表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界には村もなかった  作者: 西玉
第2章 ダンジョン攻略編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/163

61話 ダンジョン 2つ目

 俺は草原にいた。

 柔らかく風になびく草に覆われた大地に、俺は立っていた。

 ここはダンジョンの中だ。


 ダンジョンの中では、魔法の石版の画面には、ダンジョンの位置ではなくオーブの位置が表示される。

 ダンジョンを示す光とオーブを示す光は違い、俺の持つ石板の画面は、かつてゾンビで溢れる異世界で見たものと酷似していた。


 周囲の地形も、敵の位置も表示しない画面を出しておいてもしかたがない。

 最初のダンジョンは、一刻もはやく脱出しなければならない異世界だった。

 今度のダンジョンがそうだとは限らない。


 むしろ、俺はそもそもダンジョンには金貨を稼ぐために来たのだ。

 急いでオーブを壊しに行く理由はない。

 気持ちのいい風を感じながら、俺は石板の魔物画面をタップした。

 俺の足元に、ウサギのアリスとエルフのシルフ、オークのウーがまろび出た。


「わあい。美味しい草がいっぱいですね」


 アリスは歓声をあげ、柔らかい草に噛み付いた。


「ソウジ、ここはダンジョンの中かい? 魂の中に入っている間は、記憶がなくなるんだ」

「ああ……洞窟にいたはずですもんね。でも……魂の結晶に入れて、場所を変えただけで元の世界かもしれません。本当に、ダンジョンの中なんですか?」


 オークのウーは、円らな瞳で俺を見つめた。


「証明しろとか言わないでくれよ。俺だって、ダンジョンに入ってみるまで、どんな異世界なのかわからないんだ。オーブのある方向だけはわかっている。だから……今回は逆に行こう」


 俺が、オーブのある方向とは逆を指差すと、ウーが鼻を鳴らした。


「どうしてです? 魔法士は、ダンジョンを攻略しないといけないのに」

「俺は、ヒナっていう人間の女をドラゴンから買い戻すために、金貨を集めなくちゃならないんだ。オーブを壊すのは、金貨を集めてからだよ。前回のダンジョンには……そもそも金貨なんかなかったんだ」

「でも……」


 ウーの脚を、シルフが突いたのが見えた。俺は、魔法の石板をスクロールさせ、生命魔法をタップし、耳に意識を集中させた。


「ソウジは、目的がはっきりしているから信用できる。目的もない魔法士がダンジョンに入ったって、オーブを壊そうとするとは限らない。でもソウジなら、金貨を集めたら、絶対にオーブを壊す」

「……わかりました。私も、微力ながら協力しましょう」


 俺が耳に意識を集中させていると、2人の話しがまとまったようだ。

 ウーは、オークにしては珍しく、ペット用の豚である。持っているのは武器ではなく、石がついた杖だ。勇ましく杖を構えても、おそらく戦闘では役に立たない。


「うん……アリス、満足したら自慢の耳であたりを探ってくれ。俺たちを襲ってくるような生物がいないかどうか、注意してくれ」


 アリスは、まるでリスのように頬を脹めて草を食んでいた。


「私たちには襲いかかって来ませんけど……襲われている人がいますね」

「どこだ?」

「あっちだよ」


 指差したのは、アリスとシルフとウーがほぼ同時だった。

 つまり、俺以外には全員聞こえていたのだ。

 生命魔法で強化しても、聴覚は野生の動物には敵わないということか。


「聞こえていたなら、早く言え」

「だって、怖いじゃないですか」

「襲われているのは、人間ですよ」

「ここがダンジョンなら、魔法士はいない。あたしたちが助ける理由はない」


 アリス、ウー、シルフの順に言い訳をする。


「この世界のことを知るには、この世界の人間に聞くしかないだろう」


 俺は走り出した。


「おい。慌てるなよ」

「早く来い」


 文句を言うシルフに俺は言い返した。

 急いで走る。アリスたちにいつから悲鳴が聞こえていたのかわからないが、すでに手遅れということもある。


 もっとも、この世界にどんな生物がいるのか、まだ全くわからない。

 悲鳴を発した人間というのが、本当に人間の姿をしているという保証もない。

 俺は、大量の不安を抱えながら、ただ祈るような気持ちで脚を動かした。


 草の丈が徐々に高くなり、掻き分けないと前に進めなくなって来た。

 俺の身長よりも高い草を分けた先に、草むらに消えて行こうとしていた女の姿を認めた。

 引きずられていく。意識を失っているか、死んでいる。


 草むらに両手をあげた姿勢で引きずられていったということは、その人間を捉えた何者かがいるということだ。

 女の姿が草の中に消えた。


 女は服を着ていた。この世界の人間は、少なくとも、俺がいた世界と同等程度の文明は持っているはずだ。

 ならば、話もできるだろう。


「おい、待て!」


 俺は呼び止めたが、すでに女は草むらに消えている。

 しばらくして、高い草しか見えない場所で、ごそごそと動く音が聞こえた。

 草が揺れる。

 左右に別れた丈の高い草の間から、鱗に覆われた上下の顎が突き出ていた。


「何の用だ?」

「その人をどうする?」


 草を分け、全身を見せたのは、二足歩行の爬虫類だった。

 爬虫類は喋った。ここは俺が転移した異世界から、さらにダンジョンとして潜った別の異世界のはずだが、問題なく言葉を理解できた。


「獲物だ。食らう。質問しているのは……食べ方か? 半分は刺身で、もう半分は腐らせてから食らう」


 二足歩行の爬虫類は、当然のことのように答えた。


「いや、食べ方はどうでもいい。人間だろう?」

「そうだな」

「俺もそうだ」


「それがどうした?」

「同族だ。助けさせてもらう」

「それは……こういうことか?」


 爬虫類の外見を持つ者は、剣を抜いた。粗雑な作りだが、剣だとわかる。

 逆の手には盾もある。背中には槍もくくりつけてある。


「ソウジ、人間はいたかい?」


 背後から、アリスを頭に乗せたシルフが顔を出した。


「ああ。それ以外にもいた」

「リザードマンですね」


 シルフの頭に張り付いていたアリスが、二本足の爬虫類を見るなり言った。


「んっ? お前の仲間か?」


 アリスがリザードマンと呼んだ二足歩行のトカゲは、シルフとアリスを見て言った。トカゲの表情は分かりにくいが、驚いているようだ。ソウジは答える。


「そうだ」

「なんだ。お前は人間でも、仲間は魔物じゃないか。お前はどっちだ? 魔物の味方をする人間か? それとも、魔物を洗脳した人間か?」

「魔物の味方をする人間ですよ」


 最後に、オークのウーが姿を見せる。


「いや……違うと思うが……」

「ドラゴンたちに言われてダンジョンを攻略しているんだから、魔物の味方をする人間だよ」


 シルフは断言する。俺も思い出した。俺以外の魔法士は、ドラゴンの言う通りに誰もしていないのだ。


「どっちでもいい」


 尋ねたはずのリザードマンは、剣の先をウーに向けた。


「どういうつもりだ?」

「美味そうだ」

「わ、私を食べるつもりですか?」


「ああ」

「待て……ウーのことを美味そうだと言うなら、もっといいものがある」


 俺は、アイテムの中から、ダンジョンに入る直前に手に入れたアイテムを取り出した。

 俺たちの前に、新鮮なオークの巨大な死体が出現した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ