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異世界には村もなかった  作者: 西玉
第2章 ダンジョン攻略編

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63話 異世界の村

 俺は、村の門に立つ兵士に槍を突きつけられた。


「止まれ! 何者だ?」

「えっ……と……」


 何者だと問われるのは、異世界から異世界に来た俺には、とても困る問いかけだ。

 俺が背後を見ると、アリスは美味しそうな草を見つけたらしく、飛び上がって喜んでいた。

 シルフは芋虫を探しているのか土を掘り返し、ピンクオークのウーが頑張れとポーズをとる。


 唯一ウーは俺の味方だが、役に立っているかと言われるとそうでもない。

 俺は、諦めて兵士に向き直った。


「異世界人だ」

「なに? お前……本気か?」


 信じられないのだろう。俺も同感だ。


「敵意はない。それとも……この村は、人間から狙われているのか?」

「いや……このあたりは魔物が多いから、盗賊も出ない」

「なら、俺を警戒することはないだろう」

「……そっちは?」


 兵士は、俺の背後にいる3人に槍を向けた。

 どうやら、初めから見えていたらしい。


「……仲間、といって悪ければ、友達だ。人間に害があるように見えるか?」

「いや……ちょっと待て。ま、魔物は魔物なのだろう。村に入れていいか、確認する必要がある」

「そうか……なら、ちょうどいいんじゃないか?」


 俺と兵士が話している間に、少女カンパリに連れられて、中年の男が走って来ていた。


 ※


 俺の視線を追い、槍を持った兵士が振り向いた。

 その間に、俺はアリスとウーを魔法の石版に収納した。流石に魔物が一緒だと思われると、面倒ごとになりかねないと思ったのだ。


「あたしは?」

「この世界は、ファンタジーに近い。エルフは人間だろう」

「そ、そうか?」


 シルフが照れて自分の顔を両手で隠す。エルフは、世界によっては亜人種とされることが多い。少なくとも、魔物ではないだろうと、俺は勝手に解釈していた。

 シルフの真っ白い肌が、珍しく紅潮していた。


「その男は魔物の手下だ。村に入れるな。殺せ」

「はっ?」


 俺は、つい声を漏らした。あまりにも予想外の言葉だったのだ。


「承知しました」


 門番の兵士が振り向く。


「ソウジ、なんとかしろ」

「わかっている」


 俺は、すぐに魔法の石版から拳銃を取り出した。

 兵士は槍を持っている。短剣では届かない。

 兵士が槍を繰り出した。俺は、魔法の石版の生命魔法をタップした。


 生命魔法のレベルは2になっている。なにができるか、俺は知っている。

 指先に意識を集中し、兵士が槍を繰り出す動作に合わせ、俺の胸が貫かれる寸前に、引き金を引いた。

 おもちゃのような軽い音が上がり、兵士の胸に穴が空いた。

 倒れる。


「ひっ……ひっ!」


 走って来たカンパリが尻餅をつく。連れてきた男が、目を見開いた。


「誰か! 魔王の手下だ!」

「……シルフ、なんのことだ?」

「あの女に騙されたんだ」


 シルフがカンパリを指差した。


「……うん。それはわかっている」


 男の呼びかけに、近くにいたのか、農作業の道具を持った人間たちが数人姿を見せた。

 血を流して倒れた兵士の姿に、村人たちが震え上がった。


「そ、村長、魔王の手下なら……勇者様を……せめて冒険者を呼ぶしかないでしょうが……」


 農民たちが震えている。

 俺は、倒れた兵士を上向きにした。

 事切れていた。


 もともといた世界で、俺の国は平和だった。銃になど、触れたこともなかった。 

 正確に狙えるはずがない。

 だが、兵士にとっては致命傷だった。どうやら、心臓を撃ち抜いてしまったらしい。


 指先に生命魔法の効果を集中させた結果だろうか。

 俺は、石版をタップした。


「立て」


 俺を殺そうとした兵士だ。俺は、同情が湧かなかった。

 俺に命じられ、槍を持った兵士が立ち上がった。

 死んでいた兵士が立ち上がった。

 だが、兵士が死んでいたと知っているのは俺だけだ。


「おお。大丈夫なのか?」


 村長と呼ばれた男が尋ねた。

 俺が使えるのは、死霊魔術レベル1だ。死体を動かす以上のことはできない。

死んだ兵士は振り返り、ただ槍を構えていた。


「ソウジ、どうする?」


 俺が魔物に見えないからと石板にしまわなかった唯一の仲間、シルフが足元で尋ねた。


「俺が助けなければ、カンパリは死んでいたはずだ。その礼がこの扱いというのは納得いかない。直接事情を聞こう。人間を殺せ」


 最後の言葉は、死んだ兵士への命令だ。

 表情に何も浮かべず、ただ死んだ兵士は槍を持ち上げた。

 目の前の村長の胸を貫く。村長を庇ったのか、農民の一人が飛び出し、胸を貫かれて倒れた。


「キャアァァァアーーー!」


 カンパリが悲鳴をあげる。

 俺は、石版に指を当てた。


「お前は、何も見ていない」


 俺の指が向いたカンパリは、どうして口を開けているのかわからないような表情になり、自分の顔をぺたぺたと撫で始めた。


「凄いな」


 シルフが感心する。


「精神魔法だ。人間が相手なら、多分一番効果的だ」


 死んだ兵士は、槍を男の胸から抜き取り、さらに周囲の男たち向かった。見回しはしない。見えているのかどうかも疑わしい。

 ただ、近くにいた男に槍を繰り出した。


 その結果を、俺は見届けなかった。

 シルフを抱え、村長の隣に立っていたカンパリに飛びつく。


 村長を守ろうとした男が、門番の兵士に刺された。その衝撃に、ただの村人だと思われる人間たちは反応できなかった。

 俺は、立ち尽くしているカンパリに再度精神魔法を使用した。


「倒れろ」

「どうして?」


 抵抗された。だが、隙だらけだ。

 俺は肩からカンパリにぶつかり、担ぎ上げて走り出す。

 ずっと門を守っていた門番は死んだ。俺はあえて、村の中に飛び込んだ。


 生命魔法をタップして、足と心臓に意識を向ける。

 村の中に人影はない。活気がないのか、よそ者に警戒しているのかはわからない。

 俺は、たまたま扉が開いていた小屋に飛び込んだ。


 牛が飼われていた。

 臭い。牛舎だ。

 だが、この世界には牛がいる。


 俺がいた異世界では、見たことがなかった。山羊はいたが、牛は見たことはなかった。

 牛舎は二頭の牛がいるだけで、隅に乾草が積み上げられていた。牛の餌だろう。


 俺は、抱えていたカンパリを投げ捨てた。

 シルフを下ろす。

 精神魔法をタップする。


「俺は、君の友達だ」

「ああ……そうね。友達よ。もちろん」


 カンパリは、乾草の上に体を起こして座った。シルフは警戒している。尖った石を構えているのは、シルフにとっての便利な道具であり、武器なのだ。


「どうして俺を騙した? 俺を売って、何の得がある?」

「……別に、騙したりはしていないわ。だってあなた……リザードマンの巣を潰す冒険者様の計画を潰したじゃない。冒険者様の邪魔をするなら、魔王の仲間でしょう?」


「君の友達なのに?」

「友情とは別ものよ」


 俺の問いに、カンパリは言った。精神魔法は強力だが、扱いが難しい。人間相手の場合、その難しさが増すようだ。


「リザードマンの巣を潰すって……カンパリはそのために死ぬところだったんだぞ」

「殺されないわ。リザードマンは、生きたまま獲物を住処に連れて行って、生きたまま一族総出で食べるのよ。私は、リザードマンの巣に連れていかれて、後をつけた冒険者様たちがリザードマンを一網打尽にする予定だったのに……」


「シルフ、あの時、近くにほかの人間がいたか?」

「いや」

「魔法的な隠ぺい方法が使用されていたか……カンパリが騙されているのか、どちらかだろうな」


「私が騙されたって、どうして?」

「その冒険者様は、もともと、お前を見捨てるつもりだったんじゃないか? つまり、カンパリを殺そうとしていたんだ」

「まさか……そうなの?」


 カンパリが、顔色を青くする。

 俺にはわからない。これ以上話すことはない。

 俺が命じると、カンパリは眠りに落ちた。


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