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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第2章 ダンジョン攻略編

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75話 闇大王トカゲ

 勇者コミュレが雷撃を中心とした魔法を連発し、怯んだ闇大王トカゲの懐に俺が駆け入る。

 背後で光が灯った。ウーの魔法だ。

 雷撃で苛立っていたトカゲが、ウーに向けて口を開ける。口の中に炎が灯る。ウーの魔法ではない。闇大王トカゲは、炎を吐けるのだ。


 俺は、口の中に向けて拳銃を発砲した。続けざまに弾倉内の銃弾をうち尽くす。

 効果はわからない。

 トカゲの口に灯った炎が、急速に巨大化する。


「ウー、もういい! 逃げろ!」

「はい」


 俺は叫びながら、魔法の石版に視線を落とした。

 覚えたばかりで使い道のなかった魔法がある。

 俺は、爆発魔法をタップしてから、トカゲの口のなかに生じた炎に向けて力を放った。


 吐き出されようとしていた炎が、ウーのいた場所に向かって直線に伸びようとした寸前で、爆発する。

 トカゲの口の中で破裂するが、トカゲはただ苛立ったように首を振るった。

 俺は、さらに爆発魔法をトカゲの表皮に向けて放つ。


 闇大王トカゲの皮膚が、ぼこぼこと蠢く。これが、爆発魔法レベル1の普通の威力なのだろう。さっきは、たまたま放出されようとしていた炎が弾けただけだ。

 俺は急いで石版に置いた指の位置を修正する。


「くらえ! サンダーバースト!」


 わかりやすい技名を叫びながら、勇者コミュレが飛び上がった。

 剣を振りかざし、あたりが青白い光に包まれる。

 俺は、勇者の攻撃の結果を待たず、生命魔法をタップした。すぐに魔法の石版をスライドさせる。


 拳銃を石版に収納し、元の世界で貴族と名乗るマーレシアからもらった短剣を取り出した。

 闇大王トカゲの頭上に、轟音を伴う雷が落ちる。


「クケケケケケケケッ!」


 トカゲが吠えた。勇者コミュレの攻撃が効いているとも思えない。

 俺は、生命魔法を連続でタップしながら、短剣を突き立てた。

 柄元までが、トカゲの皮膚に吸い込まれる。


 黒い血がほとばしった。

 俺は、剣を引き抜いて後退した。


「クケケケケケケッ!」


 トカゲが口を開く。俺は、石版からダイナマイトを取り出した。


「留めだ!」


 叫んだのは、勇者コミュレだ。まだ技か魔法があるのだろう。

 トカゲの口の中に、炎が生じた。

 俺は生命魔法をタップし、右手に意識を集中させながら、ダイナマイトを放った。


 闇大王トカゲの口の中に生じた炎で、ダイナマイトに点火する。

 勇者コミュレが剣を構えてとびかかった。


「必殺! 極北ブレ……」


 技名を叫んでとびかかったコミュレの目の前で、俺が投げたダイナマイトが爆発した。

 おおよそ、トカゲの口の中だ。

 吹き飛んだ。


 勇者コミュレと、闇大王トカゲの両方が吹き飛んだ。

 勇者コミュレが、俺の真横を飛ばされていく。

 一方の闇大王トカゲは、口を最大限に開けたまま、背後に倒れた。


「ウー、コミュレは?」

「死にかけです。殺しますか?」

「今はいい。トカゲが先だ」

「はい」


 俺自身は、勇者コミュレを殺そうとは思わない。コミュレに言われた通り、死んでも構わないが、殺したいとは思わない。

 ウーは違うようだ。そもそも人間が嫌いで、勇者は大嫌いなのだ。


 俺は、ひっくり返った巨大トカゲの上を走った。背後からウーが走ってくる物音を聴きながら、ビクビクと震えている闇大王トカゲの頭部に至った。


 ※


 闇大王トカゲを倒し、背後を振り返る。

 ウーが魔法の杖に明かりを灯していた。


「ウー、勇者コミュレはどこだ?」

「あそこです」


 俺が近づくと、ウーは杖の明かりを一方向に向けた。


「死んでいるのか?」

「さあ。動きませんけど……死んでいるかどうかはわかりません。近づきたくないので」


 ウーの勇者嫌いは本格的らしい。俺は、ウーの頭を撫でながら尋ねた。


「突然戦いに巻き込んで悪かった」


 呼び出された直後の取り乱したウーを思い出し、俺は詫びた。ウーが首を傾げる。


「ソウジは変わった魔法士ですね」

「そうか?」

「魔法士にとって、魔物は道具です。私なら……トカゲの餌として放りだされても、魔法士を恨みながら死んで、それで終わるのが当たり前です。魔法士はその間に逃げるべきです」


「そんな酷いことはしない」

「だから、変わった魔法士なんです。巨大な魔獣の討伐、お疲れ様です。疲れを癒す魔法を使用しましょうか?」


 ウーは、俺をキラキラとして目で見ている。たしかに、ウーを食料として魔獣に放り出せば、魔獣の隙はつける。だが、俺の気分は最悪だろう。ウーは、すでに俺の仲間なのだ。


「そんな魔法があるのか……だが、今はいい。勇者を蘇生させる魔法があるのなら、頼みたいところだが」

「勇者を蘇生? 何故そんなことを?」


 ウーは、露骨に嫌そうにした。


「俺は、魔王城を目指していた。ここは城ではないだろうし、オーブがあるのは、あの壁をよじ登って外に出て、さらにその先だ。その場所が魔王城である可能性は高い。この世界の魔王を倒さなくてはならない場合、魔王に敵対する戦力を利用する必要がある」


「……オーブを壊すために、勇者を利用するんですね。勇者を癒すのは嫌ですが……仕方ありません。でも、私の力で癒せるかどうかはわかりませんよ」


 ウーは納得した。アリスやシルフに同じ話をすれば、結論が出るまでどれほどの時間がかかるかわからない。

 それだけでも、ウーを仲間にしてよかったと俺は感じていた。


 俺は、まだ絞った雑巾のように地面に倒れている勇者コミュレに近づいた。

 黄色い髪の勇者は、白目を向いたまま気絶していた。

 心臓が止まっているようだ。


「ウー、光を頼む」


 俺自身は、生命魔法をタップした。


「死んでいますよ。これ」


 ウーは嫌そうに魔法の杖を近づける。ウーは、俺もまだ把握していない複数の魔法を使えるが、使用するのは杖の先端にある水晶を経由しなければならないようだ。魔法で生み出したものを飛ばすこともできないため、光で照らすには、発光した杖を近づけるしかないのだ。


「いや……勇者コミュレが吹き飛んでからまだ3分ぐらいだ。間に合うさ」


 勇者コミュレは、急所を覆う頑丈な鎧を身につけている。

 心臓マッサージをするために、装備を外していたら手遅れになる。

 俺は、生命魔法をタップし、鎧のうえから上から心臓に魔力を注いだ。


「ウー、治癒の魔法を勇者にかれけてくれ」

「わかりました。嫌ですけど……」


 辺りが暗くなる。ウーは、複数の魔法を同時に使用できないらしい。

 魔法を切り替えたのだ。俺も、視力に生命魔法を使用する余裕はない。

 勇者コミュレの心臓を動かすことに意識を集中させた。


 他人の生命を操作するのは、自分の体を操るほど簡単ではない。

 俺は、これまでの経験で知っていた。

 ウーが杖の先端を勇者の体に押し当てている。


 俺の魔法とウーの魔法のどちらが効いたのかはわからない。

 勇者コミュレは、突然目を見開いた。

 俺は気付かなかった。

 突然、首を絞められた。


「ソウジ!」


 ウーが叫んでいた。俺は、喉を凄まじい力で圧迫された。

 目の前に、血走った勇者コミュレの瞳がある。

 俺は、勇者コミュレに殺されそうになっているのだと、ようやく理解した。


 指先は、生命魔法に置いたままだ。

 俺は、生命魔法を連打した。

 コミュレの胸に当てていた手を生命魔法の力を乗せた手で、全力で押し出す。


 突き飛ばした。

 勇者コミュレが咳き込んでうずくまる。


「なんの真似だ?」

「……んっ? ソウジか? 『なんの真似』とは……どういう意味だ? 闇大王トカゲはどうした?」


 勇者コミュレは復活した。意識を失った直後から、俺の首を締め上げるまでのことは、何も覚えていなかった。

 俺の首を絞め上げたのは、勇者の防衛本能のようなものだろう。


 恩知らずと罵り、ウーが小石を投げつけていた。

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