに入ったら、呼んでくださいね」


 ウーは肩を竦めた。俺が魔法の石板を近づけると、ウーは顔を突き出し、鼻の先端から魔法の石板に消えた。


「シルフ、貴族と名乗っていたマーレシアを覚えているか?」


 ウーが消えた後、頼りになるのはやはりシルフだ。考えるまでもなく、突き出た耳を揺らして頷く。草で口いっぱいのアリスは、何もせずとも耳が揺れている。


「ああ。ソウジから魔法の力を奪った人間だろう。あたしたちを殺そうとした」

「勇者を殺すための魔物と、魔法士を導くための魔物の区別もできなかつた細長い人ですね。ああ……ソウジと比べてって意味ですよ」


 アリスが草を飲み込んでから言った。


「あのマーレシアの屋敷があったのが、この場所らしい。もう、なんの痕跡もないけどな」

「1000年前だろう。まあ……立派に成長したな」


 シルフは植物の成長をコントロールできる。

 現在生えているここの樹々は、1000年前にはまだ芽吹いてさえいなかったはずだ。

 シルフとしては、孫を見るような気持ちなのかもしれない。


「少し、魔法を使ってみる」

「わかった」


 シルフは、俺が魔法の石板を操り出すと、食べ物でも探しに行くのか、出かけていった。アリスもついて行く。

 アリスがウサギらしく走るのを久しぶりに見たと思いながら、俺はレベル2に上がった死霊魔法をタップした。


 死霊魔法レベル2を発動させると、ゆらゆらと揺らめく影を見ることができた。

 ただ、それだけだ。

 この辺りで人間が死んだということがないのか、あるいは長すぎる月日に風化してしまったのかもしれない。


 俺はしばらく、揺らめく影を見つめていた。

 死霊魔法の効果はしばらくして消えた。

 シルフとアリスが、樹々の後ろから飛び込んできた。


「どうしたんだ? 死霊魔法を使ったけど、手がかりはなかった。幽霊とかもいないから……」

「ソウジ、大変だ。変な奴がいる。人間かもしれない」


 シルフは慌てて報告し、アリスは隣で頷いた。


「人間かもしれない変な奴って……シルフたちから見たらそうなるのか。どう変なんだ?」

「手から光を出して、空を飛ぶ魔物を撃ち落としたんだ」

「うん。それは変だな。手から出したのか? 手に何か持っていたんじゃないか? こんなのとか」


 俺は、魔法の石板から拳銃を取り出した。


「いや……何も持っていなかった。指でさしたんだ。そうしたら光が出て、空を飛んでいる魔物が死んだ」

「……わかった。案内してくれ」


「ええっ! 嫌だ。怖いじゃないか」

「そうですよ。ソウジが先に行ってください」

「まあ、いいけどな」


 俺は、アリスが顔を向けた方角に踏み出した。


挿絵(By みてみん)

※千年後の森のイメージです

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