65話 冒険者たち ☆
村長の家は村の中では大きい方だったが、目立って大きな家だというわけではなかった。
行政府の中心というわけではなく、村の有力者が村長に選ばれているのだろう。
母屋と離れがある。俺が聞いた時は、冒険者たちは村長宅の小屋に住んでいると言っていたが、離れに住んでいるのだろうと俺は見当をつけた。
「アリス、もういい。また、用があれば呼ぶ」
「なら、私は常にいなければ……」
アリスの言葉を最後まで聞かず、俺は魔法の石版を近づけ、アリスが俺の懐から消えた。
周囲に人はいない。誰にも見られずにこられたのは、アリスのおかげだ。
冒険者たちは、離れで何をしているのだろうか。
村長の娘カンパリを見殺しにしようとしていたことから考えても、善意のヒーローということはないだろう。
俺の顔は知られていないはずだ。
俺は魔法の石版を取り出し、精神魔法に指をおいたまま、離れの扉を叩いた。
『誰だ?』
扉が開くこともなく、大声で叫ばれた。
「村長の使いです」
『ああ……入れ』
中からぞんざいな声がする。俺が扉を開けると、たくましい肉体を薄着で包んだ男が立ち上がった。
二十代半ばだろうか。俺とあまり変わらないが、俺が以前の異世界でやせ細ったのとは違い、筋骨たくましい。
似たような体格の男が3人に、やや背の低い、太った男が一人、痩せた女が一人いた。5人組の冒険者のようだ。
「用は?」
冒険者たちは、ただ飲み食いを楽しんでいたように見えた。酔っている。男は短くたずねた。
深く考えず、村長の家だから村長の使いだと言ってしまった。
「カンパリが帰ってこない」
「……カンパリ? ああ……あの娘か。村長の依頼だったはずだ。どうして、今更そんなことを言っている?」
「ちょっと待て。そいつ、初めて見るな。村長とはどういう関係だ?」
別の男が近づいてきた。カンパリには、俺自身も騙された。いい印象はない。だが、村長が殺そうとしていたように聞こえる。
「カンパリとは幼馴染だ」
「幼馴染? 怪しいわね。カンパリは、突然村長の娘だって言ってこの村に住み着いたって聞いているけど?」
細身の女が顔をあげた。タバコを吸っているのか、長い木工製品を口にしている。
随分、複雑な人間関係があるようだ。俺はさらに嘘を重ねた。
「ああ。俺は、カンパリを追いかけてきた。村長が父親なのは本当だ。村長……カンパリを殺そうとしたのか?」
「殺そうとしたというか……死んだだろう。残念だな」
目の前の男が、俺の肩を叩く。
「……死体はどこに?」
「リザードマンどもの腹の中だろう」
つまり、まだカンパリが生きていることを知らない。
「そ、村長が君たちに依頼したのか?」
「ああ、そうだ。俺たちは、リザードマンのコロニーを潰しにきたんだが……ついでに邪魔な娘を消してくれって言われてな。俺たちは、ただ依頼をこなしただけだ。文句なら、村長に言え」
「……わかった」
俺は村長宅の離れから退出した。目の前で扉が閉まる。
俺は異世界で、ようやく人間の村にたどり着いた。
人間たちの村は、どうやら悪意で満ちているらしい。
※
冒険者の定義はわからないが、戦闘が本職なのだろう。いずれもたくましく、荒々しいことに長けているように見えた。
俺がいた世界が人間に優しくなかったこともあり、俺は体が細い。元の世界にいる時よりも、明らかに痩せてしまっている。
俺も目的は、金を得ることだ。そのためには、冒険者に取り入るとも手段の一つではあるが、俺が仲間にしてくれと言っても、外見から断られるだろう。
俺は村長に会うことにした。
俺は正義の味方ではない。カンパリに義理もない。もっと言えば、この世界で魔王が勝とうが、勇者と呼ばれる存在が勝とうが、どうでもいい。金を稼いで、溜まったらオーブを壊すのだ。
だが、金儲けの種はどこに転がっているかわからない。陰謀が企まれている場所には、金が絡む。
俺はその可能性にかけたのだ。
俺は、魔法の石版の精神魔法に指を当てたまま、村長宅の母屋に移動した。冒険者たちには、精神魔法を使うまでもなかった。冒険者に精神魔法が有効か、試すべきだったと今になって後悔する。
玄関を叩く。
しばらくして、年配の女が出てきた。
「どなた?」
「カンパリを探しに行った者です」
「まあ……あの子のことは、私たちとは関係ございませんよ」
「死んだ方がいいと?」
「……死ぬために養ってきたなんて……思いたくありませんけどね」
「村長はどこです?」
「まだ帰りませんけど」
俺は、精神魔法をタップした。
「俺は村長の親友です。中で待たせてもらいます」
「あらあら、そうですか。わかりました。どうぞこちらへ」
年配の女は、俺を中に通した。
俺は客間と思われる部屋に通され、お茶とお菓子を出され、村長を待った。
※
俺は村長宅の客間で、ウサギのアリス、エルフのシルフ、オークのウーを呼び出した。
「ここはどこだ?」
「村長の家だ」
「さすが魔法士様です。ついに村長になったのですね……村なんてありましたか?」
シルフの問いに答えた俺の言葉を誤解し、ウーが喜んでから首を捻った。
魔法の石版の中にいる間は、時間が止まっているのだ。呼び出された魔物からは、どのくらい時間が経過しているのかわからない。
俺が村長の家にいるのだと言って、苦労して村長に上り詰めたのだと勘違いしたのだ。
「まだ元の世界には戻っていない。リザードマンに会った場所の近くの村だよ」
俺は、カンパリという少女に騙されたこと、カンパリという少女も殺されそうになっていたこと、冒険者と呼ばれる人間たちに接触したこと、村長の家に魔法で入り込んだことを説明した。
「それで、あたしたちはどうすればいいんだ?」
「村長が来るまで、ゆっくりしていてくれ。アリスから聞いたが……石版の中にいると時間が止まっているから、怪我をした状態で収納されると、出てきても怪我をしたままなんだろう。疲れをとるのにも、怪我から回復するのにも、時間は動いている必要があるだろう」
「そうですね。では……私は栄養を取りましょう」
ウーは言いながら、出されたお茶菓子に手を伸ばした。この中で、お菓子を食べるのはウーだけだ。
ウーは雑食である。オークと豚は、食生活については同じらしい。
「誰か来たら、隠れてくれ。精神魔法を使うが、まだレベルが低い。相手が2人以上いた場合、効果がないかもしれない」
「誰か来たら教えます」
アリスがぱたぱたと耳を動かした。動かしながら、アリスは生けられた花が食べられるかどうか吟味していた。
『あなた、お客様が見えていますよ』
先ほどの年配の女の声が聞こえた。
「来ましたよ」
「ああ……わかっている。隠れて」
俺が命じ、3人が行動する。シルフがシートの陰に、ウーがテーブルの下に、アリスが花瓶の陰に隠れた時、客間の扉が開いた。
※村長の家にいた冒険者のイメージです




