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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第2章 ダンジョン攻略編

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68話 様々な裏切り

 草むらの中から、次々とリザードマンが現れた。

 裸ではない。動物の革を加工したものを身につけている。裸を隠すためではなく、あくまでも防御力を重視しているのだとわかる。

 手には槍を持った個体が十人近くおり、俺に気づいて一斉に槍を構えた。


「ソウジ……どうしてリザードマンたちは怒っているんですか?」


 ウーが俺に隠れながら尋ねた。


「ソウジ、何をやったんだ?」

「ソウジが悪いんですよ」


 シルフは俺の足にしがみついて隠れ、アリスはシルフの頭の上で震えている。

 足を掴まれると動けないことを心配しながら、まず俺はリザードマンたちに向かって両手をあげた。足元には、仕留めたばかりの巨大な鳥が転がっている。

 鳥の種類はわからないが、鷹やトンビより、ペリカンに似た風貌の鳥だった。


「俺は今日、オーク……豚の頭をした奴の死体をあんたたちにくれてやったはずだぞ。人間の女との交換だったから恩に着せるつもりはないが、敵ではないとわかるはずだ」


 俺の言葉はわかるはずだ。俺は意識して言語を選んでいないが、さっきはリザードマンと会話できたのだ。

 俺が言うと、俺を警戒し、飛びかかる準備をするかのように態勢を低くして、体を揺らしていたリザードマンたちの動きが止まった。


「……本当か?」


 先頭の一回り大きなリザードマンが、背後の一頭に尋ねた。

 俺には見分けがつかないが、村の少女カンパリを捉え、俺と取引をしたリザードマンだろう。


「……人間の見分けはつかない」

「なら、これでどうだ?」


 俺は、俺の足にしがみついているウーを掴んでぶら下げた。


「……うむ。美味そうだ。それが何か……」

「ああ、その美味そうな豚……確かに、あの時連れていた豚だ」


 俺が取引したと思われる一人が思い出した。

 人間の見分けはつかなくとも、豚の面は識別できるようだ。


「俺は、あの時の人間だ」

「ソウジ……酷いです」


 俺にぶら下げられたウーがうなだれる。


「悪い」


 俺は、ウーを俺の背後に隠した。石版に戻さなかったのは、まだウーの魔法の力を借りるかもしれないからだ。


「まあ……役に立てたようだからいいですけど……」


 ウーには悪いことをした思いながら、俺はリザードマンたちに向き直る。


「俺が何か君たちを怒らせたのだとしたら、知らずにやったことだ。理由を教えてもらえるなら……今回はこれを進呈する」


 俺は、足元に転がった鳥の死体を指さした。

 効果はあったようだ。何人かのリザードマンが、口元を拭う仕草をした。


「お頭……こいつは信用していい」


 俺と取引をしたリザードマンが言った。先頭の大きなリザードマンは、お頭と呼ばれる立場らしい。


「俺たちの住処に、人間が来て火をかけた。逃げられずに多くが死んだ。俺たちは……動ける奴を集めて、人間の住処に復讐に行くところだった」


 お頭と呼ばれたリザードマンが、がらがらと声を鳴らしながら答えた。


「人間が火をかけたのは間違いないのか?」

「住処に入りきれずに外で寝ていた奴が見ていた。燃えやすい木を積み上げ、突然大きな火の塊を作り上げて投げつけた」


 火を扱う魔法のようなものだろう。冒険者たちがあの村にいた。

 俺も一度会った中に、魔法使いらしい女がいた。

 リザードマンに、人間の性別を尋ねても見分けられないだろう。


「俺は……その住処にいる人間たちに、リザードマンとの契約を結び直すよう頼まれた。今まで、年に一人、人間を差し出すようにしてきたが、家畜にしてもらえないだろうかと……火を放ったのは、あの住処にいるのとは別の人間たちじゃないだろうか」


「……意味がわからない。俺たちは、人間と取引をしたことなどない。人間がいれば、捕まえて食べる。ほかの動物でも同じことだ。人間に殺された。その復讐を人間にする。住処が同じかどうかなど、どうでもいい。だが……お前は殺さないでやる。あの豚は美味かった」


 リザードマンは言うと、舌をペロリと出した。俺の足元の鳥を見ていた。


 ※


 俺が村を出たときとは、すでに状況が違っている。

 俺は、撃ち落とした鳥だけでなく、オークの動く死体と人間の動く死体を魔法の石版から取り出し、リザードマンたちに提供した。


 リザードマンたちは俺と魔物たちを囲み、舌鼓を打った。

 人間たちに復讐をするにしても、腹ごしらえは必要なのだ。


「村の人間たちと交渉したことはないと言ったな」


 リザードマンが人間とオークと鳥をさばき、生のまま食べている。俺は差し出された肉を断り、リザードマンたちに食べて欲しいのだと偽っていた。

 賑わうリザードマンたちに尋ねた。


「ああ。昔はしたのかもしれないが、昔のことだ。誰も覚えていない」


 リザードマンたちには文字の文化はないのだろう。覚えている者がいなくなれば、それはなかったことになるのだ。


「じゃあ……あんたたちと交渉するって役目は意味がないか。死んだリザードマンはどれぐらいいるんだ?」

「たくさんだ」


 勘定がわからないのかもしれない。俺は追求しなかった。


「人間を殺してどうする?」

「食う。食って、栄養をつけて子どもを増やす」


 リザードマンは、血まみれのオークの腕に噛みつき、血を滴らせながら答えた。動くように魔法を施した死体なので時々腕が動いているが、リザードマンたちは誰も気にしていない。


「数が減った分、栄養をつけて増やそうと言うのは現実的だな。ただの報復ならくだらないと言うこともできるが……意外と真っ当だ」

「ソウジ、どっちにつくんだ?」


 俺の背中に隠れながら、シルフが尋ねた。シルフだけでなく、アリスもウーも、リザードマンを恐れている。


「金貨を集めるには、人間に取り入ることが必要だ」

「……そうか」


 シルフは、なぜか残念そうだ。


「だけど……リザードマンたちの方が好感は持てるな」

「そうだろう」

「……好感は持てないでしょう。私を見て、よだれを垂らしているのに……」


 シルフがにやりと笑ったが、ウーは俺の背中にさらに張り付いた。二人の反応は置いておき、俺はリザードマンたちに尋ねた。


「なあ、一族を殺した人間たちは憎いだろうが、それは人間の一部だ。それに、あいつらは人間たちの中でもかなり強いはずだ。あいつらを殺すのに、この人数だと難しいだろう。あいつらは、人間の集落からすぐにいなくなる。その後なら、簡単に人間の肉が食えるぞ」

「ほう……そうなのか……」


 リザードマンたちは、腹がいっぱいなので上機嫌だ。俺の言葉を素直に受け入れた。


「わかった……復讐より、種族を増やすことの方が大切だ。あの人間たちは、お前が殺せ。殺して、首をもってこい。そうしたら、魔王城に案内してやる」


 リザードマンたちが、無駄に冒険者たちに全滅させられるのは見たくない。そう思って忠告したのだが、意外な言葉が返された。


「ソウジ、魔王城です。きっと、魔王がいますよ」


 アリスはなぜか俺から離れて草を食べていた。リザードマンが襲って来ないとわかれば怖くないのかもしれない。ウサギは勇敢で、簡単に死ぬ。


「魔王城か……魔王城には、財宝があるかい?」

「あるだろう。入ったことはないが」

「ないのか?」


「案内はしてやるが、中までは入れない。お前は魔物じゃない。そっちは入れるぞ。美味そうだ」

「ひぃっ!」


 相変わらずウーは大人気だ。


「……わかった。あんたたちの仲間を殺した人間は、冒険者と呼ばれている連中だ。冒険者たちは、俺が倒して、仇を討ってやる。その後、魔王城に案内してくれ」

「ああ。あまり遅くなるなよ。覚えている奴がいなくなったら、約束は忘れられる」

「わかった……あんたたちが死ぬまでには片付けるさ」


 俺は頷き、ウーとシルフを抱え、アリスを頭に乗せて立ち上がった。

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