表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界には村もなかった  作者: 西玉
第2章 ダンジョン攻略編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/163

67話 リザードマンたちへの手土産

 動くようにした兵士の死体を魔物として石版に収納したのは、リザードマンとの交渉に、肉として使えるかもしれないと思ったからだ。

 意思を持たない人間の兵士の死体を、仲間して連れ歩きたいわけではない。


 しかし、できれば人間の死体をリザードマンに食わせるのは避けたかった。

 せっかく、人間を食べないように交渉するのだ。人間の肉の味を美味いと思ってしまう前に、人間は肉として食べるより、殺さない方がいいと思わせたい。


 もう一つ、オークの動く死体も魔物として収納しているが、もう少し取引材料が欲しい。

 俺は、魔法の石版のアイコンをタップして、シルフとアリス、ウーを呼び出した。

 石版に入っている間は時間が止まっているらしく、呼び出すと最初に常に現状確認から始まる。

 俺はまだ同じダンジョンの異世界にいることを説明し、落ち着かせた。


「リザードマンと交渉して、人間を食べないように話をつけようと思う。そのために、手土産を用意したい」

「私たちがいない間に、そんなことになったんですね」


 ウーは察しがいい。すぐに理解したが、あまり乗り気ではないようだ。


「人間をリザードマンが食べないようにしないといけないのか?」

「私の友達は、たくさん食べられましたよ。リザードマンにも、人間にも……」


 シルフとアリスも同感のようだ。

 俺がいた元々の異世界でも、ほとんどの人間は魔物の敵だ。


「俺は、金貨を集めなければならない。金貨は、人間しか持っていないだろう。人間に味方だと思わせる必要があるんだ。どうせ、俺たちはオーブを壊して、この世界とは関係なくなるんだ。どっちの味方をしてもいいだろう」


「ソウジの言うこともわかりますが……」

「人間は、食べられていいんじゃないか?」


 ウーとシルフは、まだ人間の味方をすることに抵抗があるようだ。アリスが長い後ろ足で顔を掻きながら口を挟んだ。


「まあ……リザードマンの味方をする理由もありませんけどね。シルフだってウーだって、リザードマンは食べようとしますよ」

「それはそうだね。わかりました。ソウジ、リザードマンへの手土産でしたら、肉がいいでしょう」


 ウーは切り替えたようだ。シルフはむすっとしていたが、顔の造形が線で引いたように細いので、表情はわかりにくい。


「どんな肉がいい?」

「人間の肉だろうな」


 シルフが言った。


「それ以外にだ」

「ソウジ、私たちの世界のリザードマンは、もともと勇者や敵対する人間を殺すためにいるのです。人間がいれば、真っ先に食べようとします」


「それもそうか。でも、この世界では違うだろう。もしこの世界のリザードマンが人間を積極的に殺そうとしているなら、あの村が無事でいるはずもない」

「それはそうですね」


 ウーが同意した。


「では……人間以外の肉を持っていくんですね?」


 アリスが尋ねる。俺は頷いた。


「まずは狩りだな。アリス、シルフ、出来るだけ大型の動物を仕留めたい。見つけたら教えてくれ」


 草に覆われた草原で、俺は2人に言った。ウーに言わなかったのは、オークというよりブタに近い外見をしているウーに、狩猟の手伝いを求める気になれなかったのだ。


「ソウジ……」


 命令してすぐに、背後から声をかけられた。足元からだ。つまり、アリスだ。


「何かいたのか?」

「ほら……こんなに美味しい草があります」


 アリスが、前足にいっぱいに草を抱えていた。


「うん……食べていいぞ」

「わあい」


 アリスが草にかぶりつく。シルフが俺の足をつついた。


「シルフ、どうした?」

「リザードマンへの土産なら、これでいいだろう」


 シルフが差し出した手を開く。

 シルフの小さな手のひらに、丸々と太った芋虫が握られていた。


「シルフ、リザードマンは芋虫を食べるのか?」

「食べますよ」


 ウーが答えた。


「そ、そうか……」


 たしかに、食べても不思議はない。俺が返答に困っていると、ウーが空を杖で指した。


「あれではダメなんですか?」

「あれ?」


 俺が目で追うと、悠々と空を舞う鳥がいた。


「……そうだな」


 俺は、魔法の石版のアイテム画面のアイコンをタップし、ゾンビで溢れる異世界から持ち出したライフル銃を取り出した。

 近くに、リザードマンが好きそうな獣がいるかどうかわからない。もしいたとしても、俺が勝てるかどうかはわからない。


 鳥にしろ獣にしろ、俺はライフル銃で遠くから射撃することにした。遠くから倒せれば、その方が安全だ。

 だが、ライフル銃を使うのは初めてだ。


 自動小銃形式のものではなく、じっくりと狙いを定めて遠方の標的を撃ち抜くものだ。

 使い方がわからなかったので、色々といじってみた。

 薬莢が充填されていることがわかった。安全装置を外し、引金を引けば撃てそうだ。


 予備の弾倉はない。そう思っていたが、ライフル銃の中に5発収納されていた。

 すでに充填済みの1発を含めて、6発撃てることになる。

 1発しか撃てないと思っていたので、これは幸運だ。


「ウー、あの鳥、どれぐらいの大きさだと思う?」


 俺が見上げると、先ほどウーが指した鳥が頭上を旋回していた。俺が尋ねると、ウーは魔法の杖の先端の水晶を通して鳥を見た。


「2メートルぐらいですね」

「まあまあだな」


 全長2メートルの鳥であれば、俺が元々いた現代の世界にもいた。正確に銃弾を撃ち込めば、一撃で倒せるだろう。

 ライフル銃の弾丸は少ない。無駄にはしたくない。


 俺は、地面に膝をついた。

 上を向き、肩にライフル銃の銃底を当てた。

 照準を合わせようとして、俺は気づいた。

 真上に向かって撃って、それほど遠くまで届くはずがない。


「ウー、あの鳥、どのぐらいの高さを飛んでいるかわかるか?」

「わかりません……どんどん近づいていますから」

「なに?」


 ウーが杖で俺の前を指す。

 俺が振り向くと、上空を飛んでいたはずの鳥が、旋回して近づいてきていた。


「狙いをつけたから、怒らせたんだ」


 シルフが俺の影に隠れる。


「いえ、私を食べようとしているんです」


 アリスもやはり飛び込んでくる。

 俺を守ろうとする魔物はいないらしい。


「ソウジ、魔法を!」


 ウーが叫んだ。

 ウーの叫びとは別に、俺はライフル銃を構えた。

 ほぼ目の前に、巨大な鳥がいた。

 口を開けている。鳥なのに、クチバシの内側に牙がある。


 俺は咄嗟にライフル銃の引金を引いた。

 重い衝撃と破裂音が上がる。

 同時に俺は地面に伏せた。

 倒れた俺の体の上を、巨大な物体が素通りする。


「ギャアァァァァ!」


 鳥らしからぬ叫びに、俺はふたたびライフル銃を構えた。


「ウーが食われた!」


 シルフが教えてくれた。

 ウーは巨大な鳥に、首から上を飲み込まれていた。


「ウー!」


 ウーの体が倒れる。同時に巨大な鳥が力なくのしかかった。


「アアァァァァ!」


 ウーが起き上がる。

 巨大な鳥が、ウーの頭からだらりと垂れ下がっていた。


「ウー!」

「ヒャアアァァァ」

「シルフ、ウーがおかしくなった」

「鳥に食われたんだ!」

「鳥オークですね」


 シルフとアリスが慌てて騒ぐ。俺は逆に冷静になった。


「夜が、夜があぁぁぁぁ!」

「落ち着け」


 俺は、杖を振り回すウーの頭から、噛み付いたまま死亡している鳥の頭を引き抜いた。


「ああ……ソウジ、どうしたんでしょう。突然暗くなって……ゾンビになったのかと思いました」

「ウー、慌てすぎだ。シルフ、アリス、騒ぐな」

「でも……2人が騒いだ効果があったみたいですよ」


 視界が戻った途端に落ち着きを取り戻したウーが、一番騒いでいたのが自分であることを忘れたように、アリスとシルフについて語った。


「効果だと?」

「はい」


 ウーが魔法の杖で指し示した場所から、複数の足音が聞こえてきた。

 下草を踏みしだく、複数の足音だ。


「リザードマンかな?」

「はい」


 俺はライフル銃を魔法の石版に戻し、足音の正体を探った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ