69話 リザードマンの無念
俺はリザードマンたちに手持ちの魔物を渡した。渡したのは、オークと人間の動く死体だ。ゾンビ化した訳ではなく、ただ動きはするが死体である。魔法の石版の中にいたので、新鮮だ。
渡したのは死体だけなので、エルフのシルフとウサギのアリス、ピンクオークのウーは俺が抱えている。
「ソウジ、あれでよかったのか? あの村の人間たち、リザードマンに皆殺しにされるぞ」
俺に荷物のように抱えられたままで、シルフが尋ねた。
「ソウジは魔法士です。当然魔王派です」
ウーが答える。俺の仲間たちの中で、シルフは唯一人間に憧れを持っていた。
貴族の本性を知ってから嫌っていたが、人間が嫌いというわけではないようだ。
ウーは、人間に食べられそうになったことが何度もあるらしい。アリスも同族が人間に狩られることが日常茶飯事だったらしく、常に人間は嫌いである。
「俺が魔王派になるかどうかは、まだ決められないな」
「そうなんですか?」
俺の頭の上でアリスが言った。俺の頭は、現在とても暖かい。
「この世界のオーブがどうなっているのかわからない。ひょっとして、魔王を倒さなくてはオーブを破壊できないかもしれないだろう?」
「その時は……魔王を倒すしか、仕方ないですね」
ウーが唸るように言った。
「でも、魔王に近づくには、魔王派になった方が簡単だろう?」
シルフが尋ねる。
俺は、リザードマンの集落に来ていた。たしかにリザードマンが言う通り、建物らしい簡単な木造の組み木が焼け焦げており、大きなトカゲそのものの死体が多数転がっている。
俺は、リザードマンの集落を焼き討ちした冒険者たちを倒して、仇を打つとリザードマンたちに約束した。
まずは、冒険者たちの足跡を追うべきだと考えたのだ。
「そうとも限らない。俺は人間だ。魔王がどんな姿か知らないけど……魔王がスライムだったりしたら、人間なんか全く信用しないだろう。魔王に対する勇者っていうのが、この世界にいるって、あの村の人間たちも言っていた。勇者の仲間になった方が、魔王に近づけるかもしれない。まあ……リザードマンたちに案内してもらって、魔王城の位置を確認して……オーブがどこにあるのかわからないと、なんとも言えないが」
「勇者ですか……私たちの世界の、ドラゴン族に敵対する人間たちと同じでしょうか?」
俺は、ウーとシルフを下ろした。
「多分、そんな感じだろう。元の世界のドラゴン族が、この世界の魔王派閥って感じなのかもな」
「なら、ソウジは魔王派閥でしょう」
言いながら、アリスが俺の頭から飛び降りる。
「リザードマンとの約束もある。まずは、この集落を焼き討ちした冒険者……人間を追おう。ウー、魔法で何か手段がないか?」
「探し物を見つける魔法ならあります」
俺の使える魔法は、精神魔法に生命魔法、死霊魔法、爆発魔法だ。探し物を見つけるには向いていない。
「ウー、試してくれ」
「わかりました」
ウーは、魔法の杖に取り付けてある水晶を覗き込んだ。
「ソウジの魔法じゃだめなのか?」
「探しものには向かないと……」
「死体を動かせる魔法があるじんゃないか。ここの死体に案内させられないのか?」
ウーが一生懸命に水晶を覗き込んでいる傍で、シルフが尋ねた。
「……リザードマンは、仲間を食べたりはしないのか? 食糧を奪うことになるかもしれない」
「動かせても食べられますよ」
アリスが言った。確かに、その通りだ。
俺は焼け焦げた集落の中に入り、比較的損傷が少ない死体に向かって死霊魔法を使った。
「立て」
リザードマンの死体が立ち上がる。急所を覆うような服を着ている。
火傷は少ない。熱や煙で死んだのだろう。
「この集落を燃やし、お前たちを殺した人間たちのいる場所に案内できるか?」
「ソウジ、難しいことを言ってもだめじゃないのか?」
オークの死体では、俺の命令を理解できなかった。質問をしても答えられないだろう。
「仲間の協力があれば」
だが、リザードマンの死体は答えた。
「……仲間?」
死体が周囲を見る。
「魂か?」
「まだ、あちこちにいる」
「……君たちを殺した人間たちに復讐する。協力してくれ」
言いながら、俺は死霊魔法を連続してタップしていた。
「ソウジ……あっちです」
ウーが懸命に魔法を使用した結果として、人間たちの村がある方向を指差した時には、俺はリザードマンのゴーストを大量に従えていた。
※
リザードマンの集落を歩き回り、俺は手足が炭化していない死体を10、動くようにした。実際に立ち上がっていたのは、9つの死体だった。
それとは別に、複数のゴーストの協力を得ることができた。
とりあえず死体を連れて歩くのは体裁が悪いと思い、魔法の石版に入れようとした。
魔物の収納画面までスライドして、俺はまだ収納していないにも関わらず、魔物画面に12個のアイコンがあり、画面が埋め尽くされていることがわかった。
アリス、シルク、ウーの3人に、9体のリザードマンの動く死体だ。
アイテムであれば、画面が一杯になれば上下方向にスライドさせるための表示が出る。
だが、魔物画面には出ていない。
どうやら、従える魔物は12体が限界のようだ。
リザードマンの死体を10体動けるようにしたつもりだったのに、一体足りないと思ったのは、勘違いではなかったのだろう。
ちなみに、ゴーストたちは話をして協力してもらっているだけで、そもそも俺の支配になっていない。
死霊魔法レベル1では、ゴーストの支配はできないのだろう。
俺は、従えた9つの死体を収納したあと、もう一体、動かないリザードマンの死体をアイテムとして収納した。
何かに役立つかもしれないと思ってのことだ。
「リザードマンたちは、人間の村のそばに潜伏するそうです。冒険者とかいう人間が村から出たら、教えてくれって言っていました」
俺が魔法の石版を確認していると、ウサギのアリスが足元を気にしながら報告した。
「わかった。ところで……いつリザードマンと話したんだ?」
「さっきですよ。さっき会った所で、そう言っていました」
つまり、焼き討ちされた集落の外である。
「……ここまで来ないんだな」
「聞こえると思ったんでしょう。まあ……私には聞こえましたしね」
ウサギのアリスは、得意げに耳をぱたぱたと動かした。
「返事はしたのか?」
「しても、聞こえませんよ。リザードマンは、こういうのがありませんから」
またもや、アリスは耳を動かした。
「そうだな。俺たちも村に行くか。冒険者の位置なら、案内係ができた」
「……案内係?」
アリスが首を傾げる。
「見えないか?」
俺には、半透明で足元が消えているリザードマンたちが見えていた。
「何が見えているはずなんです?」
「ここで死んだ、リザードマンたちだ」
「み、見えません。シ、シルフ……」
「どうした?」
芋虫でも探していたのか、木片で地面をほじくり返していたシルフが顔を上げた。
「ソウジがおかしなことを言い出したんです」
「いつものことじゃないか」
シルフは、芋虫が見つからないのか肩を落とした。シルフの言い様は心外だ。
「死霊魔法の成果だよ。さあ……案内を頼む」
俺が言うと、半透明のリザードマンたちが頷いた。
「ソウジ、だから、探し物はあっちです……ヒャア!」
俺に行くべき道を示し、付いてくるものと信じて先行してから戻ってきたウーが、ゴーストたちが向かった先から顔を出した。
ウーが使用した、探し物をみつける魔法が正しいことを表している。
悲鳴を上げたのは、まっすぐ進もうとしていたリザードマンのゴーストたちが、登場したウーの全身に噛み付いたためだ。
「どうした?」
「な、なんだか……変な感じがしたんです。何かに噛み付かれたような……」
ウーにも、ゴーストは見えていない。
「ウー、魔法でゴーストを見ることはできないのか?」
「そりゃ、できますけど……」
ウーは魔法の杖の水晶を目にあてがった。
覗き込み、卒倒した。
自分の体に噛み付いている、複数のリザードマンの姿を見たのだろう。
俺は仕方なく、ウーを魔法の石版の中に収納して、アリスとシルフを連れてゴーストの道案内に従った。




