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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第2章 ダンジョン攻略編

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73話 リザードマンのお頭

 気絶していただけだと思われていた2人の冒険者は、栄養があると判断されたらしく、最優先でリザードマンの食料になっていた。

 俺が勇者を連れて外に出た時、見たことがある若い男女の首が足元に転がった。


 肉体の方は、村人を全滅させたリザードマンたちが争うように食べている最中だったのだ。

 勇者コミュレは、リザードマンたちを忌々しそうに睨みつけたが、登場が遅かったのだ。


「死んだ人間を生き返らせることは、勇者にもできないのか?」

「俺はできない。できる奴の噂も聞いたことがない」

「コミュレは、雷の勇者と言ったな。勇者は何人いるんだ?」


「4人だ。俺のほかに、鉄の勇者、貝の勇者、筍の勇者、災厄の勇者がいる」

「……どれも、微妙な名前だな。最後のは、本当に勇者か?」

「ああ。会ったことはないが、美しい女性らしい」


「勇者同士、協力した方がいいんじゃないのか?」

「競争することによって、力は研ぎ澄まされる。勇者同士が顔を合わせれば、どちらかが死ぬまで戦うだろう。俺は、これまでに3人の勇者を殺した」

「そうか……」


 勇者の定義も、世界によって様々なのだろう。俺は3人の勇者を殺したというコミュレにやや気圧されながら、リザードマンが徘徊する村をリザードマンのお頭の背後について歩いた。

 ぴったりとついて歩いているのは、リザードマンに人間の見分けができないからである。


 万が一に備えて、俺は両腕にウーとシルフを抱え、頭にアリスを乗せている。

 コミュレは、襲いかかられたら反撃するつもりであることは明らかだ。

 随分と緊張を強いられる状況のため、我慢できずに俺はリザードマンのお頭に尋ねた。


「俺たちは、いつ魔王城に連れていってくれる?」


 リザードマンのお頭は、立ち止まって振り向いた。


『ああ……そういう約束だったな。たしかに、お前は俺たちに協力した。約束は果たす。だが……まずは腹ごしらえだ』

「俺たちは、人間は食べないぞ」

『心配ない。俺も、それを食べる』


 リザードマンは、俺が抱えていたウーを槍で示した。


「これは駄目だ」


 ウーは俺の仲間だ。食料として連れて歩いているわけではない。


「おい、あのトカゲは何と言っている?」

「俺の仲間を食いたいとさ」

「食わせてやればいい。村の人間たちを差し出したんだ。魔物の仲間なんか、惜しくもあるまい」


 勇者コミュレの感覚ではそうなるのだろう。コミュレ自身、村人の死体を貪っているリザードマンの世話になるのは嫌なはずだ。


「そ、ソウジ、嘘ですよね? 私をあげたりしませんよね?」


 俺に抱えられたまま、ウーが汗ばんでいた。


「……しばらく、収納してもいいか?」

「もちろんです。信じていますよ」

「あ、あたしもだ。あたしは美味しそうだろうからな」

「シルフはまずそうですよ。美味しそうなのは私です」


 シルフとアリスが意地の張り合いをしているのは、二人も石版の中に入りたいのだ。

 俺は、魔法の石版を手にした。シルフを抱えている手の中に出現した石版に、シルフは自ら触れて消えた。

 俺はウーの鼻面に押し当て、頭の上に掲げた。アリスが前足を乗せたのがわかった。


『どこに隠した?』

「今のどうやった? まさか、魔法のカバン持ちか?」


 リザードマンのお頭と勇者コミュレが同時に尋ねたのは、互いに言葉がわからないので、質問が重複したのだと理解できないのだ。

 俺は、魔物のアイコンを押した。

 俺の目の前に、半ば焼け焦げたが、比較的損傷の少ないリザードマンの動く死体が出現した。


『おい、無事か? 助かったのか? よかった。お前も……』


 俺が、死体を魔法で動かしているということを全く理解せず、リザードマンのお頭が近づこうとした。


「リザードマンを攻撃しろ」


 俺は死霊魔法をタップしながら、リザードマンの死体に命じた。

 同時に、俺をリザードマンのゴーストが取り巻いているのがわかった。


「……俺のしたことは、間違っているか?」


 俺は、リザードマンのゴーストたちに尋ねた。

 半透明のトカゲ人間たちは、リザードマンのお頭に半透明の拳をぶつけていた。

 俺に対する要求に腹立っているのがわかった。


「魔王城の場所を知っているか?」


 ゴーストの何人かが、一方向を指差した。俺が、オーブがあると認識しているのと同じ方向だ。

 リザードマンの動く死体が、お頭の手によって破壊された。


『おい、人間……これはなんだ?』

「魔法さ」


 俺は言いながら、もう一度リザードマンの動く死体を呼び出した。


「コミュレ、行こう」

「どこに?」

「魔王城だろ」

「リザードマンに案内させるんじゃないのか?」


「予定が変わった。リザードマンのゴーストが連れて行ってくれる。生きている奴は駄目だな。俺の仲間を食いたがった」

「魔物なんか信用するからだ。待て……ゴーストだと? どこにいるんだ?」

「後にしろ」


 慌てて周囲を見回すコミュレにも、リザードマンのゴーストは見えていない。

 俺は、リザードマンの動く死体の2体目が壊される前に、コミュレの腕を取って走り出した。


 ※


 村を抜け出し、草むらに紛れ、リザードマンの追跡を振り切るまでに、収納していたリザードマンの動く死体を全て放出することになった。


「トカゲどもなぞ、全て殺してしまえばいい。奴らはお前を裏切ったのだろう? しかも魔物だ。どうして殺さないんだ?」

「奴らを殺せば、魔王城の場所がわからなくなるぞ」

「お前が知っているんじゃなかったのか?」


 草むらで、俺は聞き耳を立てた。追ってくる足音はない。

 リザードマンの動く死体を放出するたびに、リザードマンを攻撃しろと命じてきた。多少の時間稼ぎにはなるだろう。

 リザードマン同士、知り合いである場合もある。


「いや、俺は知らない。リザードマンのゴーストに案内してもらうと言っただろう。ゴーストたちは、俺に従っているわけじゃない。ただ協力してくれているだけだ。生きている奴らを殺せば、流石にゴーストたちも協力してくれなくなるだろう。リザードマンのお頭が俺との約束を破ったことがわかっているから、一時的に味方はしてくれているが、リザードマンを殺しては駄目だ」


「……ゴーストも魔物だろう? 魔物のゴーストなんて、聞いたことはないが……」

「魔物なら、どうして見えないんだ? 勇者ともあろうものが」


 俺が尋ねると、勇者コミュレは面白くなさそうに唇を突き出した。


「知るものか。そもそも、リザードマンのゴーストなんて本当にいるのか?」


 魔物のゴーストと、魂だけになった、いわゆる幽霊との違いは、俺にもわからない。

 俺がいた現代と、元の異世界と、現在の世界で、ゴーストや幽霊のあり方が違う可能性もある。


「いずれにしても、魔王城につけるならいいだろう」

「そりゃ……着けるならな」


 俺は、周囲にリザードマンの影もなく、足音もしないことを確認し、草むらから立ち上がった。

 魔法の石版を確認する。

 この世界で俺が壊すべきオーブが魔王城にあるのであれば、俺は魔王城の位置だけは知っていることになる。


 だが、オーブが魔王城にあるとは限らない。仮に魔王城にあったとしても、地形的にまっすぐに進めるかもわからない。

 俺は、リザードマンのゴーストに頼ることにして、誘導されるままに移動した。


 アリス、シルフ、ウーといった仲間たちは出さず、俺は勇者コミュレと二人で移動を続けた。

 仲間の魔物たちを出さなかったのは、いずれにしても魔物である。ウーはあからさまに勇者を嫌っているし、コミュレも魔物は討伐すべきだと決めてかかっている。


 リスクが大きすぎると思ったのだ。

 勇者コミュレは体が強く、火も炊かずに野宿することも、何日も歩き続けることも可能だった。しかも、食事は乾かして圧縮したパンだけで済ませている。


 俺はコミュレほどたくましくはないが、お陰で、勇者の世話をする必要はなかった。

 ただ、こっそりと魔法の石版から完全栄養食のブロックを取り出して齧り、疲れれば生命魔法をタップした。


 はるか遠くにあるかと思われたオーブの位置は、10日ほど歩き続け、かなり近くなった。

 地形はなだらかに上っており、草むらから森に変化した。

 岩肌も多く、魔獣にも何度も襲われたが、概ね勇者が討伐した。


 10日後、俺と勇者コミュレは、リザードマンのゴーストに導かれるまま、切り立った岩肌に口を空けた洞窟の前にたどり着いた。


「……ここが魔王城か?」


 勇者コミュレも魔王城がどんな外観をしているのか知らないのだろう。洞窟を見つめて首を傾げていた。

 俺は、魔法の石版をタップする。俺たちが進んできた方向は、オーブのある場所に向かっていたように見える。


「……方向は間違いないと思う。この洞窟を抜けた先か……この洞窟の中にあるのかもしれない」

「本当なのか? ここまで付き合ったんだ。ただの冗談というのはやめてもらいたいが」


 コミュレは、目を凝らしている。


「冗談のつもりはない。大丈夫……だと思う。俺だって、魔王城に行ったことがあるわけじゃない。ここまでゴーストたちを信じたんだ。引き返すか、進むか、どっちかしかない」

「まあ、それはそうだろうが……」


 勇者コミュレは剣を抜き、剣身を放電で光らせた。

 松明がわりにもなるのだ。さすがは、雷の勇者だ。

 俺は、松明の持ち合わせがなかったので、生命魔法で視力を強化して、暗闇を見透かせないかとやってみたところ、どうにかできそうだったので、そのまま進むことにした。


 俺たちの先を行くゴーストたちが妙に浮かれているように見えるのが、俺に不安を感じさせた。

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