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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第2章 ダンジョン攻略編

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80話 異世界の魔王 ☆

 勇者コミュレが激しく暴れたようだ。

 魔王城の中は、魔物たちの残骸が随所に転がっていた。

 俺は、死霊魔法をタップした。

 倒れた魔物の体から、抜け出た何かの痕跡が見えた。


 全て、一方向に繋がっているようだ。

 魂の痕跡だろうか。

 誰かに尋ねたかったが、ウーは気絶したまま収納した。

 俺は魔物のアイコンをタップして、シルフを呼び出した。


「おお……ここは、どこだ?」


 魔物の死骸が点在する通路を眺めて、シルフが首を捻った。


「魔王城の中だよ。シルフも外からは見ただろう?」

「ああ……思い出した。まだ、こんなところなのか」

「ウーが気絶した。交代だ」

「そんなところだと思ったよ」


 シルフが何故か、言いながら俺の足を蹴った。


「オーブを探す。敵対する魔物がこっちにこないか、注意してくれ」

「わかった」


 シルフは、頭頂部まで突き出た長い耳を撫でた。


「でも……こんな入り組んだ建物の中で、オーブの場所がわかるのか?」


 シルフは、俺の魔法の石版の画面でオーブを見たことがあった。

 現在位置とオーブの位置が示されているだけの、マップというより方位磁石と呼んだ方が相応しいものだ。

 大体の場所はわかるが、建物内にあればどうたどり着くのかは、建物の構造によるのだ。


「……大丈夫だと思う。俺には……死んだ魔物の魂が見える」

「ゴーストかい? 信じられるのか?」

「俺を騙そうとするほど、具体的な魂じゃない」


 俺は、リザードマンの魂に導かれてここまで来た。

 リザードマンのゴーストたちが、本当に親切だったのか、あるいは俺を罠にかけようとしていたのかは、もはやわからない。

 だが、現在俺が見ている魂は、死んだ体から抜け出た魂の残滓だ。


 俺を意図して騙すことはないだろう。

 全ての魂が同じ方向に向かっている。

 死霊魔法の効果が続く限り、俺の目には行くべき方向がわかる。


 俺は、その方向に魔王がいることを疑っていなかった。

 魔王がいる場所に、オーブがある。

 実際に根拠はと問われれば、俺には何もない。

 だが、オーブの位置が確実に近くなっていく。


 俺は、シルフと共に魔王城の内部を進んだ。

 魔物たちが作ったとは思えない石積みの壁と床であり、天井も高い。

 天井が高いのは、巨大な魔物もいるからだろう。

 俺とシルフが3階まで登った時、魔物の死体がなくなった。

 魔物の死体はない。だが、魔物から抜け出た魂の残滓は、ずっと続いている。


「ソウジ、あっちにまだ死んだ魔物がいる」


 シルフは、俺が進もうとしていた通路とは逆を指差した。


「……ほかに、何か聞こえるか?」

「戦っているのかな?」

「では、コミュレは向こうだ。おそらく……魔王はこっちだ。シルフ、どうしたい?」


「……魔王がいい奴かどうかわからないよな。あたしたちの知らない世界だし。でも……あたしも勇者は嫌いだ」

「わかった。まずは、オーブがある場所を突き止めよう」

「うん。それがいい」


 俺とシルフは、魂の残滓が導く通路を進んだ。


 ※


 勇者コミュレが露払いした通路からは外れたが、物音を敏感に拾うシルフのお陰で、魔物には遭遇せずにすんだ。

 俺も生命魔法をタップし、5感に意識を集中させた。

 4階に達し、5階に登る階段を見つけた時、シルフが言った。


「ソウジ、ここから先には行けないよ。どう進んでも、魔物に遭遇しちまうよ」

「……そうみたいだな。しかし、あまり時間もかけられない。魂の残滓が薄くなっている。もうすぐ見えなくなる」


 俺は死霊魔法と生命魔法を繰り返し使用していた。

 死んだ魔物の魂が通った痕が、次第に見えにくくなっていた。


「この先に居る魔物を、別の場所に誘導したらどうだい? ソウジ、便利な魔法とかないのか?」

「魔法はそんな便利じゃないけど……あれを使うか」


 俺は、隠れる場所を探した。

 人間の城とは違い、装飾品などはない。

 検討した結果、俺とシルフは5階に登る階段の影に隠れ、ダイナマイトを取り出した。

 ライターで火をつけ、通路に投げる。


 導火線が燃える焦げ臭い臭いに誘われたのか、二足歩行の牛の魔物が顔を出した。

 ダイナマイトが爆発し、魔物が消し飛んだ。

 俺はすぐ、死霊魔法をタップした。

 思った通りだ。

 牛型の魔物の魂が階段を登って行く。その痕が通過した場所に残った。


「ソウジ、来るぞ」

「ああ」


 階段を、多数の足音が降りて来る。

 階段の影にぴったりと張り付いて、俺は次々と降りて来る禍々しい鎧の魔物たちを見ていた。


「まだ来るか?」

「いや……動いているのは、他にいない」

「よし」


 俺は、シルフを抱きかかえた。生命魔法をタップし、脚に意識を集中させる。

 魔王城の階段は、手すりしかない分、幅が広い。

 横から張り付いて、飛び上がって階段をよじ登るのは簡単だ。

 俺は脚に力を入れた。

 床を蹴りつけ、飛び上がる。


 階段に飛び上がった。

 上には誰もいない。俺は振り向かなかった。

 急いで階段を駆け上がる。

 階段の上に、巨大な扉が開け放たれたままになっていた。

 俺は、扉に飛び込んだ。


「ソウジ、ダメだ」


 俺には、シルフがなにを『ダメだ』と言っていたのか、理解できなかった。

 俺は開いたままの扉に飛び込んだ。

 俺が飛び込んだ瞬間、背後で扉の閉まる音がした。


「……勇者か?」


 俺が飛び込んだ部屋は広かった。

 壁際にさまざまな装飾品があるが、まるで円形のホールだった。

 その最も深い場所に、扉から正面の位置に、巨大な椅子が据え付けられていた。

 巨大な椅子の中央に、うら若い女性と思われるなにかが腰掛けていた。


「勇者ではない」


 俺は答えた。俺の目は、扉から入った微かな痕跡が、女性の持つ丸い玉に向かって伸びているのを見ていた。


「ならば……私に仕えるのを希望する者か?」

「……いや」

「ならば死ね」


 女性から何か巨大な力が飛んでくるのを感じた。

 俺はシルフを抱きかかえ、手にしていた魔法の石版を押し付けた。

 俺自身は体が固まるのを感じた。

 石にされる。


 俺はそう思った。

 しかし、遅い。

 すでに体は動かない。


 意識すら保てず、俺の意識は暗闇に閉ざされた。


挿絵(By みてみん)

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