60話 新しい仲間 ☆
俺がアリスとシルフを連れて洞窟に戻ると、小柄なオークが正座をして待っていた。
「僕の同胞たちが、ご迷惑をお掛けしました」
俺は、俺が殺したオークと正座をしているオークを見比べた。
ただ小柄なだけではない。
俺が殺した方は、全身を剛毛が覆っており、首から上は荒々しいイノシシに近い。
だが、正座をしているオークは、首から上が絵本に出てくるようなピンク色の豚だ。
「……同じ種類か?」
「はい。僕はオークウィザードです。魔法士を導く役割を仰せつかっていますが……あなたにはすでにエルフとウサギが付いているようですね」
「ウィザード? 魔法を使えるのか?」
俺は驚いた。魔法とは、石版をタップして使用するものだと思っていた。
オークは杖を見せた。
「はい。この杖の先端に使われている魔導石は、魔法士の持つ魂の結晶と同じで、私の魂と連動しています。この杖を介してのみ、魔法を使用することができます」
「……へぇ。すごいな」
感心したのはシルフだ。同じ魔法士を導く魔物としては、シルフは食べられる芋虫を見つけることぐらいしかできないのだ。
「傷を直したり、力を強化したり……できるのか?」
「もっと色々できますよ。光らせたり、火をつけたりできます」
「……便利だな」
魔法の石版より、汎用性が高そうだ。
「杖の結晶部分でしか魔法が発動しないので、杖が触れている部分しか力は強くなりませんし、結晶部分が熱を持って火がつくまで、時間はかかりますけどね」
「……そうか」
なんとなく微妙な魔法だ。
「ソウジ、仲間にしたらどうです? 魔法士を導く魔物はいっぱいいるんです。でも、導かれる魔法士はほとんどが勇者側につくので、とても退屈なんです」
アリスが横に寝そべりながら言った。すぐ横に荒々しいオークの死体が転がっている割には、豪胆なことだ。
「一つ……質問してもいいか?」
「なんでしょう?」
「オオカミが来たらどうする?」
「レンガで家を作ります」
「なるほど、堅実だ。俺と来るかい? 俺はこれから、ダンジョンに入る」
「わあっ……本当にダンジョンを攻略する魔法士なんですね。えっ? これから? ダンジョンはどこにあるんですか?」
ピンクのオークが目をキラキラと輝かせた。
「そうですよ、ソウジ、ダンジョンはどこにあるんです?」
アリスがいらだたしげに前足で地面を叩いた。当然迫力はない。
「シルフはわかるか?」
「わからない。どこだい?」
「ここだよ」
俺は、自分の背後を指差した。
「何もないよ」
シルフが俺の体をよじ登り、背後の壁をペタペタと叩く。
「最初のダンジョンでわかっただろう。ダンジョンに入るには、魔法士の魂の結晶が必要なんだ。俺の魂の結晶……魔法の石版は、ここにダンジョンの入り口があることを示している。地図をタップすれば、ダンジョンに入れる」
「わあ、すごい。またダンジョンに挑むんですね。ダンジョンに入るには、魂の結晶の覚醒が必要なはずです。では……ソウジさんでしたか、ドラゴンに認められたのですね?」
「ああ……ドラゴンに金貨500枚の借金をしている」
「素晴らしい。そうか……魔法士に借金をさせれば、みんなダンジョンに挑むようになるんですね」
ピンクのオークが興奮で震える。シルフが細い手で、オークにしては小柄だが、シルフよりはとてもがっしりした肩を叩いた。
「そんな変わった奴、ソウジだけだよ」
「そうですよ。私の友達なんて……魔法士に近づくとみんな食べられちゃいましたよ」
アリスが残酷な過去を思い出す。
「あっ……僕も同じだ」
オークが青ざめた。魔法士を導くオークも、複数いたのだろう。たぶん、食われた。
見た目は豚だ。食った魔法士を責めることはできない。
「ほかの魔法士を探して、ダンジョンを攻略するよう導くのもいいだろう。でも……俺は一緒に来て欲しい。オークさん……名前は?」
「えっ? 名前があるのは、ドラゴンだけですよ」
「この2人にはある」
「ソウジがつければいいですよ。私がつけてもいいですけど」
アリスが体を起こす。
「……お願いします」
オークは、俺に跪いた。
「なら……オークの君は、これからウーと名乗るといい」
出典は3匹の子豚、末の弟だ。さっき、オオカミが来たらレンガの家を作ると答えた時から決めていたのだ。
「ありがとうございます。魔法士ソウジ」
ウーは言うと、地面に鼻が触れるほど、深々と頭を下げた。
※
ダンジョンに挑むことに誰も異存はなかった。
俺はとにかく金貨を集めなければいけない。前回のダンジョンでは残念だったが、この世界にはそもそも貨幣がほとんど使用されていないようだ。ダンジョンに潜る以外に方法はなさそうだ。
新しく仲間になったウーを見ると、ダンジョンの攻略をとても喜んでいる。
魔物は、魔法士を導く為に生み出されるか、魔法士から勇者となった人間を殺す為に生み出されるかのどちらかに別れるらしい。
まだまだ、俺の知らないこの世界の秘密がありそうだが、知能が高い魔物ほどダンジョン攻略に積極的なのは、ダンジョンで壊す必要があるオーブの正体と関係しているのかもしれない。
情報を整理して、俺は魔法の石版を覗き込んだ。
「せっかく新しい魔法を覚えたんだ。ちょっと試して見よう」
「新しい魔法? ダンジョンで覚えたんですか?」
ウーが瞳を輝かせた。見た目は二足歩行の豚である。人間を襲う様には見えない。ペットとして飼われる豚を想像させる。
「ああ……使ってみる」
「どんなのです?」
「死霊魔法レベル1」
「ええっ……そんな魔法、どんな異世界にいけば覚えるんです?」
「ゾンビだらけのダンジョンだった」
シルフが言うと、アリスが前脚を前に出してゾンビの真似をする。だが、アリスは単純にウサギなので、ただ短い脚を前に出した以上のものではない。
爆発魔法もあるが、戦闘でしか出番はないだろう。
俺は、死霊魔法をタップして、俺が死体に変えたオークの一頭に意識を向けた。
奇妙な感覚を覚えた。
まるで、死んだオークと俺に、繋がりができたような感じだ。
似た感覚は知っている。
精神魔法を使うとき、精神を操作しようとする相手との繋がりを感じる。
生命魔法でも同じだ。
魔法を覚えたての、この世界に来たばかりのころは、何も感じなかった。
魔法のレベルは上がっていないが、使用しているうちに魔法を使うという感覚に馴染んで来たのだろう。
「立て」
俺が言うと、死んでいたオークが体を起こした。
「ひえっ!」
「し、死んでいたはずですよ」
「二人とも、落ち着いて。ソウジの魔法です」
動く死体に恐慌に陥るシルフとアリスを、ウーがなだめる。
いい仲間を持った。俺はウーを仲間にして良かったと心底思った。
俺がウーに感謝している間に、オークは立ち上がった。
「ウー……こいつはゾンビか?」
「……いえ。ゾンビというのは魔物の一種です。ある程度の複雑な命令でも実行できます。これは……ただ死体が動いているだけだと思います。でも……レベル1で死体を動かすなんて凄いですよ……多分」
「ソウジ、命令してみてよ」
シルフが、俺の足に隠れながら言った。
「よし……じゃあ、回れ」
オークの死体が、足を動かしてゆっくりと回転する。
「ひゃあ……凄い」
アリスはシルフの頭に乗って震えている。
「複雑な命令をしてみてください。きっと、何もできません」
ウーの提案は現実的だ。
「……ふむ。外に出て、動物を狩ってこい」
オークの死体は動かない。
「どうしたんだ? 外に出るぐらいはできるだろう」
シルフが尋ねる。俺もそう感じた。
「外というのが、どこなのかわからないのでしょう。右か左で言わないと、わからないのではないでしょうか」
「ウーのいう通りだとすると……死体を運ぶ手間が省けるぐらいしか役に立たないな。ゾンビにすれば、もっと有効に活用できるのだろうが……」
「そんなことはありません」
ウーは首を振る。
「このままでも、役に立つのか?」
「ゾンビになってしまった魔物は食べられません。ですが、動いている死体なら食料にできます」
「……同族喰いだろ?」
「……気にしますか?」
ウーは不思議そうに俺を見る。俺は気にする。
シルフは、肉の類は虫しか食べない。アリスに至っては、草しか食べない。ウーは、ピンク色をしている豚ではあってもオークだ。エルフやウサギとは、感覚が違うのかもしれない。
「まあ……収納しておくか……」
俺が命じると、オークの死体が手を伸ばした。魔法の石版の画面に触れて、消滅した。
「えっ? オークの死体はどこにいったんです?」
「ソウジの魂の中だよ」
ウーの問いに、シルフが解説する。
「そう言われると、なんだか気分が悪いな」
魔法の石版を覗くと、空白の魔物を収納するページに動くオークの死体が収納されていた。
ついでに、まだ死んだまま動かないオークも収納してみる。
今度は、持ち物に分類された。
「……魔法士って、そんなこともできるんですね」
ウーが感心してくれたようだ。
「ソウジ、もうダンジョンに行くのか?」
「そうだな。さっき逃げて行った女は、ダンジョンを攻略するのに反対だったようだし、仲間を連れて戻ってくるかもしれない。そろそろ、ダンジョンに行こう」
「じゃあ……あたしもそこに入る」
「入らなくてもいいだろう」
「ダンジョンがどんな異世界になっているかわからないだろう。いきなりでっかい魔物に食われるかもしれない。ソウジなら、あたしをそんな危険な目にあわせないだろう?」
「……わかったよ」
俺が魔法の石版を差し出すと、画面に触れてシルフが消えた。
「……えっ? さっきのエルフさんは?」
「ソウジの魂の中です。では、私も」
アリスがジャンプして、俺の持つ魔法の石版に吸い込まれる。
「ど、どうなっているんです?」
「オークの死体が消えたのと一緒だ。ウーも、魔法士のことはあまり知らないのか?」
「……ええ。そんなことができるなんて……聞いていません」
「ドラゴン兵に会って、これの機能を解放するとできるようになるらしい」
「どうなっているんですか?」
ウーが尋ねたので、俺は魔法の石版を近づけた。
ウーが覗き込み、突き出た鼻先が触れた。
途端に、ウーの姿が消える。
「……うん。ウーも俺の仲間になったってことだな」
俺は納得し、ダンジョン画面を呼び出す。
ダンジョンにタップすると、白い光に包まれた。




